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マークの大冒険 フランス革命編 | 世界の全てを知る者

これまでのあらすじ

ナポレオンの軍に同行し、エジプト遠征に赴いたマークとジョゼフ。彼らは戦争の最中に訪れたエジプトの地で研究活動を行っていく。だが、時は近付いていた。フランスの敗北と遠征の終焉。遠征の終わりが近いことを知るマークは、エジプトに連れて来たジョゼフに真実を打ち明けることにした。


1801年、エジプト____。


「フランスはイギリスに敗北し、ボクらは間も無く帰還する。軍事的には何も意味をなさなかったエジプト遠征だったが、考古学、歴史学、言語学の上では、大いに貢献するものだった。ナイルデルタのロゼッタでナポレオンの部隊のピエール=フランソワ・ブシャール大尉が発見したロゼッタ・ストーンをキミも観ただろう?」

ピラミッドの下、マークが言った。周囲は灼熱のような暑さで、それを聞く麦わら帽子の下のジョゼフの表情は険しいものだった。

「ええ、あの巨大な石板は二言語表記の重大な資料だと」

「あの石板が古代エジプト語解読の鍵になる」

「石板の件も気になるんですが、俺たちの遠征はもうすぐ終わるんですか?まるで未来予想みたいで」

「予想じゃない。事実だ。この旅は、フランス軍の敗北でもうじき終わりを迎える」

「まるで未来から来たみたいな言い方ですね」

「ジョゼフ、ボクはキミが今生きるこの時代よりずっと未来から来た」

「さすがはマークさん、冗談もぶっ飛んでますね」

「まあ、受け入れられないのも無理ない。だが、フランスへの帰還まで、もうあまり時間がない。だから個人的にキミに観せてみたいものがある。もちろん、キミには選択の自由がある。強要は絶対にしない」

「観せたいものですか?」

「ボクらがものを観ると、プログラムが起動するんだ」

「プログラム?」

ジョゼフは言葉の意味が分からず、マークに訊き返した。

「そうか、何て言えばいいんだろう。プログラムの言葉の意味を説明するのは難しい。じゃあ、この言葉を命令信号と置き換えよう」

「命令信号?」

「そう、命令信号。ボクらがものを観ると、この命令信号が発信される。ボクらが観ている時と、観ていない時で、事象が変化するってことさ」

「ちょっと、そのどういう意味ですか?」

「量子は、ボクらの行動によってプログラムを起動する」

「量子?」

「その謎の答えをボクは、この大ピラミッドで知った。ピラミッドの中にあるトトの隠し部屋に、この世界の全ての理が記録されている。ラーも神だが、彼もまたこの世界に服従する者。ゴッドマザーは、この世界そのものってことさ。いや、観測者であるボクら一人ひとりの意識と言った方がいいかもしれない」

「観測者の意識?」

「ボクは18の頃に大ピラミッドのトトの隠し部屋に入ってこの指輪を手に入れた。重力を操る指輪アムラシュリング・グラビティ。まさに宇宙の指輪だ。そして、ピラミッド内で宇宙の歴史を記録したブラックホールも同時に発見した。ブラックホールの記録によれば、3本のアムラシュリングを手にした者は、この世界を支配する力を得るという。そして、ここに指輪が3つともある。世界征服もこれで叶うってわけさ。でも、ボクはそんなことに興味はない。誰が覇権を取るかなんて、どうでもいい。世界を支配したとして、それは一時的なものに過ぎない。たとえ武力で支配できたとしても、人の心までは支配できない。時間の経過と共に必ず反乱分子が増え、支配者は淘汰される。支配など、支配者の思い込み、思い上がりであって、本当の支配など存在しないのだから。そしてこれが、黄金の果実だ。いわゆる、ホワイトホールってやつさ。ブラックホールと対を成す存在で、記録の消去を司る他、あらゆる汎用性も持つ自由自在な器。一度は山岳派のマクシミリアン・ロベスピエールの手に落ちたが、何とか奪還に成功した」

「ロベスピエール?マークさんは一体、何者なんですか?」

「ボクかい?ボクはキミらと何ひとつ変わらないさ。生まれては、死にゆく者。だが、ボクはこの世界で初めて『真実』に辿り着いた。エジプトもコインも、研究の全てはこの真実に辿り着くためのものだった。そう、ボクらの時空は量子もつれから記録され、生み出されている。記録は0と1の組み合わせによって構成されるが、ボクらの世界はこの0と1の重ね合わせで情報が記録されている。ボクらが認識している三次元の外にある二次元の面にその情報が記されていて、これはホログラムのようになっているんだ。ボクらが発した言葉も手紙と同じように、本当は見えないだけで三次元の周りを覆う二次元面に記録されているんだ。だから、人間が言葉を発した時点で記録が残る。そして、個人の思考さえも、二次元面に記録されている。そう、この真実を知る者には、あらゆる隠し事もできないってわけさ」

「......一体、何の話ですか?」

「世界の真実についての話だよ」

「世界の真実?」

「特に宗教は、実にその的を射ているね。この世界は予定された脚本通りに進んでいる。例えばキリスト教では、救われる者は予め決まっている。いわゆる、予定調和説ってやつさ。それは、この世界の理から言えば正しいんだ。だが、人間の感情論ではそれを到底受け入れられない。だから派生してマリア信仰が誕生した。キリストは祈っても救ってくれないが、マリアは救ってくれる。ここでのキリストは、世界と置き換えてもいい。つまり、そうした拠り所がなければ、多くの人間は精神を保てない。予め用意されたシナリオ通り、全て決まった運命のレールを進んでいる事実が酷(こく)すぎてね」

「運命のレール?」

「だが、ボクはこの運命のレールに抗えないかを模索した。分かったことは、結果としてこのレールには抗えるが、抗えないということだった。つまり、分岐は可能なものの、ゴールは同じということだ。これを抗ったと捉えるかどうかは個人の考えによる。そして、どこをゴールと定義するかも難しいところだが、端的に言えば、ゴールはみんな一緒で、最期は死んで量子に戻るということさ」

「分岐は可能?」

「ああ。だが、未来にも原子のように一番小さい形、それ以上は小さくなれない形のようなものがある。それを分岐の不可能点という。例えば、今キミがここで死ぬとか、そういう未来にはできない。試しにやってみようか?」

マークはそう言うと、アムラシュリングで出現させた剣をジョゼフに振りかざした。

「ひえっ!?」

ジョゼフは驚きのあまり腰を抜かして倒れ、尻もちをつき、そのお陰もあってマークの剣には当たらなかった。

「ほら、当たらないだろう?」

「何するんですか!」

「とどめだ!」

マークはそう言うと、倒れたジョゼフに剣を振りかざした。

「うあ!」

だが、その瞬間、剣に反射した光がマークの視界を真っ白にし、彼の動きが止まった。

「眩しいっ!」

「え!?」

「そういうわけだ。このように未来の分岐不可能点を変えることはできない。未来、つまり時間にも原子のように最小の単位がある。ジョゼフ、キミは本来ならエジプトには赴けなかった。だが、それはこの世界からすれば些細なことで、要(かなめ)はもっと別のことにある。これを運命に抗ったと捉えるかどうかはキミ次第。そういうことだ」

「そういうことって、どういうことですか.....?」

「つまり、キミをエジプトに連れて来たことは、プログラムの起動に該当しない、すなわち観測者の意識として認識されないほど些細な事象だった。キミに会う前、ボクはブルボン朝フランスでマリー=アントワネットとその家族を監獄から救出した。だが、元の世界に戻ってから教科書を開いて驚愕したよ。彼らは何を思ったのか、コブレンツ行きの馬車から引き返して再びパリに向かったんだ。そして、予定通りに処刑された。それは観測者と認識されたボクが元の世界に帰っていなくなったからだ。これをボクは、二重スリット実験の応用と呼んでいる」

「いやいや、何言ってるのか全然。何で急にマリー=アントワネット王妃の話が出て来るんですか?その、俺はもちろんマークさんを信用してますけど、にわかには信じがたくて。理解も全然追い付かなくて」

「ジョゼフ、観てみるか?キミになら教えてもいい。秘密を一人で沈黙し続けるのは辛い」

「え?」

「どうして人は、死ぬんだと思う?そして、人はどこから来て、どこに行くんだと思う?世界の全てがそこにある。この世界の真実の全てが。その全てを知るかどうか選ぶのは、キミ次第だ。どうする?」

マークは、大ピラミッドを指差しながら言った。

「どうするって.....。知ったらどうなるんですか?」

「何も変わらない。結局、時が来たら最期に死んでボクらは量子になるだけさ。だが、真実を知った時、科学では説明できない感動が訪れる。それをボクらは『クオリア』という言葉で片付ける。なあ、ホルス?」

「ああ」

「えっ!!」

突如マークの隣に現れたハヤブサの頭を持つ神ホルスの出現にジョゼフは驚きを隠せない表情だった。

「ジョゼフ、ボクに着いて来るか?」

「俺は......。俺は、マークさんにはついていけないです。ごめんなさい。フランスにいる弟たちのこともあるし、それに......」

「ジョゼフ、キミはそう言うと思っていたよ」

「それに真実を知るのが何だか怖くて。いや、怖いというか、知った後に無気力になってしまう気がして。情熱がそこでなくなってしまうんじゃないかって」

「キミの言う通りだ。ジョゼフ、夢はね。追っている間が一番楽しんだ。いざ叶えてしまうと、こんなものかと幻滅する。心にぽっかりと孔が空いたような気分になるんだ。それがボクが知ったこの世界の真実だ。全てを心得てしまったボクには、もう何も希望がない。冒険の途中が最も楽しかった。そうと分かっていたのに、キミを引きづり込もうとしてしまったね」

「いいんです。そんなふうには思ってないですよ。でも、俺には、何だかマークさんが死に急いでるようにしか見えなくて。ごめんなさい。失礼ですよね」

「いいんだ、ジョゼフ。ボクは真実が知りたいあまり、時計の針を進め過ぎてしまったのかもしれない」

「謎が全部なくなったら、つまらないじゃないですか。だから俺は、やめておきます。でも、自分なり方法、自分の力で真実に辿り着いて見せます」

「分かったよ、ジョゼフ。キミならきっとできる。今の話は全て忘れてくれ。それじゃあ、研究に戻ろう」


To Be Continued...







Shelk 🦋

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