マーケティングとは組織革命である(森岡剛 著)
所感:
前職の業界的な特徴から、合理的な提案というよりは、情緒的な営業・戦略立案をすることが多かったので、第1章から自分の弱みを指摘されているような気持ちになった。前半部分では、「マーケティング」を大義的に捉えること。それを実現するためには単なるノウハウや技術だけでなく、組織的に変革することが重要だとわかった。実現できていない企業は多いように感じるが、「時代の変化に対応できない企業は滅びる」ので、個人の利害と企業の利害を一致させ、人をより生産的に動かす仕組みをリーダーとして考える必要があった。
後半部分は、個人やチームというもう少し細分化した中で、自らの存在価値をどう高めるか、提案をどう通すか、という部分を学べた。会議での役割や社内マーケティングの役割、ターゲット分析など、次の職場で実践していきたいと感じる。
森岡さんの他の著書も読んで面白いと感じるところは、意外と(?)情緒的な部分も大事にしているところ。数値やデータを元に戦略を立てることも大事だが、自らの熱意・思いも両立して伝えら得るような営業マンを目指していきたい。
要約:
第1章 USJを劇的成長に導いた森岡メソッド
・マーケティングには消費者の購買行動を決定的に変える力がある。「人を思いやること」がデフォルトになっている日本だが、戦略思考の弱さやマーケティングの取り組みの遅れなど、合理的な準備が足りずに情緒的な戦いを挑むことが多い。
ただマーケティングを故意有情させるには個々人の力を伸ばすことや、システムや経験の向上ではなく、組織改革が最重要課題である。
・組織改革がマーケティングにつながるワケ
組織とは一人一人の能力を引き上げる装置。強い組織は人の強みを引き出し、人の強みを組み合わせてボトルネック(業務の停滞や生産性の低下を招いている工程のこと)を消す。
・組織において主な機能は4つしかない
①マーケティング機能 ②ファイナンス機能 ③生産マネジメント機能 ④組織マネジメント機能
①マーケティング機能:売り上げを獲得する能力
商品開発部もマーケティングの傘下に置くことが重要。
②ファイナンス機能:財務経理部門などが担っている能力。
③生産マネジメント機能:商品を継続的に生み出し続ける機能。
商品開発部が生み出した商品を継続的に供給し続ける最適な方法を模索する。
④組織マネジメント機能:「人」と「人をより生産的に働かせる仕組み」を常に最適化していく機能。人事や総務など。①〜③を連動させるための中枢機能も含まれるので、マネジメントリーダーもここに含まれる。
・ボトルネックを解消するためには、機能の繋がりを見る大局観を養うことが重要。企業内のマーケティング能力が低いと感じたとき、「マーケティング部の能力が低い」と考えるのはイけていない経営者の考え。一連の機能の鎖の文脈の中で部位を診ることが大事。最高の結果を出すためには、誰かが余力を残していてはダメで、全員が持てる力を出し切って空っぽになることが大事であり、リーダーはそこに注力しなければならない。新人・中堅・ベテランの最大を考慮して業務を振り分ける。現場は「疲れ」が生じるが、緊張感なく楽に過ごせる組織は遠からず滅び流。本当に優しくあ流ためにリーダーは冷徹でなければならない。
第2章:マーケティング革命とは「組織革命」である。
・企業が消えゆく現象の共通点は、変化し続ける外部環境に適応できなくなること。市場構造に合わせて自己変革できると、いつの時代もどのような状況でも、生存できる可能性が高い。組織構造を変えないのであれば、今の組織構造で維持可能な範囲で企業成長は止まることになる。
・市場変化を察知するためには消費者のプレファレンス(消費者のブランド選択におけ相対的な好感度)をひたすらモニターすることが大事。
例:ある消費者がコンビニを選ぶ時にセブン、ファミリーマート、ローソンを選ぶ確率が5:3:2であった場合、ローソンのプレファレンスは20%となる。
消費者プレファレンスに集中する能力、消費者プレファレンスを読み解いて会社を勝つ確率が高い焦点に集中させる働きが「マーケティング」である。
・ここでいうマーケティングは「販促プロモーションの仕事」という狭義な意味ではなく、「市場価値を想像する仕事全般」を指す。マーケティング部だけでなく、営業部も人事部も技術部も全社員が頭に入れておくべき概念。
・マーケテイングができるようになるにはノウハウの習得と組織改革をセットで行うことが大事。マーケティングシステムがしっかり機能する会社は、消費者視点で会社全体が機能するマーケティングドリブン(売れるものを作る)な会社であり、変わり続ける市場環境に適応し、市場の消費者価値を想像し続け、中長期にわたって売り上げを獲得することができる。なぜなら、消費者とプロダクツは双極性の関係(お互いに相手がいないと成立しない関係)である。ここが乖離していては「作ったものを売る」組織になってしまうため、「売れるものを作る」組織にすることが重要。そのために「売れるものを作る」ことに責任を持つ役割の人を置くことも同じく大事。
第3章:理想の組織とは人体である
・理想の組織とは人体→「環境に適応して生き残る」という目的に対応するから。
人体は脊髄反射で最低限のリスクに留めており、組織にもこういったミドルマネジメントが必要である。また人体組織には内ゲバや上下関係がなく、共依存で繋がっている。ただ、組織では人体で言うところの「神経伝達回路」(コミュニケーション)が破壊されていることが多い。
・コミュニケーション不全に陥る3つの呪い
①年齢差による呪い
年功序列による呪い。先陣を越えることこそが次世代の使命。豊かな経験も大事だが、若者の意見も双方に同等の価値がある。年功序列の体系を壊すことが大事。
②役割差による呪い
社長と平社員は役割が違うだけで対応な存在。社長は中枢神経、平社員は「現場を担っている一細胞で共依存の関係。
③性別差による呪い
ビジネス組織の文脈で性別による一般論を個人レベルに持ち込むことは不毛の極み。
第4章:人間の本質とは、「自己保存」である。
・人間の脳は、動物の本能として変化を拒むようにできている。重要な場面で緊張するのは、脳が身体にかけるブレーキであり、「変化を拒む本能」である。
組織を構成する最小単位である「人間の本質」は「自己保存」であり、自分の生存確立を高めることが最優先にする。そのため、組織と個人の利害を同じ方向に揃える人工的な工夫が必要である。
・そのためには、「自己保存の本能を逆手に取ること」が大事であり、「変わるための必然を作る。その方法が「アメとムチ」。会議で発言をすることで評価が上がる(アメ)と、下がる(ムチ)を用意することで人々の行動は自然と変わる。
・大改革できない原因の一つがサラリーマン社長や幹部の任期が数年なので、その間だけ保てていればいいと言う自己保存欲求が優先されるため。変則のためには下記3つを軸に対策(釘)を打つ。
①売り上げ向上のために人々が好ましい行動をとる確立を上げる釘
②組織の重要判断のために人々が好ましい行動をとる確立を上げる釘
③会社が臨む方向へ人々を動機づける確立を上げる釘。
13%→ 34%→51%→ゴールの数値目標で進捗を図る。
13%:集団が変化を察知する。
34%:変化のうねりとして受け入れる。
51%:変化を受け入れる考えを持つ人をマジョリティーにする
第5章:社員の行動を変える「3つの組織改革」
【有効な会議とは】
・会議とは「人を働かせるための儀式」であり、意思決定を”見える化”することが有効。誰がどこで何を決めているか分からない組織は、誰もが公に恥をかかなくて済む仕掛けになっている。USJでも会議の場で議論をして意思決定社が決めて、結果が24時間以内にサマリーされて関係者全員にシェアされる体制を作った。
・サマリーについては備忘録や議事録ではなく、下記4つを入れる
①会議の目的は ②結論は ③結論に至る議論された主な理由は
④結論に基づき、関係者が次に取るべきアクションの提示
(内容が皆様の理解と異なる場合はご一報ください、と文末に添える)
【強みを引き出す評価システム】
自己成長を促すには会社から期待された目標値の達成度合いによって評価が決まる「絶対評価」ではなく、他人と比較をする「相対評価」が大事。ポテンシャルを引き出すことができ、評価する側も不正ができなくなる。人と競争することは緊張感がありしんどいが、個人のキャリアに必要な「成長」のためには、変化を拒む本能の重力圏から抜け出すエネルギーが必要。
【相対評価システム】
・評価基準を設定する際の大事なこと
①シンプルであること。誰もが覚えられる内容にする。
②具体的な行動に落とせること。「人間力」などではなく「リーダーシップ」などを掲げて、そこから具体的な行動を挙げてもらう。
③業績目標はできるだけ「数値化」すること。結果が見えにくい仕事の成果もできるだけ定量化することで後々の議論につながる。
・評価プールの設定の仕方
①1つのプールに一定数以上の大きさを持たせる(30〜60人など)
②競合させる年次やグレードは似通った人を集める(役職、部署など)
・期待値の目合わせを初期、中間、月1でやる。上司にフィードバックを求め、上司は「耳の痛い話」こそ部下に伝える。
相対評価には膨大な時間やコストがかかるが会社にとって重要な経営資源である「ヒト」の評価を大切に行うことは意味がある。
第6章 自分起点で会社を変える個人技
屍山血河(しざんけつが)→激しい戦闘、またはその後の戦闘のこと。頑迷(がんめい)→頑固で考え方が柔軟さを描き、物事の道理がわからないこと。
方法①ゲームのルールを理解する。
決定権限のある人、権限のある組織の目的次第で判断が為される。自身の担当のブランドシェアをあげたいという目標があっても、会社として他商材に力を入れたいのであれば、自身の目標を提案することは難しい。提案の成否は組織全体の目的や戦略に適うかどうかが重要で、相手のアジェンダを推理・洞察する時間を設けて考えることが大事である。会社は給料を払って自分を買っている組織であるので、自分に矢印を向け力が足りないことを認め売り込むことが大事となる。決定権限のある人は「個人としての正しさ」を優先することも多く、フェアではない、ことを予め認識する必要がある。
組織文脈を理解するためには、
①自分の属する組織と、上位組織・下位組織、それぞれの目的と戦略
②それぞれの重要事項における意思決定者は誰か
③上司とその上司、それぞれの評価が何によって決まるか。
第7章 あなたは一体何を変えたいのか(目的の設定)
・提案をする際、目的を「意思決定者のメリット」になるかどうかで考える。自身の目線だけで考えると、それは提案ではなく陳情になる。
・自分が組織のために重要だと思っていることを意思決定者がそう思っていない場合、まず目的の共有化をしなければならない。そのために、組織を取り巻く環境の見方を最低でも1段階広げるクセをつける。
・目的や戦略が曖昧な組織ですべきこと
そもそも・・・目的達成のために組織は作られ、会社の重要な経営資源を配分する焦点を決める。戦略は「やるべきこと」を決めていると同時に「やらないこと」も決めている。曖昧な組織は提案の幅が広いという考え方もできる。
①意思決定者が何に困っているかを調べる。(内容、優先順位)
②組織に色濃い不文律や暗黙知から探る。
創業の精神には企業が成功してきた原点というべき本質が含まれていることが多く、それが組織の強みである可能性が高い。「不易流行」(変えてはいけない部分を守るために、変えなければならない部分がある)という考え方をヒントに、創業時代の精神から学ぶ。
③普遍的な経営のキーワードから仮定する。
売り上げを伸ばす、利益率を伸ばす、優秀な人材を確保する、など
普遍的な経営のキーワードから目標を仮定する。
第8章 成功のカギはターゲット理解が9割
・社内マーケティングのターゲットは常に2系統ある。
①「組織目的」に忠実なターゲット
組織全体の目的として正しいことを理解すると賛同を得られる性質を持つ。「会社のために正しい」と思える便益で提案を武装することができれば、確率高く説得することができる。
②「自己保存」に忠実なターゲット
組織全体の正しさではなく、自己保存欲求を満たすことが優先となっている者。
→何かを提案するときは、組織視点の「公」で切り取るべきターゲットなのか、自己保存視点の「個」で切り取るべきターゲットなのかを意識しなければならない。
自分の提案に対して過敏に反応するターゲットを前もって想定し、戦況を少しでも優位にする確率を高めることができる。
第9章 何が相手に響くのか
・意識すべきは値札を小さくする【魅力は高く、実現性も高く、コストは低く】
・提案する際に多くの人は「実現可能性を明確に示すスキル」が不足している。
戦略を立てて相手にまざまざと見せることが重要。
森岡さんの例:
提案したい内容「ハリーポッターエリアの新設:設備投資費700億円」
低予算アイデアで稼ぐ→新エリアで稼ぐ→ハリーポッターエリアで稼ぐ
というように、わらしべ長者の考え方、階段の構想で勝ち筋を明確に見せる。
・提案に「やりがい」を埋め込む
実利系のやりがい(評価、報酬、ポジション、スキル等々)にとってプラスになるということをターゲットに伝える。ただ情緒的な部分は更に重要。相手の自己保存欲求、承認欲求を満たすために、深遠な分析も忘れてはいけない。
第10章 伝え方の技術
対人コミュニケーションの4分類。
プッシュスタイル:①攻撃型 ②積極型 プルスタイル:③反応型 ④消極型
①攻撃型:相手に耳を傾けず、一方的なもの。相手は、威圧・恫喝される。非難・攻撃される。選択肢のない事柄を強要される。などの印象を持つ。
②積極型:相手の意見を聞く余裕のある双方向性のもの。相手は前向きで情熱が強い。関心や責任感が強い。協力的などの印象を持つ。
③反応型:相手の考えや意見を引き出す有効な質問やリアクションで相手をリードするタイプ。積極型とタイプが良い。
④消極型:意見を言わず。発言をしない。相手にはやる気がない。関心や興味もないという印象を与える。
★①攻撃型と④消極型はコミュニケーションを破綻させるスタイル。
②積極型と③反応型を自分の中でコントロールすることが重要。
相手が攻撃だった場合→ 一旦反応型に徹し、積極型に転換するタイミングを伺う
「〇〇さん」と名前を連呼することも効果的。もし積極的に転換できないようであれば、迷わず撤退する道を選ぶ。
・攻撃型、消極型への営業は多くの営業マンが敬遠するが、相性で選ばず営業に徹することで成績が2倍も違ってくる。ベースがプルスタイルであれば、たまに出るプッシュスタイルがより輝く、印象付く。自分のスタイルの幅を意識的に広げられるよう努力することが大事。
【できる自分も良いが、できない自分も素晴らしい】