ど素人のピュアオーディオ入門(29) テスラvsエジソンの戦い再び!直流は本当にいい音が出せるのか!?技研バーで検証
このシリーズ、正直、こんなに長く続くとは思っていなかった。
従来の読者の中でも、「さっぱりわからん」という人と「すげー楽しみにしてる」という人に二分される、かなり読者を選ぶコンテンツであることは間違いない。
そんな折、技研バーで問題が発生していた。
技研バーは、基本的にコワーキングスペースである技研ベースで、昼間はカレー屋さんをやっていて、週末の金曜と土曜の夜だけバー営業してみようということで始まった。
のだが、技研バーのプロデュースをする上で、あらゆる門外漢が飲食店を始める時のミスを犯してしまった。
このミスに気がついたのは、偶然にも、やはり友達が新宿三丁目に共同出資でオープンした居酒屋に行った時だった。
「どうもうまく行ってないからこっそり行って原因を調べてみてほしい」と言われて、飲食店経営のプロと一緒にそのお店に行った。
週末の夜だというのに客は我々の他に一人だけ。しかもその人もひたすら一番安いハイボールと鳥の唐揚げだけをヘビロテしているという猛者で、ちょっと普通の居酒屋ユーザーではなさそうだ。
一緒に行った人が日本酒好きだったので「日本酒は何がありますか?」と聞くと、島根と秋田の日本酒がメインだという。
ここで変だなと思ったのだった。
残念ながら島根も秋田も、日本酒がそれほど有名というわけでもない。
島根と秋田の日本酒の銘柄を言われても全くピンとこないのである。
なぜその2県なんですか?と聞くと、おそらくアルバイトであろう女性が「ここの共同出資オーナーの出身地なんです」と答える。
まあ確かに、地元の友達とかが出てきたときには地元の酒があったら盛り上がるだろう。しかしそれだけだ。我々、島根県と秋田県に縁もゆかりもないピープルはそんなものを出されても困ってしまう。別に島根や秋田が悪いのではなく、単純に知らないのである。
技研バーにどんな酒を置くのか、と聞かれて、最初は僕の友達が来るだろうからということで技研ベースに縁の深い遠藤諭さんと僕の出身地である新潟県長岡市の酒を置くことにした。自慢ではないが新潟の日本酒はちょっと有名である。特に説明しなくても、久保田の萬寿とか、八海山とかはわかる。
ただ、交響曲獺祭を聴きながら日本酒の利き比べがしたかったので、獺祭も仕入れることにした。
すると、実は獺祭のほうがよく売れる。
久保田より安いという理由もあるが、今や獺祭の方が有名なのである。
しかしよくよく考えると、夜営業でもカレーが出てくる。
カレーと日本酒はどう考えても合わない。
つまり、僕の犯したミスは、酒のアテを考えずに日本酒を安易に出してしまったことだ。
日本酒が好きな友達が来て「なぜ塩辛や冷奴がないのか」と苦情を言う。なるほど、確かにそうだよね。
これはもう日本酒の取り扱いをやめるほうがいいのだが、勿体無いから日本酒を大放出するイベントをしようと思って、たまたまカレー屋さんが休みの日も重なるので思い切って日本酒メインのイベントをやることにした。まずはあてを用意しなければならない。
日本酒に合うつまみといえば、なんといっても刺身だ。しかし、刺身なんか出せるような構造に店がなってない。
すると、必然的に塩辛みたいなものを出すことになる。
塩辛は、まあすごく美味しい塩辛を知っていたので、それを仕入れてきて出すことにした。これは本当に美味しいあてである。
そしてまあせっかくなので、よく「清水んちのオーディオを聞きたい」と言われることが多かったので、自宅のオーディオシステムを技研ベースに持ち込んで試聴できるようにした。
これにおじさんたちが大興奮。
次から次へとお気に入りのCDを再生する。
CDプレイヤーは自宅のやつをもってくるのはやりすぎかと思ったので技研ベースにあるPS3で代用したけど、光出力で繋いでいる。
せっかくなので、以前、オーディオのために家一軒建ててしまったというオーディオ病気おじさんのところで試した、「ACは汚れているからDCで音楽を聴く」ことで本当に音が変わるか実演してみた。
技研ベースには無駄に高出力な防災用の電源が山ほどあるので、オーディオシステムをDCで鳴らすくらい簡単なのだ。
そもそも、ACがいいのかDCがいいのかという議論は、トーマス・エジソンとニコラ・テスラの時代まで遡る。
極端なDC(直流)至上主義者だったエジソンは、テスラの考案したAC(交流)を徹底的にこき下ろす。
このくだりは、いくつも映画化されている。
結局、送電効率と使い勝手の面で最終的にはニコラ・テスラのACがDCに勝ち、我々はコンセントにプラグを挿すだけでAC電源が得られるのだが、実はスマホを始め、ほとんどの電子機器は内部でAC電源をDCに変換して使っている。
つまりACは送受電には便利だが、実際に実用的な回路を作るにはDCの方が便利ということで、エジソンはそこまでおかしなことをいっていなかったという説もある。
むしろ今、省エネがどうのと叫ばれている現状を考えみれば、屋内配線は全てDCにしたほうがよのため人のためになりそうな気さえする。
というのも、たいていの電子機器で熱を持っている部分はACをDCに変換する部分だからだ。熱が出るということはそれだけ無駄が多いということでもある。
さて、このAC vs DC論争にもうひとつの論点がある。それはピュアオーディオにおける「音質」はどこで決まるかと言う話だ。
僕自身は、昔から「電源で変わるわけないだろ」と思っていたのだが、いざピュアオーディオの道に進んでみて考えが大いに変化した。
今は「電源でかわらないわけがないだろ」と思っている。
それはなぜか。
まず、オーディオアンプについて考えてみよう。
オーディオアンプの内部は、ACから来る電源を内部的にDCに変換してトランジスタや真空管に入力する。
この、ACをDCに変換するときに、理想はDCは一定の電圧で一定の電流が流れるべきなのだが、交流というのは一秒間に50回から60回のペースでプラスとマイナスが緩やかに入れ替わる(三角関数でいうsin波のように電圧が上下する)。
これをDCにしようとすると、まずダイオードで直流にして、コンデンサで安定化させる。
ダイオードというのは、どちらか一方向にしか電流を流さないようにする半導体で、コンデンサーというのは少しの間電気を溜めたり、溜めた電気を放出したりする貯水タンクのようなものだ。
要は電力が水のようにプラスとマイナスを行ったり来たりするような状態であるとして、まずダイオードで半分の電気(反対方向に行く電気)を捨てる。すると、飛び飛びで電気が流れる状態になる。
それだとブツブツ途切れてしまうので、これを直流化するためにコンデンサーという電源タンクを使い、電気が来てない間はコンデンサーから電気を出す。ただしコンデンサーも、中の電気が経れば減るほど出ていく電気の勢いはなくなっていくので、一定の出力をするわけではない。
当然、周波数が低いほどタンクに頼る時間が長くなるので電源の波形が歪になり、歪な波形に対して、音楽のデータで変調をかけるわけだから、これで綺麗な音が出るわけがない。
もちろんこれをできるだけ歪じゃなくするために、さまざまな工夫でもって電源回路は造られる。アンプにとって最も重要な機能のひとつがこの電源回路である。
そして家庭用のACというのは、必ずしもアンプだけがつながっているわけではもちろんない。
クーラーをつけてるかもしれないし、テレビがついてるかもしれない、それならまだしも、冷蔵庫みたいなものは、突然コンプレッサーが電力を食い始めたりする。そしてACに繋がった電化製品というのは、いわば同じ回路にある機械なわけで、極端な話でいえば、同じマンションの他の部屋の住人が突然換気扇をまわしても、微妙な影響を受ける。
家庭の配電盤の電力容量の変化を監視して、どんな機器が動いているか判定することもできるし、ある研究によれば、変電所レベルで各家庭でどのような電化製品がどのくらいの頻度で使われているかさえわかるという。
つまり、普通の人の想像よりも遥かに多くの情報をACは持っているわけで、これはACの利便性のひとつの側面ではあるが、オーディオを考えるときそうした情報は完全にノイズであり、全く無駄というものなのだ。
だから昔はオーディオマニアの究極の所作の一つは「マイ電柱」つまり、自分専用の電信柱を立てることと言われたりした。
しかしこれでも変電所レベルのノイズから逃れることはできない。
そこは21世紀。現在、我々は自動車や飛行機の動力として電池を使えるようになった。そう、DCの時代の到来である。
ここまで聞いて「それならば最初からすべてがバッテリー駆動のアンプを作ればいいのでは?」と考えた人もいるだろう。
惜しい。DCであっても、電源の安定化は不可欠なのだ。
なぜなら電池もまた、コンデンサーほど極端ではないが、コンデンサーと同じように、放電しながら電流の量が徐々に変わっていくものだからである。
そこで登場するのが、災害用の超大容量バッテリー装置だ。
これの凄いところは、バッテリーそのものはDCでありながら内部で擬似的にACを作り出して電源供給するところである。
これをアンプにACとして入力してアンプの内部の安定化電源装置でDCにするという二度手間を敢えて踏むのだ。
そもそもDCから作るACは、擬似的なものではあるがそれゆえに非常に安定性が高い。
そしてもちろんバッテリーから出てくるACには基本的にノイズが一切乗ってない。少なくとも自宅の冷蔵庫や洗濯機、換気扇、時々思い出したように動く冷蔵庫のコンプレッサーみたいなもののノイズは全く乗っていない。
このかなりピュアな擬似ACを、さらにオーディオアンプの高度な電源装置でDCに変換すれば、それはもうもとの波形がかなり綺麗な状態で入力されることになる。
一度聞くと「なるほど」と納得するくらいこれは変化する。
こうなるともう引き返せない。
充電して、アンプで聞いての繰り返し。ちなみに技研ベースにあるJackeryという電源は、昼間は太陽光発電で充電できるらしいので、もうピュアオーディオの半永久機関。文明が滅亡してもこのシステムさえあればいつでもいい音が聞ける。
いつか世界の終った日に、このシステムで極上のジャズを聞く、なんてこともできるのだ。それはちょっと、ロマンじゃないか。
もちこまれた楽曲のなかでは、オスカーピーターソンの名盤が特に良かった。
本当は昨日一日で持って帰るつもりだったけど、マスターが異様に気に入ったので今日も置いてあります。
技研バー、本日オープンベータ営業開始。15:00から秋葉原から一駅。浅草橋の技研ベースで営業中です。