マークの大冒険 常闇の冥界編 | 一閃の刻
アキレウスに導かれてしばらく歩くと、巨大な建築物が見えてきた。何本もの大きな柱に支えられた破風の下には、内部に続く階段がある。
「冥界にもハデスを讃える神殿があるのか?」
マークが隣で歩くアキレウスに訊ねた。俺は並んで歩く二人の背中を見ながら歩く。そうして俺たちは建物の内部に続く階段を登り、中に入っていった。
「これは一部に過ぎない。ここにはハデスの神殿が山ほどあるからな。あいつの富は、エジプトのテーベに流れ込む富に匹敵する。それで俺は今、生きていた頃の力を買われてこの神殿の門番をしているってわけさ。ヘラクレスなんかも別の場所でハデス神殿の門番をしている」
「エジプトのテーベに流れ込む富に匹敵する?どういうことだ?」
俺はアキレウスの言う比喩の意味を不思議に思った。
「ハデスは最も富裕なる者という称号を持つ。地下世界の全ての富、そして死者に捧げられた財産の全てを彼は得るのさ。だから黄金の国エジプトの首都だったテーベに富の上では匹敵するというわけさ」
マークはそう言った。
「なるほどな。それにしても、確かに凄い数のコインだな」
俺は神殿内で山のように積み上がったコインを見て驚いた。コインの山は銀河のように輝き、煌めきを放っている。俺は床に落ちているコインのうち、一枚を拾い上げて眺めた。
「セレウコス朝シリアのテトラドラクマ銀貨だな」
マークが俺が手に取ったコインを観て言う。
「バシリッセス・クレオパトラス・テアス・カイ・バシレオス・アンティオコウ。女王クレオパトラ・テアと国王アンティオコスの、か」
俺は、コインに記されている文字を何となく口にして読んだ。
「え!?今なんて」
「何だよ」
「どうして読めるんだ?」
マークが不思議そうに俺を見ていた。
「どうしてって?」
「どうしてって、古代ギリシア文字は普通の人間には読めない。だってキミは、古代ギリシア人じゃないだろ?特別な教育受けてない限り、今の人間には読めないはずだ」
「え?言われてみれば......」
その瞬間、突然の目眩と共に走馬灯のような映像が脳裏を駆け巡った。
「どうした?大丈夫か?」
「あ……」
「何か思い出したのか!?」
「......」
「古代エジプト語よりはまだ多いと言え、日本で古典ギリシア語を学べる学校は数少ない。東京から来たと言っていたな。筑波や大阪でなく、東京で古典ギリシア語を学べる場所。まさかだが、もしやキミは......。蔦茂る煉瓦造りの校舎、方舟の教室とマリアのステンドグラス」
マークが発した言葉を聞くと、そのイメージが頭の中に鮮明に浮かび上がってきた。
「そうだ、吹き抜けのサークル棟、5つの図書館、そして大時計台......」
マークの言葉に続けて、不思議とその言葉が俺の口から出た。
「嘘だろ。マジかよ、同志か。そうだったのか!」
「これは、どこの記憶なんだ......」
「キミの通う学校だよ」
「学校?」
「そう、ボクらは同じ学校だったんだ。在学は被っていなかっただろうが、キミはおそらくボクの後輩ということになる。そうか、同志か。なら話は変わる。さっきは凡人と言ってすまなかったな。後輩として、大いに歓迎しよう」
「そうなのか?それにしても、えらく手のひらを返すな」
「同志となれば、話は別だ。それで、他に思い出せることは?」
「キャンパス内のイメージだけだ。あとは、分からない」
「まあ、今は無理に思い出す必要はないさ。またそのうち、何かをきっかけに思い出すかもしれない」
To Be Continued...
Shelk🦋
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