マークの大冒険 百年戦争編 | オルレアン包囲戦
1429年、フランス王国オルレアン市____。
シノンで王太子シャルルと謁見を果たしたジャンヌ・ダルクは、甲冑と軍旗を与えられ、正式に軍に迎え入れられた。そして、ジャンヌはジル・ド・レ男爵が率いる部隊と共に籠城しているオルレアン市民の救援に向かう。1429年4月29日の夜、ジャンヌたちはオルレアンに入城し、市民から大歓待を受けた。この救援により、オルレアンに希望の灯がついた。それから間もなくしてのことだった。
「まずは、あそこから討とう」
ジャンヌは、トゥーレル砦を指差した。
「は?何言ってんだ?正気か」
ラ・イールは、明らかな苛立ちの表情を露わにした。
「私たちは、あそこから討たなければならない」
ジャンヌはそう言って、トゥーレル砦の方に近づいていった。
「おい、やめろ。どこに行くんだ!」
ラ・イールが止めようと声を掛けるも、ジャンヌは崩壊した橋の先端まで進んでいった。
「今ここで、早急に帰国することを勧める。そうでないと、あなた方は多くの血を流すことになる!」
ジャンヌは、対岸の砦にいるイングランド兵たちに声を張り上げて言った。
「お前の首を切り落としてやる!」
イングランド側からの返答だった。
「仕方ない。なら、攻撃する他ない。そこで待っていろ」
ジャンヌはそう言って、元の場所にに戻って来た。
「話にならねえな、あの姉ちゃんは。バカか。おい、マーク。お前が教育係だろう。何とか言ってやってくれよ」
ラ・イールは、呆れていた。
「ジャンヌ、戦争は喧嘩じゃない。人が死ぬんだよ。だからボクらは、無闇やたらに行動できない。死んだ兵士やその先に繋がる家族たちへの責任を、キミはどう取るつもりなんだ?取りようがないだろう。判断をひとつ誤るだけで、多くの味方を死に追いやることになる。みんなキミと同じように家族がいる。帰るべき場所がある。誰も死なずに家に帰ることが、ボクらの一番のミッションだ。それを忘れてはいけない」
「あなたたちは、なぜ神の声に従おうとしないのか。なぜ私の言うことを利いてくれない」
「当たり前だ。キミの行動は作戦じゃない。思いつきで行動したら、最悪な結末が待っているからだよ」
「思いつき?これは私の意志ではない。神からの命(めい)だ!」
ジャンヌは、物凄い剣幕でマークに反論した。
「あのヒステリック姉ちゃんは、何とかならんのか。全く王太子も、とんだ詐欺女に引っかかったもんだぜ」
ラ・イールは苛立ちを通り越し、話の通じないジャンヌに呆れ返っていた。
「ジャンヌ、焦る気持ちは分かるが、今は頭を冷やせ。今日は戻って準備を整えよう。今ここで無闇に突撃しても、イングランド軍の長弓で蜂の巣になるだけだ」
マークは、ジャンヌの説得を試みた。
「いや、一刻を争う。早くしないと。神は急げと言っている」
ジャンヌは引かない様子だった。
「そうは言っても、トゥーレル砦を陥落させるには一筋縄ではいかない。ロワール川を渡って迂回しながら近づく必要があるが、西にも東にもイングランドの砦があって、ボクらの動きは常に監視されている。トゥーレル砦は、守りも堅固だ。まずは比較的守りが甘い他の砦からシラミ潰しにして、物資の補給ルートを確保するのが先決。市内の人々は、飢えと貧困でパニック状態に陥っている。彼らを安心させないと、軍の士気も下がって総崩れになる」
「私の軍は、なぜ動かせない?そのためにここに来たのに。神は、イングランドを残らず駆逐せよと言っている」
「キミの軍じゃない。王太子と国民の軍だ。キミは王太子から軍を借りている立場に過ぎない。オルレアン市民からの歓待で勘違いしているのかもしれないが、兵士はキミでなく、みな王太子に忠誠を誓っている。それは命を賭ける見返りとしての報酬が王太子から支払われているからだ。キミからじゃない。王太子はボクらに給与を払うために、いろいろなところから資金を集めてきている。そして、その資金は、元を辿れば国民から来ている。キミの身勝手な指揮で、みんなの思いを踏みにじることになる。最小の被害で、最高の成果を得る。ボクらはそれを常に考えて行動しなくてはいけない。頼む、ジャンヌ。今はみんなの言うことを利いてくれ。今のキミは、ここにいるみんなからは、ただの小娘にしか映っていない。徐々に功績を残して、みんなを納得させていく他ない。ボクはシノンで王太子からキミの面倒を見るように頼まれた。王太子はキミを一度は認めたが、まだ懐疑的に思っている部分もある。側近たちに至っては、誰もキミを信用していない」
「愚かな人たちね」
ジャンヌは、悲しげな顔をしていた。
「分かってほしいが、ボクはキミの味方だ。キミをできるだけ良い方向に持っていきたいと思っている。これから軍事会議がある。キミも参加して、まずは戦況を把握するんだ」
To Be Continued...
Shelk 🦋