栃尾の油揚げは世界一
まあ油揚げというジャンルがおそらく日本にしかないと思うが。
油揚げと厚揚げは違う。
また、揚げたての油揚げと普通の油揚げは全然違う
このことに気づいたのは35歳くらいになってからだ。
赤門の並びにある本郷の飲み屋で毎回「栃尾の油揚げ」を食べていた僕らは、栃尾がいつの間にか長岡市になっていることを知らなかった。
ある時、市役所の人と話をしていて、「栃尾に行くと揚げたてが食べられるらしい」と知った。
俺はゴトーとレンタカーを借りて、長岡の秘境、栃尾に向かった。
栃尾に向かう長い長いトンネルの中で、「果たしてこのトンネルに出口はあるのか」と思いながら、「一体揚げたての油揚げとはどのくらい別物なのか」ということに興味も湧いた。
トンネルを抜けると、「油揚げあります」の看板があちこちに。
ここか!ここが宝島か!!
この上ない高揚感。世界中を放浪したが、こんなにも胸が高鳴るのは初めてだった。よく考えると、世界の大半の場所は未知の興奮と未知の危険が隣り合わせだ。知らない土地に行くとき、興奮と同時に不安が生まれる。ここに立ち入って大丈夫か?盗賊に襲われないか?銃はちゃんと揃っているか?それとも・・・。そんな不安が常にある。世界を放浪するのは常に危険と隣り合わせなのだ。そして我々のような旅行者が銃を持ち歩いていることの方が少ないのである。
しかしここは日本、そして長岡市。絶対的な安心感と、油揚げへの信頼。つまり未知への興奮の純度100%で突入するわけである。楽しくないわけがない。
果たして、辿り着いたのは毘沙門堂。
文句なしにカッコいい店構えである。
マツコデラックスも訪れたという名店だが、その日はあいにく揚げたての油揚げは食べることができなかった。
揚げたての油揚げを食べるにはタイミングが重要なのである。
「道の駅にいけば食べられる」と聞いて、さらに車を走らせ道の駅へ辿り着いた。
すると驚くべきことに、そこには行列ができていた。マジかよ。油揚げを食べるために行列が!!!??
果たして、揚げたての油揚げはまさしく別の食べ物だった。
例えば焼き鳥屋さんであっても、カウンターの目の前で食べるのとテーブルに運んでもらうのでは、物理的な距離が違うことから味わいが違う。
それ以上に、人々は冷えた油揚げを温め直したものしか普段食べないため、揚げたばかりで一度も冷やしてない油揚げというのは、根本的に別物であることを知らないのである。
「まさかこんなところに幸せの青い鳥があったとは」
そう思わざるを得なかった。
それから 幾年露。
ついに毘沙門堂で揚げたての油揚げを食べることに成功した。
おぼろ豆腐も美味かった。