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究極のイカ墨チーズもんじゃ

その日指定された店は、渋谷だった。
渋谷には昔よく行っていたが、渋谷は若者の街なので、あまり「う、美味い!」と唸るようなものが少ないと言う印象がある。

その隣の恵比寿には、いくらでも美味いものがあるし、恵比寿と六本木の中間にある西麻布は、それこそ芸能人やら実業家やらが行きつけにしてる名店がいくらでもある。

それに比べると、渋谷は少し狭くて、若者で溢れていて、それは要するにタクシーを捕まえにくいとか、タクシーで乗り付けにくいとか、要は高級店が店を構えにくいと言う欠点につながる。

もちろん、道玄坂とか、ちょっと奥まったところに行くとそれはそれで名店があったりするのだが、それは非常にレアなケースであって基本的には若者向けの、ファーストフード店やチェーン店が多い。

ただ、最近は渋谷も再開発されてGoogleの本社が置かれるようになったりして雰囲気が変わってきた。

とはいえ・・・

「渋谷かあ・・・」

まあなかなかテンションは上がらない。
しかし、いろんな事情から渋谷で落ちあうことになったんだから文句は言えまい。

それと一つ、なんとなくだが店の名前に聞き覚えがあった。
それが一体なんの店なのか、行ってみるまでわからなかったが。

渋谷スクランブルスクウェアの上層階にあるそのお店、「MOHEJI」は、パッと見はオシャレなスペインバルといったいでたちだった。

先に店に入ると、このお店が、外見の印象と全く異なり、実はもんじゃ焼きの店だと知る。なるほど。渋谷の若者志向、高級志向に寄せてきたわけか。

渋谷駅でも明治通り側は、少し足を伸ばせばすぐに恵比寿が見えてくる。246を登れば、やはり名店が多い表参道だ。

ここいらは渋谷の中でも少しだけ高級感のある場所で、よく見るとこのフロアには高級店がずらりと並んでいた。

その中にあって、もんじゃ焼きのお店というのは意外性があるが、決して高級すぎない値段設定になっていて好感が持てる。

追っ付け、待ち合わせの相手が現れて、とりあえずメニューを見ると、一人が言った。

「俺、もんじゃ詳しくないんだよね」

じゃあなぜ選んだ。
理由を聞くと、彼が三軒茶屋のバーで時々会う女の子が、このお店でバイトをしていると聞いたから来てみたかったそうだ。

すごい理由だ。
早速店員にその子の名前を尋ねると、アルバイトは100人以上いるからとても把握できていないのだという。そりゃそうだ。

「清水さん選んでよ」

それで改めてメニューを見て、「イカ墨のもんじゃ焼き」という項目に目が止まった。

「イカ墨のもんじゃ焼きって美味しいんだよね・・・」

それで記憶が蘇ってきたのだ。
そういえば、以前、世界初のもんじゃ自販機というのでイカ墨のもんじゃを食べた。過去の記事でも紹介してる

ということは、この「MOHEJI」は、月島の海鮮もんじゃの店「もへじ」のことか!

自販機のイカ墨もんじゃは別の「おこげ」という店のものだったが、もんじゃの本場として浅草と双璧を成す月島の有名店ということで俄然テンションが上がってきた。

まずは挨拶がわりにカキオコをオーダー。

カキオコは、東京ではあまり知られていないが、岡山の郷土料理で、牡蠣たっぷりのお好み焼きを醤油ベースのタレでまとめたもの。

お好み焼きというと、何でもかんでもソースとマヨネーズの味になってしまうが、カキオコでは牡蠣本来の味を醤油が引き立てるのでお好み焼きとほとんど同じ材料でありながら非常に芳醇かつ上品な味わいが楽しめる。

カキオコはお店によってアレンジがちがうので、その味の違いも楽しめる。

この「もへじ」さんのカキオコも独特のアレンジが効いていたがこれはこれで美味い。

「あ、これは美味いっすねー」

新鮮な味わいに評判は上々。しかし今回の主役はもちろん、イカ墨チーズもんじゃである。

イカ墨チーズもんじゃ

イカ墨のリゾット状のご飯を具材として、クリーミィな出汁でまとめる。
そもそも、イカ墨のリゾットといえばイタリア料理クッチーナ・イタリアーナでは定番の組み合わせだし、フランスを挟んでスペイン料理コミダ・エスパニョラのパエリアでも定番。

つまり、焼いても煮ても美味しいというのがイカ墨とコメの組み合わせというわけだ。そしてもんじゃであればその両方のテイストが楽しめる。

「もへじ」では店員さんが目の前でもんじゃを仕上げてくれるので初心者でも安心して食べることができる。

土手を作ってイカ墨を投入してバターを乗せる。トマトが具材にあるのが見える。このトマトがまたイタリアンテイストを追加する。

そこにクリーミィな出し汁を追加

これぞ日伊西の文化の融合。
この時点でイカ墨が熱せされ、他のどんなもんじゃ焼きにもない、なんともいえないいい香りが漂ってくる。

焼き上がってきたら混ぜて薄く伸ばして・・・

チーズをたっぷりかける。
チーズはもんじゃにはなくてはならないトッピングの一つ。
その上、イカ墨にチーズが合わないわけがない。

最後に追いバターをして、出来上がり。
海の幸であるイカ墨と里で取れたコメとトマト、そして山の恵みであるバターとチーズの三重奏。
陸海空と揃ったある種の芸術的なもんじゃ焼きの完成だ。

この味を説明するのはなかなか難しい。
そもそもイカ墨の強い旨味と、バターとチーズ、そしてそれらを受け止める触媒としての米。まあ美味いです。

むしろスペインの方とイタリアの方に食べていただきたい。
怒られるかもしれないけど。

どちらかというと和食要素があるのは出汁だけかな。
美味かった。