みんな輝け!AIフェスティバル2024(後編)
目が覚めると、午前五時だった。
昨日は技研バーでイベントをやった後、帰ってきたのは2時くらいのはずだ。
なのに五時に目が覚めた。
気分が昂っていて眠りが浅いのだ。
果たして今日、お客さんは来てくれるのだろうか。
とりあえず八時に会場に着くと、開いてない。
二日目は九時から準備に入るらしい。
考えてみれば、そりゃそうか。
今日は長い一日になる。
そう思うと、久しぶりにロイヤルホストに行きたくなった。
ロイホのモーニングメニュー。
オニオングラタンスープとオムレツ
俺は隙あらばパンケーキを食う。そう言う人間だからだ。
と言っても、ロイヤルホストに来たのはハタチの頃、バイト先のゲーム会社が三鷹にあった時以来だ。
ロイホってこんなに美味いのかと美味しさを噛み締める。
ロイホでお腹いっぱいになって会場に繰り出す。
この時の精神状態は結構落ち着いていた。
それは写真がブレてないことからわかる。
二日目の朝はAR三兄弟の川田十夢さん、メディアアーティストの水落大さん、そしてゲームAI研究者の三宅陽一郎さんを招き、司会はLuckyFMで一緒に番組をやっている相棒、瀧口友里奈に頼んだ。
やはり土曜の朝、昨日の落合陽一ほどの勢いはない。
本来は川田十夢は基調講演を頼むべき人間だ。
でも今回だけはパネリストとしてアートを語り合って欲しかった。
なぜならこのパネルにとって最も重要な聴衆は、一般のお客様ではなくAIアートグランプリのファイナリストたちだからだ。
AIアートグランプリは、多数の応募の中から10人のファイナリストを選ぶ。AIアートのレベルがあまりにも上がっており、尚且つAIアートグランプリのレベルも天井知らずに上がっているため、応募作品は例年に比べると減っているが、正直言って全てが僅差であり、審査員も悩みに悩み抜いてファイナリストを選んでいる。
ファイナリストはその時点で佳作以上が確定しており、既に勝利者だ。その中から、グランプリ1名と優秀賞3名、そして審査会特別賞1名が選ばれる。
既に第一回のグランプリである松岡公也さんは台湾の芸術祭で審査員を務めたり、彼の人生を映画化する話が複数きたりと人生が変わってしまっている。グランプリに限らず、過去の受賞者はその後の人生に大きな変化が訪れる。
だからこそ、プロのアーティストとして生きる川田十夢の話を、等身大で聞いて欲しかった。
水落大さんは会社員をしながらメディアアーティストとして活躍している人で、プロのアーティストである川田十夢や落合陽一に比べると一般の人にも話が理解しやすい。何しろ会社員というのはまともな人間じゃないとできない。
水落さんは僭越そうにしていたが、多分ファイナリストたちが一番共感できるのは水落さんだろう。だから敢えて水落さんと川田十夢を横に並べてみた。
しかしこれではあまりにもアート要素が強すぎ、AI要素が薄すぎるので、もう一人、会社員で尚且つAIの専門家である三宅陽一郎さんに入ってもらった。
三宅さんはゲーム会社にいながらAIの研究者として高明な人だ。
彼はディープラーニングがブームになるずっと前から、ゲームというフィールドでAIを研究してきた。僕が一番共感できる人だ。
僕が18歳の頃、人工知能を作る仕事はごくわずかな例外を除けばゲーム会社にしかなかった。ゲームの場合、「面白ければなんでもあり」が許されるが、それ以外の世界では、「役に立たなければダメ」と言われている時代で、人工知能が何かの役に立つと考えられてはいなかった。
僕が2003年に最初の会社を起業した時、定款には「人工知能の開発」と書いておいたが、実際にそれが自分が生きているうちに実現するとは夢にも思わなかった。
今年のノーベル賞を取ったデミス・ハサビスも僕と同世代で、やはりゲーム開発をやっていた。
AIの研究がしたい人が生活のために仕方なくゲームを作る時代がかつてあったのである。その中で、三宅さんは一番の成功者だ。
彼らのおかげで、土曜の朝だというのに沢山の人が集まってくれた。
次のセッションは、「ハッカソン優勝チームの集い」。これが「奇跡2」だ。
ハッカソンに参加したチームは基本的に全員無名だ。無名の人たちをステージに上げて輝かせる。それがこのイベントの目的なのだ。
川田十夢、三宅陽一郎、水落大といった綺羅星の如きスターたちの講演の直後、果たしてお客さんは残ってくれるのか。どれだけ輝かせてくれるのか。
不安で心配だったが、その心配は杞憂に終わった。
むしろ「ハッカソン優勝チームの集い」は大いに盛り上がった。
本来は裏方なのだが、東京、大阪、福岡の三都市で行った24時間AIハッカソンの運営を全て担当してくれた大沼功さんにもステージに上がってもらい、現場の雰囲気を伝えてもらった。
気がつくと、なぜか大沼さんが激しくヘッドバンキングをしていた。
福岡の優勝チーム、捗dleが開発したヘッドバンキングゲームのデモだった。
僕も福岡で当日にこれを体験したが、しばらく酔って大変なことになったのを覚えている。
体張ってんな。大沼さん。
そしてついに、AIアートグランプリの最終審査会が始まる。
AIアートグランプリの面白いところは、まさにこの一戦にある。
単に作品の出来・不出来を評価するのではなく、その作品の制作プロセス、そして作品に載せられた思いをプレゼンテーションによって審査する。これが本大会が他のどのアートコンテストとも違う特色になっている。
明日のスーパースターを探し、スポットライトを当てる。
これがこのイベント全体の目標なのだ。
司会は女優のいとうまい子。
ミス・マガジン初代グランプリ、その後数々のドラマ、映画に出演し、ヒロインといえば伊藤まい子、という時代を作った。文句なしのスーパースターである。
開始前、控え室に挨拶に行った。
「まい子さん、今日、ここで新しいスターが生まれます。ぜひ彼らを輝かせてください」
「りょうちゃん、任せて。『スター誕生!』ね」
スターを産むには、本物のスターの輝きが必要。
だからこそ、本物のスターであるいとうまい子さんがこの大会には必要だった。
イベントの冒頭で河口洋一郎審査委員長が挨拶をする。
河口洋一郎先生は、メディアアーティストの先駆けとして、1987年、アルス・エレクトロニカが最初に独立した年に、Anerkennungとして作品が認められ、その後、メディアアーティストとして、2000年からは東京大学教授として活動し、2010年にはSIGGRAPHから史上三人目の「Distinguished Artist Award for Lifetime Achievement in Digital Art」を受賞、さらに2013年に紫綬褒章、昨年2023年は文化功労者の称号を受けた。
河口先生は文化庁メディア芸術祭の実行委員として長年活躍してきた。
AIアートグランプリが生まれる直前に、1995年から25年も続いた文化庁メディア芸術祭は終了してしまった。
僕がAIアートグランプリを企画したのはちょうどその頃だった。
河口洋一郎先生と同じく実行委員を務めた映画監督の樋口真嗣の二人が、「とにかく文化庁メディア芸術祭がなくなってしまったら次はどうするべきか」を真剣に考え、僕は大阪に呼ばれて「文化庁メディア芸術祭」の最後のイベントを看取ることになった。
この時に見た、樋口真嗣の芸術祭への熱い想い、なぜ芸術祭が必要で、なぜまだ見ぬスターにスポットライトを当て、生み出す必要があるのか。
河口洋一郎先生と樋口真嗣にとって、AIアートグランプリは文化庁メディア芸術祭の精神的後継なのだ。
なぜ忙しい河口先生と樋口真嗣がこのグランプリの審査員という、かなり面倒な仕事を二つ返事で引き受けてくれたのか、この時初めてわかった。
そういう想いの込められたコンテストである。
集まった10作品、10人のファイナリスト、中には海外から応募し、わざわざ飛行機で来たファイナリストもいた。
その様子はぜひ直接、Youtubeで見てほしい。
今度のグランプリも、本当にすごい。全部すごい。