冬の始まり 8 (最終回)
「いやー、まぁ、
ちょっとは気持ちあるよ」
これが精一杯だった。
実質告白なのだが、これが告白かと言われると微妙である。なぜなら、告白を私はほとんどしたことがないから。付き合って欲しいとも言っていないし、これは私の気持ちを相手にぶつけてすっきりさせたかった、ただの自己満足に過ぎない言葉である。
彼はしばらく黙って、すぐにふざけて話を逸らした。
私は、そっちはどうなの?と聞くと
「(私)ちゃんやっぱ俺の事好きだったかー」「彼女いらないし、俺らセフレだからなぁー。あと、俺大学に好きな子いるんだよね」
彼にその気が無いことははっきり分かっていたし、私も付き合うことを望んでいたわけではない。しかし、行為以外の思い出や言動など、少しの希望だけで私は今まで生きてきた。それすらも私が告白したことによって全て否定されてしまって、今まで私が浮かれていた時間は無駄以外の何ものでもなかったことが証明されてしまった。
「今度電話で話すからもう寝ろ」
彼にそう言われ、3時間近く続いた電話を切った。
今度電話で話したところで、私の傷が癒えることはない。むしろ傷が広がるぐらいなら、
もう二度と私から連絡はしないと私の中で誓った。
数日後、彼からLINEが来た。
彼がアメリカに旅行していると言って写真を送ってきたり、
また数日してから電話が来たりと、
自分からは一切連絡をしなくても彼から何かしらの連絡が来るようになった。
正直連絡が来る度に私は何度もまた気持ちが戻りそうになった。というか、まだ彼を諦めきれない気持ちはあった。しかし、私と彼はもうこれ以上の関係にはなれないと自分に言い聞かせて、私も新しい人を探して彼を忘れようとした。
そんな時、バーテンをやっている男友達からDMがきた。
私は、断ってもしょうがないしなと思い、遊ぶことになった。
会った時、バーテン男は彼に似ている気がした。
喋り方、横顔、髪型
この人が彼だったらいいのに、と思いながら
カフェで一緒に煙草を吸って、
その時初めてバーに行くようになった。
お酒を飲みながら私は好きな人がカナダにいることを喋った。
バーテン男は、そんなやついいよと言った。
関わっていくうちに、彼とバーテン男は全然似ていないと思うようになった。
髪型のセットをしていない時は全体の雰囲気も違うし、服装も彼ほどお洒落ではない。
しかし彼に比べて、口だけかもしれないとは言えど心配してくれるDMやたまに優しさを見せてくれたりなどしていた。
バーテン男とは朝方、昼から授業があるから帰れないという理由でホテルにも行った。しかし私は彼との学びから、仲良い人とは絶対に付き合ってない状況でしないと決めていたのでしなかった。
もちろん彼からもLINEはちょくちょく来ていたが、私はだんだんとバーテン男と関わっていくことで余裕が生まれてきたため、長時間返信がなくても耐えられるようになっていった。
だから、彼が好きな子の恋愛相談を私にしてきた時も思ったよりも平気だった。
冬にその話をされていたら私はどうなっていただろう。
もう冬の時の
元彼とも別れ、メンタルが終わっていた時に出会った彼しかいない状態で、
ただのセフレだというのに執着していた私とは違う。
彼は好きな子と旅行に行って、その時告白したいと言っていた。
私は本当に好きな人いたんだ、と思いはしたが
グダグダ言ってないでちゃんと告白しなよ、と伝えた。私は強くなった。
今日も彼からLINEが来ている。
3週間ぶりぐらいだろうか。
来月彼は日本に帰ってくる。
あんなに待ち遠しかった9月も、もう残り半月となってしまった。
彼がいない間も、ずっと彼しか見えなくなっていた時期もあれば、
それを忘れさせてくれるような新たな出会いもあったりして、
私はあの冬よりも少しだけ成長したと思っている。
季節はもう夏で、そろそろ秋になる。
なんだかんだ季節が過ぎるのはこんなにも早いのかと思うと、その時の大きな悩みを忘れることも案外あっという間なのかもしれない。
今年の冬は彼とはもう連絡すら取らなくなっているかもしれないし、行動次第な所はあるため分からないが、
ひとつ言えるとしたらあの冬のようにはならないということだろう。
彼との出会いによって始まった冬は、
いつの間にか終わって、
また新たな季節の始まりを迎えるのだった。
おしまい
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