ある百合小説が地雷だった件~「なんでも許せる人向け」について~
※注意。このnoteはいわゆる「お気持ち」です。筆者の個人的な主張・主義を多分に含んだ火力の強い内容となっています。それでも良ければこのままスクロールしてお読みください。
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長いことオタクをやっていると、いやというほど目にする文言がある。
<なんでも許せる人向けです>
だれでも小説・イラスト・漫画を公開し、読むことができる某サービスサイト(あえて伏せます)を巡回していると必ず見る。キャプションやイラストまとめの1ページ目に載っているだけで吐き気がする。
いやいや、歴浅からぬオタクを自称するならこれくらい許容してやれよ、だとか、ゾーニングを気にしない閲覧者だっていっぱいいるだろ、だとか。そういうツッコミは確かにもっともだ。しかし、一部の創作者の中には、あまりに常識を逸脱した内容にもかかわらず注意書きを怠ったせいで、生活に大きな支障が出るほどショックを受ける読者が生まれてしまう場合がある。
これから話すのは、つい先日私が踏み抜いた地雷と、その問題点についてだ。私のような犠牲者を二度と出さないために、結構キツめにこき下ろす予定なので覚悟をもって読んで欲しい。
私はいわゆる関係性オタクというやつで、二者間で交わされる大小さまざまな感情がとにかく大好物だ。西に逃避行する二人あらば読んで5000回ブクマし、東に和気あいあいと食事するだけのシチュあれば読んで長文感想マロを送り、北に傷つけあうカプあれば読んで情緒をぐちゃぐちゃに乱され、南に慧眼フォロワーの考察ツイートあればRT後に「天才…?」とエアリプし。。。
その日も、ちょうど推し作家の新作を読み終えて白玉ツイート(死ぬほど追記あるやつ)をし終えたところだった。
「はじめて、創作をしてみました・・・」
なんとなく追っている程度の相互が、タイムラインにリンクを貼った。
添え文には、スクリーンの向こうのはにかみが透ける。気づけば私はリンクを踏んでいた。ほんわかしたツイートばかり投げている人だから、甘々日常系? それとも意外にシリアス路線? スクロールの指は期待に弾む。本文を開くと、一行目にはお決まりの「なんでも許せる人向けです」、続いて「至らない点あればおしえてください(>_<)」。絵文字じゃなく顔文字を使っているあたりもたどたどしくて、こちらの好感は高まるばかりだった。
本編は現在削除されているため、ここからは手元にある数枚のスクショと記憶を頼りに再現してみる。
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『ひみつ』
ちゃぷん。ちゃぷん。
肉を水面に落とす音が響く。個室にはわたしたち以外いなかった。
「おしっこしてるとき」
わたしの発言を耳にしたカオルは、きっと眉根を寄せる。打ち寄せる非難の意に気づかぬフリをして、そのまま続けた。
「おしっこしてるとき、『あ、これ、夢だったらどうしよう』ってふと思っちゃうんだよね。」
カオルは黙々と手を動かし続ける。トングで肉をつまんでは投げ入れ、つまんでは投げ入れを繰り返す。そのたびに水面は無表情に揺れる。
「っていうのも、ちっちゃいころの夢が原因なんだけどね。幼稚園であそんでたら急に漏れそうになってトイレを探して、やっとの思いで駆け込んでドアを閉めて、便器に腰掛けたらさ、なんか太ももがあったかいな~おかしいな~ってなって」
しかめっ面だったカオルの肩が少しだけ揺れる。
「夢の中ですっきりし終わるころにはもうおねしょ、ミッションコンプリートだったっていう…」
カオルはついに耐え切れず、顔を覆ってうずくまった。トングがガランと大げさな音を立てて床に落ちる。
「ええ、そんなにウケた?」
「最低。いまその話するの、最低だよ」
「あはは、ごめんごめん。ところでさ、そろそろ流した方がよくない?」
カオルは答えない。肩を小刻みに上下させて座り込むばかりだ。
浴槽をのぞき込むと、先ほど刻んだ塊が山積みになっている。全部流し終わるまでに数日、いや、一週間はかかりそうだ。
「つまらないように、少しずつ流すのがコツだよ。知らんけど!」
景気よくレバーをひねると、盛大に音を立てて水が流れ、第一関節や耳や目玉がくるくると渦の中に吸い込まれていった。すごい。初めて見た、神秘的な光景だ。もしかして、人間はこうやって渦の中から生まれてきたんじゃないかとさえ思えた。髪の毛は一気に流すと詰まりの原因になる。パイプ洗浄剤をかけて地道に溶かしていけばなんとかなるだろう。
次はどのパーツにとりかかろうかと浴槽を見回すと、指輪のはまった薬指だけが血だまりの中に取り残されていた。手はさっき全部いけたと思ったのに。
「ねえ、これ、夢だったらどうしよう」
カオルは答えない。
「夢だったら――」
カオルは答えない。わたしは、カオルの座り込んでいる部分から同心円状に広がる水たまりに気づかないふりをした。
「おねしょの話、二人だけのひみつね」
~完。~
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いかがでしたか?
インチキキュレーションサイトの真似をしないとやってられないくらい、キツい小説だった。再現のためとはいえ、書いていて幾度となく吐き気を催した。
さて冒頭に述べた通り、これから上の小説『ひみつ』が含む問題点を書き連ねる。というかほぼ愚痴。
あれはジャンルで言えば、「死体埋め百合」に近いものだろう。何か事情があって人を殺めてしまったAが、Bにそのことを打ち明け、協力して事実を隠ぺいしようとする。共犯の意識が二人の距離をぐっと縮め、絆を強固なものにする。かつては、「〇〇しないと出られない部屋」に並ぶ王道シチュエーションの一つだったらしい。
でも、どう考えたって死体埋め(処理)は時代遅れだ。過失・故意問わず「屠殺」した際は、オンライン申請フォームに記入すれば数時間で業者が来て、体を回収してくれる。理性と常識があればむしろ喜んで届け出るはずだ。あんな意味のない下世話なやりとりする暇があったら、とっとと端末開け。バカかよ。つまり『ひみつ』は、現実から目を背けて古典的なロマンに走った結果の産物、底の浅い擬古物語なのだ。
そして一番我慢できなかったのは、捨てるシーン。
「肉を水面に落とす」という描写でしゃぶしゃぶ的な光景をいやおうなしに連想するが、結局はトイレに肉を捨てていたと判明する。この、ミスリードという手法も一昔前さんざんやられていた使い古し。こういう随所随所の小賢しさが鼻につくのだが、問題なのはこの世で一番簡単な倫理が欠落していること。
おい!
粗末に扱うな!
食べ物を!!!!!!!!!
連日連夜、食糧危機のニュースを誰もが目にしているはずで、人肉の調理法やレシピもネット上にあふれている昨今。だれもがひもじい思いをしながら暮らしている昨今。第一関節が汚物といっしょくたにされて下水管を通っていくなんて。考えただけで泣きたくなる。
我々オタクが求めているのは、そういう現実を一切想起しなくて済むストーリーのはずだ。作者は分かっていて”あえて”やっているのだろうが、読者の裏をかこうっていう姿勢もクソ時代遅れなんだよな。勘違いっぷりが見ていてキツいし、マーーージで頼むからそんなこと、書く前に気づいてくれ~~~~!!
筆者はこの小説を読んでからしばらく、スーパーの人肉コーナーに行けなくなった。今はもう耳のから揚げもボイル目玉もモサモサ食えてるからいいけど。
もし、この小説のキャプションに「食べ物を粗末にする描写があります」と、ひとこと添えてあったなら。私は悲しい思いをしなくて済んだのになーって思います。だから今一度声を大にして言いたい。
「なんでも許せる人向け」なんて、この世に存在しない。絶対に。
[2929.2.9 追記]
くだんの小説を書いた相互とは今は仲いいです。地雷だったけど、作品と作者は切り離して考えてます。手の甲は苦手だけど手のひらは食べれる、的なアレですw