【教員免許取得時に書いた小論文】地域の伝統工芸品(七宝焼き)の背景とその教育的活用について
つくりだされた背景
七宝焼は、もともと遠く紀元前古代エジプトが起源とされ、世界的には古代エジプトにおけるツタンカーメンの黄金の仮面などが有名である。
その後、インド・中国・朝鮮を経て日本に伝来したとされ、奈良県明日香村の牽牛子塚古墳(6世紀)から出土した棺金具が日本最古のものとされている。
江戸時代の慶長年間、京都の平田道仁は朝鮮半島の工人に七宝の技術を学び、江戸幕府のお抱えの七宝師として刀剣や小道具などの七宝装飾を製作した。
尾張七宝はこの平田家の七宝の流れとは別に、江戸後期の天保年間に、尾張の梶常吉が独自の七宝技法を考案し日本の近代七宝の道を拓いたのが始まりである。
常吉は、オランダ船が持ってきた一枚の七宝皿を破砕分析し銅胎植線施釉の構成を知ることで、それに近い精巧な七宝焼の制作に成功した。
その技法が現在の七宝町遠島の林庄五郎に受け継がれ、さらに塚本貝助に伝えられ、この地に尾張七宝の基盤がつくられた。
つくりだされる工程
七宝焼きは、陶磁器のように土を焼くのではなく、土台に銅などの金属を用いてその表面にガラス質の釉薬を施し短時間で焼成する。
現在の七宝焼の工法・技法は、「尾張七宝」の基礎ができあがった明治35年頃とほとんど変わらず、手作業を中心に営まれている。
素地作り、下絵付け、植線、施釉など、6~7段階にわたる工程の分業体制が確立している。各工程で緻密な技術を持つ職人達の技が施され、ひとつの製品が完成する。
1. 素地つくり
0.4~0.5mmの銅板をためてつくられる。
2. 下絵つけ
素地に絵柄を墨書きする下絵付けが施される。
3. 植線
墨で書いた図案の上に金属線を植えつけ図案の輪郭をとる。接着剤には、柴蘭の球根から作った「白芨」を用いる。線付けの後は、下釉薬を盛って焼き、線のロウ付けをする。銀線は異なる釉薬の境界となるものである。
4. 施釉
下絵の配色に従って、様々の釉薬が使われている。釉薬を乳鉢ですって粉末とし、水と布海苔を加えて筆やホセなどを使い施釉する。
釉薬は珪石・酸化鉛・硝石を原料に、着色のためにコバルト・クローム・マンガン・銅・銀等を少数混入して作るが、どの窯元でも特色ある色合いを出すために独自の調合をしている。
5. 焼成
窯で焼き上げる。焼成することにより、粉末の釉薬は溶けて金属線との段差が生じるため金属線と釉薬が同じ高さになるまで繰り返す。
6. 研磨
焼きあがった製品は線と釉薬部分の間に凹凸が出来てしまう。これを滑らかにし、光沢を出すと共に植線を浮き出させるため研磨が行われる。
7. 覆輪付け
研磨工程で未加工の上下端は、銅素地が露出しているため、銀の覆輪を付け完成する。
色や形の特徴・美しさの秘密
七宝焼とは銅板など金属の下地に、ガラス質の釉薬を高温で焼き付けた工芸品である。
紬薬の乗せ具合、微妙な温度差で、二度と同じ物ができずひとつひとつの作品が絶対無二なものとなる。
七宝とは、仏典にある七つの宝物「金・銀・瑠璃・しゃこ・瑪瑙・真珠・まいえ」のことで七宝焼の美しさが七種の貴品に似て絢爛で高貴である所からこの名がつけられた。
その名の由来通り、七宝焼きはの特徴は気品あふれる華やかさと豪華さである。その華やかさや気品を生み出す透明感や艶はガラス質の釉薬によって作られる。
「ガラス質の釉薬が溶けることで、独特の透明感と艶が出て、陶磁器とは違った美しさとなる」と教えて頂いた。
その華麗な美しさは、素地(銅板)に釉薬を塗り付けたあと、電気炉で焼成することで生まれる。
炉は、以前は木炭窯が使用されていたらしいが、現在では電気炉が使用されている。
「伝統工芸」としての芸術的な伝統を守りつつも、工業品として効率化が図られている。
また、同じ七宝焼きでも、尾張七宝の最大の特徴は「色と色の境目に銀線を使用して輪郭を付ける有線七宝にある。」らしい。
有線にすることにより大変な時間と手間と技術がかかるが、繊細な輪郭を表現できるということである。
さらに、釉薬の多彩さも尾張七宝の特徴である。発色の美しさの基であるガラス質の釉薬の配合組成は業者によって異なり同一色でもそれぞれ色調に個性がある為、業界として使用している釉薬は最終的にかなりの種類になるらしい。
こうした特徴が尾張七宝の高い品質を支えている。
七宝焼きの教育的活用
七宝焼きの教育的活用を考えた場合、そのメリットは多い。
まず、七宝焼と名付けられたその華やかな美しさは児童の興味関心をひきつけ、鑑賞することで豊かな情操を養ってくれる。
また、焼成することで釉薬が溶け独特の透明感と艶が出て、焼成の前後における変化が大きい為その変化の過程を興味を持って楽しむことができる。
さらに、七宝焼は体験教室が多いことからもわかるように、容易に体験できるとともに、なおかつ、ある程度の出来栄えの作品を作ることができる。
つまり、子どもたちに実際に体験させることが可能である。
この取材において自ら体験してみたが、絵を描くこともできるし、釉薬の塊を配置していくのみで表現することもでき、表現がしやすく楽しい上、焼成すれば透明感と艶が出るのでそれなりの出来栄えとなり満足感が大きい。
しかし、当然、あらゆる点で細部まで凝ろうとすると奥深く難しい。
こうしたことから、児童自ら体験することで、七宝焼きやその材料、作品のよさ、美しさに関心を持ち、表現について話し合えるとともに、その奥深さを学び作品に対して畏敬の念を持つことができると感じた。
このように、自分の郷里の伝統工芸にじかに触れて身近になることで情操を育み、注意して作品を見るようになるだろう。