グレーレンズマン
普通任務を解除された俺は、いわばグレーレンズマンである。
日々、人類の科学の発展に貢献するために東京ドーム前のマクドナルドから順天堂大学周辺のマンションや大学内にエネルギー供給を行う任務を自主的にこなしている。
UberEats配達員というのは、基本的にすべてレンズマンと言える。いつ、どのように、どのくらい働くのかが全て任されている。
レンズマンたちは自らの運動エネルギーを位置エネルギーに変換し、エネルギーが凝縮された燃料モジュール(バリューセットなど)を安全に届ける。途中、山賊や通りすがりの小学生などの妨害を精神エネルギーで跳ね除け、時には危険(主に業務用エレベーターの渋滞)を顧みず、デルゴン貴族の宮殿にも配達する。
我々にとって配達とは、戦いであり、大学の研究者たちが人類を救うための研究に没頭していただくため、自らの鉄身の五体を捧げ、内なる中性脂肪を運動エネルギーに変換し、明日の人類の発展に貢献する崇高な使命を帯びている。
そう、配達員とはレンズマンなのだ。
配達は創意工夫の連続だ。工夫のない者はグレーレンズマンとして生きることは許されない。
CoCo壱番屋のカレーをどのように安全に運搬するか。
ついでにダブルで受け取ってしまった冷やし中華とココイチのカレーの間をどう断熱するか。緩衝材はどうするか。運搬ルートは?
アプリに表示された地図は役に立たないことも多い。
必然的に道に詳しくなり、交通量の多い大通りを避け、最適化されたルートを選択できるようになる。
マックの前でたむろっているものはグレーレンズマンではない。真の配達員に休息する暇などないのだ。今日もどこかで誰かがお腹を空かせている。それを俺は運ぶ。グレーレンズマンとして。
以前は、毎週パーソナルトレーナーのジムに通っていた。
85kgのバーベルでスクワットできるようになるのは快感だった。
オリンピック強化委員であり、自身もボディビルの金メダリストであるトレーナーの指導は厳しいが的確で、僕自身も非常にそれを楽しめた。しかし今思えば、それは贅沢すぎる余興だった。
川田トムさんが、どうしてもやってくれというのでデスストランディングをやった。主に荷物をA地点からB地点へ運ぶゲームである。
このゲーム、工夫するところがほとんどない。工夫のように思えることも、それは結局はあらかじめ答えの用意された問題である。
日本テレビの佐野さんという方と初めてお会いした時、アメフトの話を熱く語っていたことが忘れられない。おもわず午前四時ごろまでアメフトの話を夢中になって聞いたほどだ。
彼は京大アメフト部の名クォーターバックで、当時は有名な監督が京大アメフト部を日本最強のチームにしていた。
当時の監督は、入部希望者の前で決まってこう言ったそうだ。
「世間じゃお前らみたいに京大に入ると頭がいいと言われとるらしい。俺に言わせれば、お前らは全員さほど賢いとは言えない。お前らが突破してきた受験は、所詮は答えの用意されたものだ。しかしアメフトで全国制覇すること。これには明確な答えは何もない。誰も答えを用意してくれない。俺だって答えはわからん。だが答えを求める方法を、俺は知っている。その誰も解けない問題を解く方法を、俺が教えてやる」
UberEats配達員として金を稼ぐ方法は、一つではない。答えは全く用意されていない。ただゴールに辿り着くことは容易く思えるが、実際には難しい。UberEatsはうまくやれば時給3000円も不可能ではないが、うまくやらなければ時給300円を切ることもあり得る。
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