「通関士」は国際物流のスペシャリスト?「元」通関士が語ります。
そもそも「通関」というものは国際物流の中の「1つの点」の部分でしかない。
皆様は「通関士の資格」をインターネットで検索したり、書店で「通関士試験」に関する資格本を見たりしたときに
「国際物流のスペシャリスト」
「唯一の貿易に関する国家資格」
という宣伝文を見たことはないでしょうか?
「通関士試験」の勉強をすることで「国際物流」や「貿易」に関する全般的な知識を学び、語学を活かしながら「世界を活躍の舞台として、ダイナミックに物を動かしてみたい」
このような「通関士試験の挑戦希望者」を見たときに、私のような「元職」を含め、現役で「通関士」をされているかたは皆、このように言うでしょう。
「通関士って、そういう仕事ではないし、絶対に誤解してるよね?」
「語学なんて、ほとんど必要ないし。通関士として触れる英語なんて、google翻訳やchat GPTで十分、事足りるよね」
決して「大ウソ」ではない宣伝文に、なぜ誤解が生じてしまうのか?
つまりは「正確に伝わっていない」ということになります。そして、この部分を正確にお伝えしていく上で
通関士は
「貿易の中心となる国際物流の中において1つの点の部分を担う」
仕事であるということを理解する必要があります。
私は元「輸入通関士」であったため、例えが「輸入貨物」になってしまうのですが、大きな流れを簡略にして並べると
①貿易条件の決定(インボイス等の発行や決済)
②製造者から現地空港や港までの貨物の輸送
③現地で輸出通関が行われる
④航空機や船舶への積載後、日本に到着
⑤日本の空港や港で貨物の作業が行われる
⑥日本で輸入通関が行われる←※ここを「通関士」が行う※
⑦空港や港からエンドユーザーまでの輸送
これを読んだ読者様は「通関士って、⑥しかやってないじゃん!!これって国際物流のスペシャリストなの?」と思ってしまうかもしれません。
でも、「国際物流では重要な役割かもね」「まっ 大ウソでもないか」という認識にもなっていただけるのではないかと考えております。
「通関士」に最も必要なことは「英語力よりむしろ国語力」。ルールを正確に理解し、それを使いこなす能力です。
あまり、専門的に話を進めると「あわわわ・・・」となってしまうので、ざっくりとした話をしたいと思います。
私が入社した約20年前は「通関実務と通関士資格は直結しない」という考えをお持ちであった方は一定数いらっしゃいました。いわゆる「通関士資格は役に立たない、実践から学べ」的な考えです。
令和の現在、さすがに「通関士資格は役に立たない」と主張される方は稀な存在になっていると思いますが、もし、「これから」通関士を目指す方であれば「通関士試験で勉強する法律知識」は必ず必要となってくるので、怠るべきではありません。
ただ、実務において必要となる法律や基準等を「ルール」と呼ぶならば、そのルールは大きく2つに分類されていると言えます。
①日本国内のルール(関税法、関税定率法、食品衛生法、薬機法等)
②国際ルール(経済連携協定、ワシントン条約等)
です。
各ルールに関しての詳細は後日機会があった時にさせていただきたいのですが、通関士試験で学ぶ国内ルールである①の他、通関士になってから学ぶべきルールも多くあります。「通関士はこれらのルールを丁寧に読み込み、スムーズな通関を行う」ことが必要となってくるのです。
つまり、私が考える「通関士に必要な能力」は「ルールを正確に読むことができる力」もっと言えば、その条文や基準の意味しているものは何かという「文言(文理)解釈能力」です。
例えば、通関士の重要な仕事に一つに「適切なHSコードの選択」というものがあります。この適切なHSコードの選択には「関税率表の解説」という「審査基準」を読み込まなければなりません。ここでも「審査基準となっているルールを読む力」が必要です。
国際ルールも含め、現在では驚くほどの速さでルールは変化していきます。その時にも、常に「新しいルール」を丁寧に読み込み、精査していく姿勢を決して忘れてはなりません。
この「ルールを使いこなせる力」を持った通関士を「国際物流のスペシャリスト」と呼ぶのであるならば、まさに、そのとおりであると私は思います。
当然、このことは「通関士資格」情報では説明しにくい内容であると考えており、「なんか、通関士をとれば、世界を相手にダイナミックに貨物が動かせるのでは」と誤解が生じてしまうのも仕方ないことなのかなとも思っています。
本日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。