冬の始まり 7
あぁ、やっぱり今日もLINE来てないな。
携帯を開く度、私は彼からの通知を期待しては、公式LINEの通知だけが溜まったロック画面だけを眺めている、そんな毎日を過ごしていた。
考えたくもないのに携帯を開く度に嫌でも彼からの通知が来ているかもしれないという希望を勝手に抱いてしまう自分が情けなかった。
でもそうなっても仕方がない。全て私が悪いのだ。最後に会ったあの日、私は彼の態度に嫌気がさして、全ての返事に無気力に返していたから。きっと見限られたのだ。彼女でもないくせに面倒くさい女。留学に行くとともに、私との関わりにも別れを告げたのだろう。早く私も忘れなくてはならない。会えもしない彼にいつまでも彼に執着していたってどうしようもない。
ある朝、私はテレビゲームをしていた。
携帯の画面が開いたのを横目に、何の通知だろうとゲームを置いて何気なく携帯を手に取る。
見慣れたアイコン、彼からのLINEだった。
「元気?」
それは20日ぶりのLINEだった。
本当に信じられなかった。正直見限られたと思っていた。もう二度と関われないと本気で思っていた。私はLINEが来てから30分以上、LINEが開けなくなるほどの余韻に浸った。人は喜びが最高潮に達すると、同時に恐怖を感じるのだということをこの時知った。
呼吸が荒くなっていたので何とか落ち着かせて、私はようやく1時間後に「元気」とだけ返した。好意を持っている人には天邪鬼な態度をとってしまうし、行為がバレたくないからこそこのようなLINEを送ってしまう。
その日を境に、ほとんど毎日LINEをするようになった。とはいえ、またLINEが来なくなることがとてつもなく怖かったため、私が1日以上放置するのはざらにあったし、友達と会う日に返信内容を一緒に考えようと、5日間放置してようやく返信するなんてこともあった。
「彼氏出来た?」というLINEも送られてきて困惑したりもしたが、向こうからLINEがきて、それを続けられていることが洞窟の先にある光のように嬉しかった。
しかし、そんな小さな幸せの積み重ねでできた毎日を一気に不幸に染める出来事が起きた。
私は毎日インスタを開くので、FFがどのくらいいたかというのを何となく覚えている。
その日も何気なくインスタを開くと、FFが減っている気がした。
知らない誰かにリムられること自体は別に大したことでは無いのだが、もしかしたら彼にリムられたかもしれないという不安感に駆られ、フォロー欄を遡った。
彼のアカウントが消えた?
嫌な予感は本当に的中する。百発百中で。
彼はインスタの本垢を消していたのだ。そしてLINEは、アカウントは消えていなかったもののアイコンが初期設定になっていた。
インスタが繋がらないとしたら、私は彼との繋がりがいよいよ無くなってしまった気がした。初めから体だけで繋がっている脆い関係だったという事実を、今までは行為中以外の彼との思い出で蓋をしてきた。共通の友達もいない私たちにとって、SNSの繋がりが無くなってしまったら関われる可能性は限りなく0%に近づいてしまう。所詮その程度の関係性だということを思い知らされた。
彼のサブ垢は繋がっていなかったが存在は知っていた。確認するとサブ垢はちゃんと残っていた。サブ垢で繋がっている人は本当に大事な人なんだな、と思いながら、その中にすら入れていない自分は何なんだろうとも思った。
涙が出そうなのに一滴も出る気配は無く、過呼吸になりながら耐えきれなくなった私は「何してるの」とだけ送った。
するとすぐに返信が来た。
彼はフォロワーが増えすぎて怖くなってアカウントを消したと話した。LINEもそろそろアカウントを変えるため、初期アイコンにしたという。そして、新しいアカウントを教えてくれたので繋がることができた。
この時安堵でよくやく涙が出てきたのは忘れもしない。
その2日後、彼が海外に行ってから初めて通話をすることになった。初めてビデオ通話もできてその喜びを噛み締めながら眠りについた。
ある日、Rという女の子からDMが来ていた。
Rは、私と彼が出会った日のインカレサークルで知り合った子で、そのインカレ以来全く連絡をとっていなかった子だった。
「一緒にまたインカレ行こう!」
私は勿論彼のことしか好きではない。彼以外の男の人を好きになりそうにもない。だから新たな出会いの場もきっと無駄にしてしまう。しかし、そんな自分に段々と嫌気が差してきた頃だった。一生私のことを好きになってくれない人にいつまでも想いを寄せている時間があるのならば、新しい男の人ができたらきっと彼を忘れられるのではないかと。
だから私はRと一緒にまたインカレに行くことを決めた。
インカレ当日、思っていたよりも上手くいかずに終わった。
インカレ後、私はRと夜ご飯を食べに行き、そこで彼のことを全て話した。
Rは、「私だったら好きって言っちゃうな」と言った。
私は彼にどうしても伝えたかったのかもしれない。彼女のたったその一言で、私は彼に自分が好意を持っていることを伝えようと決意する。付き合いたいから告白するというよりかは、伝えてスッキリしたいという自己満足の部分が大きかった。所詮ただのセフレなのに。
4月の後半。
彼からまた電話がかかってきた。
今日言おうと思い電話に出た。
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