冬の始まり 6
町田駅。
私が嫌いな駅ランキングでも上位に食い込むほどの駅。1位2位が高校や大学の最寄り駅だとしたら、その次と言ってもいい。そうさせるほど嫌いにさせたのは、2回も彼と会うために訪れた駅だからである。今回はその2回目のお話。
その日は雪が降っていた。関東の雪のくせして、一部地域では積雪となるほどの大雪だった。私の地域では大した影響が無かったため大事に考えてはいなかった。ヘアメイクをしてもらい、新しく買った服に着替えて、彼と会うことに心を弾ませながら電車に乗ったのもつかの間だった。
「雪やばくて車出せない」「今日無理だ」
また???何回こんな思いさせるの。電車に乗っている最中だというのに、何時間も彼に会う最高の見た目で準備してきたのに、このLINEのせいで一気に崩れ落ちた。自然災害は正直抗えないところがある。今日に限ってこんな大雪。ここまできたら自分の運が悪すぎるせいなのかもしれないと思いながら、もう向かっているんだけど、と返信して家に帰るために電車を降りた。
反対ホームに着いた途端、また彼からLINEがきた。「頑張って行くか」
彼は元々車で来る予定だったが、私がもう電車に乗っていることを知って、向こうも電車で来ることにしたそうだった。上げてから落とされるとショックが倍増するその逆のような状態となりながら急いでまた町田まで向かう電車に乗った。
町田駅に到着した。
1ヶ月以上も会えていなかった彼に会えたこと。
ずっと見ていた夢が叶ったように嬉しくて、会った瞬間からずっと口角が上がったままだった。
いつものようにドンキとコンビニに行って、そのままホテルへ向かった。
午前1時、疲れて頭が回らない状況の中彼は言った。
「彼氏作んないの?」
私は彼に言われるこのセリフが1番嫌いだった。聞いて何になるの?絶対に自分のことが好きって分かってて聞いてるよな。このセリフを聞くと、自分が舐められてるんだろうという怒りと、やっぱり所詮セフレなんだなという現実を突きつけられる悲しみとが同時に襲いかかってくる。だから私はいつも適当に流したり、あるいは作る気がないとか言って強気に出たりする。今回も怒りが勝っていたので強気で返して、その後悲しい気持ちにもなってきたので彼の会話にも適当に流すなど態度に示した。なのにもう1回疲れてしまって、ゴミがまた1つ増えたベッドの上でいつの間にか眠ってしまった。
ぱっと目が覚めると、彼は起きていた。いつもはチェックアウトギリギリまで寝ているくせに、と思いながら起き上がると、彼は始発で帰ると言い出した。そして、脱いでいた服を着だして帰る支度を進めていたのを私はぼんやりとした状態で見ていた。「2時間で終電で帰っても良かったな」「金ないからさ、ホテル代割り勘にしよ笑」
寝起きだったこともあるがそれ以前に言っているセリフそのものに腹が立って一気に目が覚めたので、逆にこっちが帰りたいわと思いながら帰る支度をした。
朝5時頃、ホテルを出て近くのすき家で朝食を食べることにした。
起きたばかりだし、外は寒いし、発言にイライラしたし、ここから帰るのだるいし、全てにおいてムカついていた私は口数が少なくなった。そうしているうちにチーズ牛丼が来たので貪り食っていると、彼は唐突に「なんか、友達いなそう」と言った。
私と彼は全てにおいて真逆である。私が内向型だとしたら彼は根っからの外向型。交友関係も広く、異性の友達も多い。比べて私は深く狭い関係を好むタイプで、異性の友達はあまりいない方だった。学生時代のクラスでは決して交わらないような2人が、こうして今まで関わっていられることがよく考えると不思議でしかない。こうした違和感を相手に持たれたくなかったので、友人の話についてはあまりしてこなかったが、突然そう言われてしまったので全て見透かされているかのような気持ちになり動揺してしまった。「何言ってんの?」と、この動揺を彼に怒りに変えてぶつけてしまい、牛丼を食べきったので駅まで向かった。
向こうの態度が気に食わないイライラは最後まで鎮まることは無かった。お互い口数も少なくなっていたが、どうでもいいと思い彼の顔も見ずにばいばーいとだけ言って改札を通った。
その日から、彼としていたLINEもゲームのオンラインもピタリと止まった。私のインスタのストーリーには彼からの足跡もつかなくなり、私のあの態度のせいで嫌われたのだと猛省した。その日から私はまた過食癖が再発し、心身ともに醜くなっていった。
9日後、私はゲームしないの?とLINEを送ってみた。午前1時に送ったが、その日一日中返信はなかった。次の日のお昼にようやく返信が来たので返したが、既読が着いたままLINEが終わってしまった。その日以降私は彼を切る事を考え始めるようになる。
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