冬の始まり 2
失恋ソング聞き飽きたな。
私は元彼と会った時に付けていた香水を身に纏い電車に乗っていた。若干遅刻をしていた焦燥感と、関わったことがない類の男と会うことの尋常ではない緊張感に襲われて苦しかった。
新宿駅東口に到着すると、たしかに彼がいた。
そういえば初めて会った時は分からなかったけれど、隣に並ぶと意外と背が低いことに気づいた。
いくら会うのが2回目とはいえ、ほぼ喋ったことがないのだから初対面と何ら変わりない。私は必死に上辺の愛想を振りまきながら会話を模索した。
結局ご飯屋が決まらず居酒屋に行くことになった。居酒屋に異性と2人で行ったことがほとんどなかった私は一瞬最悪な可能性が頭を過ぎったが、まさかそんなことは無いだろうと自分に言い聞かせた。
居酒屋について対面で座り、初めて正面から顔を見る。
うわー、タイプじゃないなー、、
彼は私のタイプとは真逆だった。スポーツでもやっていたのかと思う肌の色と、しっかりとした一重。パーマヘアに、海外のラッパーを彷彿とさせる服装。何より、話している時に安心感がなかった。今まで好きになった男は皆携帯にほとんど触れなかったが、彼はしょっちゅう携帯に目をやっていた。私が愛想笑いをしても、何が面白い?と思っているかのような堂々とした態度をとっている。上手く会話が続かない。今思えば彼は多少私との接し方に戸惑っていたのかもしれないが。
「なんで私を誘ったの?そもそも私のことよく覚えてたね」と聞くと、彼は「一人で来てたでしょ?覚えてるよ。最初入ってきた時から可愛いって思ったよ」と言った。女に興味がなさそうだった彼が、数いた女の中から私のことを覚えていてくれたこと。いくらタイプじゃない相手とはいえ、そう言ってくれたことは嬉しかった。
今の私の印象は?と聞くと、まだ会ったばかりだから可愛いってことしか分からない、と言っていたことも、彼はもう忘れているだろうけれど覚えている。
お酒を飲み進めていくにつれ、次第に話題が下ネタへと変わっていった。普段であればなぜこんな話を急にするのかと思うはずだが、酔いが回ってきた私はその話に乗ってしまった。きっとそこで言動を慎めていたら、と今になって思う。
彼が喫煙所に行くから着いてきて、と言った。
「煙草は吸う?」
「吸わない」
「吸ってみる?」
「え、でも煙草吸う女って男からしたらウケが悪くない?」
「そう?俺煙草吸ってる女の人好きだけど」
こんな男の人いるんだ、と驚いたのを覚えている。今思えば、いくら好きな人とはいえ相手に合わせて生きてきたような気がした。本当は煙草を吸うのに、男に嫌われるからとやめていた煙草。彼から煙草をもらい、1年ぶりに煙草を持って初めて肺に入れた。この人ならステレオタイプの女の子を演じず、ありのままの自分をさらけ出しても平気かもしれない。ここで一気に緊張が解れた気がした。
時刻は23時を過ぎていた。お酒はこれ以上飲めないと言うと、この後どうする?と聞く。
緊張がようやく解れてきたのにここで帰るのは惜しかった。
しばらく悩んでいると、ホテル行く?と彼が言った。流石に、と思ったがどうしても帰れる気力にはなれなかった。今帰ったら、また元彼を引きずる現実に引き戻される。一瞬でもいいから心を満たしたい。それに、彼のことはタイプじゃないから今後好きになることはきっとない。
店を出るとホテル街へと向かった。この時お酒はすっかり抜けていた。
事が終わり、インスタを眺めていた。元彼がストーリーを更新しているのを見て一気に現実に引き戻される。けれど、もう私は元彼のことなど考えていられない。昨日まで元彼のことを引きずっていた私が嘘のように、ここで初めてどうでもいいという気持ちになれた。私の隣には彼がいたから。彼はタイプではないし、私にもう彼氏はいらない。付き合うことで別れがくるのなら、最初から友達でい続けた方が傷つかなくて済む。
その後、彼から付き合わない?と言われたが、タイプでは無いし、ホテルで告白だなんてと思い適当に流した。そして、イルミネーションに行く約束も立てた。
この時の私は、自分のタイプが彼になって、好きになるなんて思ってもいなかった。
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