「アイ......オーン......」
夜はそう呟くと地面に倒れ込み、彼女が持っていた果実は足元に落ちて転がった。だが、その果実を拾い上げる者がいた。果実を拾い上げた者は、倒れた夜の背後から急に姿を現した。男は茶色の亜麻布製ローブを着ており、フードを深く被っていた。顔には影が落ち、よく見えないが、彼はフードを下ろしてマークの方をぼんやりと見つめた。
「久しぶりだね、マーク」
「アイオーン.....!?」
マークはかつて倒したはずのアイオーンの出現に驚きを隠せず、その恐怖に硬直した。
「私は何度だって受肉する。新しい肉体はやはり心地が好いな。力がみなぎる。この女の願いは、私の再臨だったようだね」
「違う!夜の願いは、瞳の復活。お前が仕組んだのだろう!」
「彼女は、私が遣わした15番目の使徒、マティアに継ぐ者にして私の眼。この女を使ってキミのことはいろいろ調べさせてもらったよ。母親を救いたい一心で、果実の秘密やキミの過去を取り憑かれたかのように調べていたが、それが役立った。以前はキミを少し見くびりすぎていたね。キミは人間にしては少し賢い。それが敗因だった」
アイオーンは、足元で気絶して横たわる夜を見て言った。
「だから、今度はキミの弱点を突く」
アイオーンがそう言うと、気絶して地面に倒れていたウェスタと夜が宙に浮かんだ。
「何をする!?」
マークは驚きの声を上げた。そして、ウェスタと夜が突如出現した十字架に架けられた。
「この砂時計が全て落ちる前に私を殺せなければ、ロンギヌスの槍が彼女たちの心臓を貫くだろう」
アイオーンがそう言うと、ウェスタと夜の胸の前に鋭い槍がそれぞれ出現した。
「果実が砂時計に変化した......!?」
「キミはちっとも変わらないな。いや、もっと臆病になったかな?あの頃は、もう少し勇敢だったか」
「どうしてこんなことを」
「......」
アイオーンはマークの問いかけに答えず、空を静かに見つめていた。
「新約の先を行く契約。旧約、新約、そして集約。バルベーロー、世界線の淘合?」
再びマークは、アイオーンに問うた。
「エウアンゲリオン」
アイオーンは、マークの方を向いてそう呟いた。
「ふざけやがって。さっき夜を使ってボクを調べたといったが、生憎ボクもお前のことは学校で嫌というほど学んだよ。どれもこれもくだらないと思ったが、『敵のために祈れ』という言葉だけには感動したよ。たまには良いことも言うみたいだな。だから今日は、お前のために祈ろう」
マークはそう言うと指輪の力で12本の剣を展開し、その中から白百合の紋章フルール・ド・リスが彫刻されたテンプルソードを握った。
「一度倒した相手だ。また潰すだけのこと。しぶとさだけは認めてやるが、何度やったって結果は同じ。こいつがどれだけのエジプトの神を殺してきたことか。死んでいった同胞たちのためにも、こいつは殺さないといけない」
隣にいたホルスがマークを鼓舞し、マークが展開した剣の中から彼はケペシュを手に取った。
「剣を取る者は剣によって滅びる」
「マタイ、26章か。だが、滅びるのはお前の方だ」
マークは聖書の引用先を呟いた後、アイオーンを挑発した。
「殺し合いを始めよう。キミはキミの、私は私の成すべきことのために」
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「装備を整えたい。一旦、ボクの家に帰って良いかい?取りに行きたいものもある。それと出発の前にお茶でも飲んで、一度気持ちを落ち着かせよう。具体的にどう動くかの最終的な調整もしたい。チャンスはきっと一度切りだ。絶対に失敗できない」
「ええ、賛成ね」
夜はマークの提案に頷いた。そして、マークと共に彼の自宅まで向かった。
「幸運の6ペンス。コレクションしていたコインはルイの学費に充てるために全て売っ払ったが、これだけは取っておいたんだ」
マークはデスクの引き出しから1枚のコインを取り出して言った。
「小さなコインね」
夜はマークの手の平にのせられたコインをまじまじと眺めた。
「ああ、かつてのイギリスの小銭だが、幸運を呼ぶコインというジンクスがあってね。今回の旅にも幸運が訪れるように、このコインを持っていきたかったんだ」
「教授は迷信とか信じないタイプだと思ったけど」
「もちろん迷信は信じないが、気持ちの部分は大きい。気持ちで負けたら全て上手くいかなくなる」
「そうね。それじゃあ、そろそろ具体的な作戦会議に入りましょ」
「ちょっと待ってて、お茶を淹れてくる」
そう言ってマークは、キッチンの方に走っていった。
「早くしなさいよ!全くマイペースなんだから!今がどういう状況か分かってる?」
「こういう状況だからこそ、お茶を飲むのさ。世界一美味しいお茶を淹れてやろう。ミルキーウーロンというお茶をね」
To Be Continued...
Shelk 🦋