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【マークの大冒険】 最後の選択 〜ブルートゥスの決意〜
紀元前44年3月15日。ローマ、元老院議場。
サポートAIアルテミス「推奨。早急な撤退。これ以上の干渉は、歴史に影響を及ぼす改竄行為となる。改竄を行った場合、後の時代で何が起こるか演算できない。ただちに撤退することを提案する」
瞳「マーク、本当にいいの?このままだとカエサルが......」
マーク「......」
数秒の沈黙の後、マークは思い切り駆け出していた。ブルートゥスら暗殺集団に囲まれたカエサルのもとに突っ込んでいく。
マーク「カエサル!大丈夫か?」
カエサル「マーク?!」
マーク「全員、カエサルから離れろ!!ボクの盾がキミらを吹き飛ばすぞ」
マークはアムラシュリングの力で盾を出現させ、カエサルと自分の周囲を覆った。
アムラシュリング......マークが頻繁に使用する守りの指輪。もともとは、古代イランの支配階層が身に付けていた。カスピ海に面したギーラーン州の山岳地帯に形成されたネクロポリスで出土。所持者の周囲に十二枚の盾を出現させ、防御あるいは前方方向に勢い良く放つ効果を持つ。敵対者に囲まれるなど、窮地を切り抜ける際に利用される。
ブルートゥス「マーク、そいつに手を貸すのか!!その欲望の化身に!」
マーク「ブルートゥス、話せばわかる!それが共和政だろう!!」
ブルートゥス「話が通じないから、こうなったんだ!」
マーク「だとしても!これは間違っている!!」
ブルートゥス「マーク!なぜ邪魔する?お前はただの旅人だ。ローマには関係ないだろう。コイツはローマの悪魔なんだ!排除しなければ、ローマに明日の未来はない!!」
怒りの声と共にブルートゥスの周囲には稲妻のようなものが走り出した。明らかに人間が成せる技ではない。
カッシウス「ブルートゥス、やるんだな?」
ブルートゥス「ここで全てを終わらせる!」
マーク「降神陣の模様が身体中に出ている?竪琴の文様だ。ブルートゥス、契約していたんだな。歴史の改竄を阻止するために、神々が彼らに味方しているのか?」
降神陣......神々を召喚する際に使用する魔法陣。通常は多大な素材と時間を必要とするため、すぐには発動できない。神官たちが儀式等の特別な時に地面に描くことがあるが、人体に突然現れたりすることはない。
カッシウス......ガイウス・カッシウス・ロンギヌス。ブルートゥスの同僚であり、理解者。カエサルの暗殺をブルートゥスに持ちかけた人物で、共和政撤廃を目論むカエサルを激しく憎んでいる。
ブルートゥス「ローマは王政には戻らない!」
ブルートゥスがプギオを振りかざすと、激しい揺れがマークたちを襲う。
プギオ......刃渡り30センチほどの短剣。身幅が広く小さい割に殺傷力が高い。ローマ軍の兵士は、主力武器のグラディウスのスペアとして携帯していた。土木作業時のロープの切断などにも利用された。ローマの市民男性が来ていたトガは、ゆったりとしたつくりだったため、この短剣を身に隠しやすかった。
マーク「うわっ!天井がっ」
瞳「マーク!」
遠くから一連の流れを見ていた瞳が叫ぶ。マークは咄嗟にアムラシュリングの力で盾を出現させ、降り注ぐ破片をかわす。
轟音と共に現れたのは、巨大な拳だった。アポロの巨大な拳によって、元老院議場の天井が破られたのだ。落下する天井の破片で、辺りは砂埃で包まれる。そして、砕けた天井の隙間から大理石彫刻のように白く、目には瞳がない不気味でうつろな表情のアポロの巨大な顔が覗いていた。
トロイア戦争の時と同じだ。アポロはその巨大な拳によってギリシア連合軍をなぎ払い、トロイアを守った。ブルートゥスは神の力を借りて、ローマの伝統である共和政を守り抜こうとしていた。
アポロ......ブルートゥスら共和・元老院派の守護神。カエサル暗殺計画にて発生したマークによる歴史改竄を阻止すべく力を貸した。小アジア出身の比較的新しく生まれた神。ギリシアで信仰が盛んになり、光明神アポロンの名で絶大な崇拝を集めた。その後、ローマ人からも信仰され、アポロの名で親しまれた。
瞳「マーク、逃げて!!」
マーク「たとえ東の風が吹こうとも、ボクらの冒険は終わらない!!」
マークの手にはウジャトが握られていた。マークの周囲に激しい稲妻が走る。突風と共に次の瞬間、上空に閃光が上がった。光が収まると、一撃を与えようと振りかざしたアポロの拳に巨大な槍の刃が刺さっていた。剥き出しになった天井からは、ハヤブサの頭を持つ巨大な神が見える。ホルスがアポロに槍を投げのだ。
ホルス......ウジャトの契約により、マークを守護する天空神。古代エジプトの第五世代の神に分類される。第一世代にして創造神のラーの能力を引き継いだエジプトが誇る最強の男神。傲慢で自慢屋だが、母親思いな一面もある。普段は人間の姿をしており、能力の1%も出していない。
ウジャト......ホルスの片眼。ギザのクフ王のピラミッドのトトの隠し部屋から出土。所有者はホルスの力を一定期間継承する。クフ王はこの力を利用して巨大なピラミッドを建造した。
アポロはもう片方の手を振りかざし、ホルスに一撃を与えようとする。アポロの激しい雄叫びが波動になって、周囲のものが吹き飛ばされていく。ホルスも右腕を振り上げ、アポロの顔面を目掛けて拳を放つ。両者の拳と拳がぶつかり合うと、閃光と爆音が辺りを襲う。
太陽神同士の激しい争いが始まった。
運命の女神フォルトゥーナは、どちらに味方するのか。
To be continued...
Shelk 詩瑠久🦋