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カクシンハン・プロデュース2023『シン・タイタス REBORN』

シェイクスピアの原作に新らしい視点を加えて展開する芝居。 木下歌舞伎とか、万葉集を令和言葉奈良弁で訳した「愛するよりも愛されたい」とか、古典を優れた解釈で読み解き表現してくれるものは大好きなのだけれど、この作品は本当におもしろかった。 劇場ではなく、あえて倉庫という場所を選んでくれたのはものすごく嬉しくて、ひとりひとりが実に魅力的な演者を肌で感じられる距離は、自分が否が応でもその世界に食い込まれていくのを感じる。カクシンハンのコンセプト「演劇から得られるそのすべては、 誰しも

    • 七つの月2023×高橋美千子「あの月を眺めて君を思う されど月には呑まれまい」

      七つの月は、shezooが7人の歌手と七日間ライブを行うライブイベントで、2019年から毎年(コロナで直前に中止となった2020年を除く)横濱エアジンで開催されています。 ここでは、毎年7人の歌手から自作の詩や歌ってみたい詩を提案してもらい、そこにshezooが新曲を作り7人の歌手に歌っていただいてきました。 そして今年2023。 サブタイトル「どうしても自分が音を描きたい7人の詩人の詩をどうしても歌ってほしい7人の歌手に歌ってもらう」にあるように、今回はshezooがこの

      • 透明な庭 🌜月夜のわたつみツアー

        東京公演@吉祥寺ストリングス 雨の中、お運びありがとうございます。 「フランクル『夜と霧』への旅 」*の作者、河原理子さんがFacebookに、5/13日経の若松英輔さんのコラム「言葉のちから」を引用されていたことで、改めて音楽を生み出し続けることについて考えています。 自分が生み出しているものが芸術であるかどうかはわからないけれど、誰かの心をふるわせるために生み続けているのではないことには気づいている。 ここに来て、受け手の心の深いところにあるもの(それが魂かどうかはわ

        • マタイ受難曲2023-神と嘘-の件

          お世話になっております。 来年、2023年1月7日に、「マタイ受難曲2023-神と嘘-」を上演いたします。 バッハのマタイ受難曲といえば、 新約聖書「マタイによる福音書」にあるキリストが死という受難を迎えるドラマチックな 物語と美しい音楽に溢れた宗教曲であり、68曲のアリアや合唱曲で構成され、演奏には3 時間以上かかる大作として知られています。 しかし、ここには荘厳なダブルコーラスもダブルオーケストラも存在しません。ステージ の上にいるのは、13人のミ

        • カクシンハン・プロデュース2023『シン・タイタス REBORN』

        • 七つの月2023×高橋美千子「あの月を眺めて君を思う されど月には呑まれまい」

        • 透明な庭 🌜月夜のわたつみツアー

        • マタイ受難曲2023-神と嘘-の件

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        • 森達也
          1本

        記事

          透明な庭ツアーのこと

          子供の頃に見た、砂漠の中をピエロや火を吹く怪物男、小さなの天使たちが練り歩くサントリーのCM。 こわいのにまた見たくなる不思議な魅力に溢れるCM。 そこに流れる音楽は、中東風でもあり、サーカスのようでもあり、いつかこんな音楽を作りたい、こんな世界観を描いてみたいとずっと思っていました。 その一歩がTriniteの「Baraccone」であったけれど、それは世界を描くまでには至らなかった。 それが今回の透明な庭のツアーで演奏した魅力溢れる空間と証人となってくれたお客さまのチ

          透明な庭ツアーのこと

          三遊亭遊かり落語ライブ+musik

          映画や舞台で後付けの劇伴を作る時は、作品の世界に向けて良い音楽になることを目指します。 でも、少しでも演者に影響できる劇伴であるとしたならば、それはいきなり共に時間を作る演者へのラブレターへと変貌します。 今回ほど、演者である遊かりさんが音に応えてくれることに震えるライブはありません。 魅力的で愛すべき花魁をテーマにした「小桜」は、私たちライブミュージシャンにとってのワンステージ、45分に及ぶ新作落語。 リハーサルでは、遊かりさんの演じわける、可笑しく、艶っぽく、胸に迫

          三遊亭遊かり落語ライブ+musik

          松本香代子さんの写真への文章

          先日、松本香代子さんが写真展で展示されていた中に、とても気になる作品がありました。それは実家の今を撮った写真で、昔のそれにはあったものが今はなくなっているという説明をしてもらったもの。 米田知子の作品に、歴史的な出来事のあった土地を撮影した「Scene」シリーズがある。写真は何気ない風景の写真ばかりなのだけれど、タイトルを読むとそこはかつて戦場であり震災の場であったことがわかる。そしてその写真から、否応なしに時間の経過を知らされ、見えざる記憶と歴史を考えざるを得なくなる。

          松本香代子さんの写真への文章

          給水塔は人の記憶に魔法をかける

          ピアニストの渡部優美さんが元気がでるようにと送ってくれたプレゼント🥹 こんなコメントが添えられています。 「私は東久留米市の久留米西団地という公社の団地で育ちました。 先日、給水塔のよく見える棟に現在も住んでいる中学の同級生から写真をいただきました✨ 小さな頃、ここには誰が住んでいるんだろう?と不思議に思いながら見上げていた給水塔。 残念ながら、数年前に取り壊されてしまい、今この風景を見ることはできません😢」 なぜ給水塔は人を惹きつけるのだろう。 そもそも子供の頃から好き

          給水塔は人の記憶に魔法をかける

          七つの月2022のこと

          まずはじめに、七つの月2022に関わってくださったみなさんに心からお礼を申し上げます。 素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた歌手、ミュージシャン、エアジンという大切な場所を7日間も提供してくださったうめもとさん、美しい配信を届けてくれた高野さん、芳枝さん、そして会場に足を運び、モニターの前でライブをお聴きくださったみなさん、本当にありがとうございます。 4年前に始まった七つの月は、コロナによる延期をはさみ、今回で3回目となります。 当初、声をかけさせていただいた歌手の方

          七つの月2022のこと

          🧷表現と余地

          こんなことばかり考えている。こどもの頃からずっと。 そんなことを思い出す時間を持てる誕生日なんて幸せなんだろうけど。 表現、特に演劇や音楽といった時間に支配されるものについて、その表現はどうあるべきか。 SNSにあった「観客のための余地を残すか残さないかが大切なのではないか」 「観客のために」とか「観客席に向かって」ではなく「余地」を考えること。それはすなわち表現することのそのものではないのか。 私たち人間は、空気のために何かを発する訳ではなく、意識下にはなくても、自

          🧷表現と余地

          透明な庭2ndアルバム「Moon night parade」レコ発ライブのこと

          透明な庭2ndアルバム「Moon night parade」レコ発ライブ@THE GLEE、お聴きくださりありがとうございます。 GLEEに出演するのは4年ぶり。 ピアニストは楽器をえらべません。ライブやコンサートのたびに一期一会での出会いになります。 リハーサルの最初、少し硬い印象だったGleeのピアノは、弾き始めるとやがて (あなたに会ったことがことがある) とつぶやきます。  (そう、今回は鍵盤のおともだちを連れてきたよ) と答えると、ちょっとはにかんだような気がして

          透明な庭2ndアルバム「Moon night parade」レコ発ライブのこと

          「女神と小熊」by kian

          透明な庭2ndアルバム「Moon night parade」の中で収録されている「熊、タマホコリの森に迷い込む」は、アーティストkianの作品「Deep forest」にインスパイアされて作曲した楽曲です。 その曲からさらにスピンオフとして生まれたこの「女神と小熊」。 小熊を慈しみ愛を与える女神と、女神を母親のように慕う小熊を粘菌たちが見守っています。 そしてこの楽曲はこの「女神と小熊」も取り込み、多重構造となって新たな命を与えられました。  「deep forest」地

          「女神と小熊」by kian

          なぜかトニー谷のことを考えてしまう

          この波は定期的繰り返しやってくる。 あのセンスってなんだったんだろう。 何十年も前、麻布の菊池武夫ビルの中に三宅純さんがコーディネーターをしていた店があってそこのマネージャーがトニー谷そっくりだった。 六本木で飲んでた時、トニー谷の息子を名乗る人もいたっけ。 さいざんすマンボ 若い時 https://youtu.be/L4yHeMLDlrM 晩年 https://www.youtube.com/embed/_wDpChh_0Cw

          なぜかトニー谷のことを考えてしまう

          【照内央晴×shezoo 2台のグランドピアノによる即興演奏vol.2】

          無事かどうかわかりませんが、終了しました。お聴きくださった皆さん、ありがとうございます。 無事じゃない出来事は、会場のクラシックスに入った瞬間から始まります。 そう、そこでは昼公演の出演者の皆さんが楽しそうに打ち上げモードでくつろいでおられました。普通によくある昼夜2回公演の入れ替えは、これまで何度も経験していますから、特段のことではない。 だがしかし。その楽しそうな輪は、リハーサルが始まっても解けることはなかったのです。(ヤバい…)でも仕方がありません 今回は、クラ

          【照内央晴×shezoo 2台のグランドピアノによる即興演奏vol.2】

          映画「Eureka」デジタル・マスター完全版

          鳥のさえずり、ラジオの音、学校のチャイム、踏切のカンカン、ホワイトノイズ、歓声、管を通り抜ける風、ノック、咳、聞こえないセリフ。 わたしたちは虫の音の種類で季節を理解し、エンジン音の加減で感情を受け止めていた。 そこに足りないものだけが、いわゆる音楽として足される。 音楽とSEの境界線は存在しない。 色のない映像、耳が拾う音の色彩は、ほんのわずかなものでさえも鮮明にインプットされる。 音楽とは何か。 これほど深く考えさせられるおそろしい作品に出会ってしまった。 ウ

          映画「Eureka」デジタル・マスター完全版

          鏡のない風景

          この記事を読んでから、ずっと考えています。 「いいこと」がもたらす社会の歪みについて。自分も無意識とはいえ、そんな差別をしていることに気づかされます。 以前、交通事故で車にはねられて傷害を負った全盲女性が、将来得られたはずの利益について、健常者と同じ水準の支払いなどを運転手に求めた訴訟の判決が「全労働者の8割」だったとき、一審の通常の7割の判決に対し上積みしたこの判決は「司法判断に変化の兆し」だの障害者の逸失利益「ゼロ」のケースもあるから社会情勢の変化や個別の事情などを具体

          鏡のない風景