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冬の始まり 5

2023年という新しい年を迎えてすぐ、私は都内にいた。そういえばイヤホン返ってきてないな、そろそろ返ってきてもいい頃なんだけど。
そう思って彼に「私のイヤホンはいつ帰ってくるの?」とLINEを送った。
するとすぐに返信が来て、その後電話がかかってきた。「今日俺バイトでさ、その後でもいい?何時に来れる?」

22時。彼のバイト先がある新宿までやって来た。そういえば初めて会った時も新宿のここで待ち合わせをしたなと思いながら、分かりやすいので同じ場所で彼を待った。
すぐに彼が来て、間違いなく私のイヤホンを返してもらった。彼は「どうする?どっか行く?」と言ったので、「うーん、どっちでもいいよ。歩く?」と言った。本当はすぐ帰る気なんてさらさらなかったのだが、必死な姿を見せるのは恥ずかしかった。

新宿の歌舞伎町まで行き、ドンキやコンビニで色々と買って、ホテル街をうろついた。とはいえ新宿は価格台も割高で、冬期休み中ということもあり安い所はどこも埋まっていたのでまた今度にすることにした。
せっかく会いに来たのに、と思ったがこれでまた会う約束ができたとも思った。いつにするの?と言っても向こうの予定が多すぎて中々決まらなかった。私だってバイトがあるし、バイトを蹴ってまで彼氏でもない彼に会いに行くほど振り回されたくはないと思っていたが、だとしてもどんな予定よりも最優先で彼と会う予定を立てたかった。でも彼は友達も多く休日はほとんど飲んだり遊んでいたりする。私はその中には絶対に私よりも仲がいい女もいることを知っていたので、また辛くなった。
別れて電車に乗ると、彼からLINEがきていた。「ガチ遊ぼ」
このLINEがきたことが私にとってどれだけ嬉しかったか分からない。向こうから私と遊びたいと思ってくれていることだけで私は幸せなのだ。自分だけじゃないんだということが、私の自信に繋がった。

何日かして彼から「遊ぼう」と連絡が来たが、私はその日バイトだったので断った。

いつか会う日のためだけに、私は学校もバイトも頑張っていたしそれだけが生きがいだった。私は彼に振り回されてなんかないと強気でいたが、私は彼なしでは生きていけないほど脆くなっていた。ある日耐えられなくなった私は自分から電話をかけた。その電話で2月4日に中華街に行く約束がたった。

2日前の2月2日。昼過ぎに起きた私はまた嫌な予感がしてLINEを見た。
「インフルかも俺」

またか、と思った。期待は外れるくせに、嫌な予感はほぼ百発百中で当ててきた。別れる前も、クリスマスも、そして今日も。インフルだとしたら今度こそ2日後に会うなんて無理だ。
その日、ネイルサロンに行って人生初のぼったくりをされ、そのせいで初めての新しいバイト先にも遅刻しメンタルがやられていたのだが、彼からまたLINEがきていたのでなんとか正気を保っていた。

次の日、唐突に彼から電話がかかってきた。
出ると、「インフルで暇だからスプラトゥーンを買った」「一緒にやろうよ」と言っていた。私はスプラトゥーンを持っていなかった。でもそれを買えば彼と一緒にゲームできる。そう考えれば私にとって5000円くらい安いもんだった。いつものようにくだらない話をして笑って、楽しい電話だった。

その報告は突然だった。
「俺来月もういないよ」
彼は3月から半年間の留学に行くことになったのだ。それを知らされたのが1か月前。しかも電話の中のほんの一部の会話で発覚する。本当はもっと前から分かっていたはずなのに。そういった大事な連絡をしてくれないことが改めて私たちの関係が如何に脆いかを思い知らされる。それに、何より辛いのが半年間も会えないこと。今まで1ヶ月に1回は会いたいと思っていたのに、もっと会えなくなるなんて。大学生の中で1番遊べる時期とも言われている大学2年生のうちの半分を、彼がいない中過ごすなんて考えられなかった。もうすぐ春がやってくるとはいえ、まだ2月の寒い時期。帰ってくるのが秋だなんて遠い遠い先だ。

私はその日にスプラトゥーンを買って、電話を繋げながら一緒にゲームを楽しんだ。

その日からほぼ毎日彼のゲームの誘いによって、電話をしながらゲームをした。会えなくても、夜中から朝までゲームをし続けられたからそれで良いとさえ思えた。本当だったら今すぐに会いたいけれど、彼と私の関係をゲームが繋いでくれていた。

いつものようにゲームをしながら電話をしていた日。ゲームが終わったあとも少し電話をしていた。その電話の最中、明日会えるということになり急遽予定が決まった。
遊びに行く訳ではない。ただホテルに行くだけ。
1ヶ月以上ぶりに彼と会えることだけが嬉しかった。

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