ちいさな愛のものがたり

「だぁめ」

 愛瑠朱が人差し指を立てて僕を押しとどめる。漏れる舌打ちにくすっと笑って、「ちゅーまで、ね?」
 どこがい?と首をかしげてみせる、その目線を誘導する。うっすら色の乗ったリップで光るくちびるがゆっくり開く。
「ん、いい子」
 あむ、と咥えてみせるのも「ちゅー」に入るのか僕は知らない。知ったこっちゃない。
「あと一年半の我慢だよ」
 ほしがりません、勝つまでは。

 厳密にはあと一年と四か月と十二日で、愛瑠朱は成人する。
 戦争が始まったのは僕たちが小学校に上がる年で、三年生の時に学徒動員が始まった。機械兵を造るための物資も足りなくなってきて子供サイズのコクピットしか作れなくなったからって話だけど、本当かどうかは知らない。とにかく児童操縦士の登用が始まってしばらくして、女は初潮から処女喪失まで、男は精通から童貞卒業までが一番戦闘力が高いことが判ったらしい。そんなデータ取ってる余裕あったんだ。ふーん。とにかくそれで男女は成人まで挿入を伴う性交禁止になって、僕たちだって死にたくはないからどうにかこうやって挿入直前で我慢してる。

「大人になったらさ、いっぱいコドモ、つくろーね」

 産めよふやせよ、兵力を。

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