中散歩、付け焼き刃の運動
あてどなく歩くのが好きだ。
最終目的地だけ定めておいて、そこまでの経路は問わない。遠回りし過ぎなければどんなにヘンテコな道順でもよい。
つつじの咲く川沿いの道。無限に現れる虫と衝突しないよう祈りながら両腕を振る。
時折玉川上水を見下ろすと、錦鯉が泳いでいる。流れに逆らって尾びれを左右に振っている。鯉も鮭みたいに遡上するんですか。専門家、そこんとこどうですか。
ランナーに道を譲り譲られ井の頭公園。
薄暗い緑の中を抜けたら、アパートがずらりと並んでいる。
おばあさんが窓を開けて、ベランダから歩道に何かを放り投げるのが遠目で見えた。白い塊?ゴミ?
おばあさんは徐々に接近してくる私に気づいて、はっと部屋に引っ込んだ。
近づいてみてみると、投げられたのは残飯の塊のようだった。干上がり掛けの水たまりに見えたシミからは、こころなしか獣のにおいがする。
つまりあのおばあさんは………角を曲がったら意識はポンと遷移してしまった。
案内図がある。
目を凝らすと、自分が駅から大分離れた位置にいることを知る。
これは練習だ、と腿を叩いて案内図から離れる。方角的に、ここを真っ直ぐ行けば大丈夫なはず。
先日、高円寺で道に迷った。
どこからくる自信だか、私は土地勘の一切ない町の住宅街にずいずい入りこんだ挙句、駅とは反対方向に進んでしまい、一緒にいた友達の予定を狂わせてしまった。
休業中の床屋のガラスにふと自分の姿が映り込む。前のめりの姿勢と黒い上着のせいか、予想に反してひどく陰気なねえちゃんがこちらを見ている。込み上げる笑いを頬の内側でおさえ込んだ。
犬がいる。大きな家の玄関の前で、ドアをじっと見つめている。歩みを止めてその後ろ姿を注視していたら、やつは緩慢な動作で首だけ動かし、こちらを振り返った。あ、吠えられるな。
ところがやつはうんともすんとも言わなかった。再びドアを見つめだした。
変な犬だ。ボケた老犬かもしれない。
住宅街のどこかで鳴るピアノの音を聞いて、突き当たりの階段を降りたら、また公園。
無秩序に動き回る白鳥ボートと子供たちの歓声を背に橋を渡って、気がつけば吉祥寺のまち。
どこにでもあるスターバックスとコンビニにちょっぴり興を削がれつつ、てれてれ歩みを進めていたら、目的地の京急百貨店に着いてしまった。
買い物をして、店を出る頃には町中がおいしいにおいになっていた。
水を飲んでJR吉祥寺駅に向かう。
昼食は家に帰ってやきそばでいいや。
結局、昼ごはんはすっぽかした。