10私のメンタル大震災(Ⅱ)
いくらキョドっていても、黙って負けるのは、ちょっとイヤかな…。
書記官の前では平静を装いながら、『移送申立て』に対して私たちがどうすればいいか聞いてみました。
すると『意見書』を出してみて、横浜地裁の裁判官に判断を仰げばいいとのことです。
ん~…。99%却下されるだろうけれど、やれる事は何でもやらないと…。
白根弁護士の書いた「移送申立書」をよく読んでみると、「訴訟経済上」という語句があります。
と、いうことは、「金がもったいないから、G県の裁判所でやってくれ」という意味なのですね。
待て!待てぇいっ!!私たちの狙いはソコですから!井上君に嫌がらせをして、お母さんまで脅したご老人たちに散財させる事で報復しよう、としていたのですから、「移送」されて私たちが散財させられたら話になりません。
「ざけんな!盗人猛々しいってやつだ!」
「だよね!って言うか、あたし、あんな極寒の地になんか二度と行きたくな いし!弁護士雇えるんだから、連中お金あるじゃん。」
「まったくだよ!自慢じゃないが、俺のほうがよっぽど訴訟経済上困窮し てるゎ。」
「確かに、自慢じゃないけど。あはは!じゃあ、その手で行くか。」
「お?おっ?この悪徳不動産屋が! 早速、悪知恵を思いついたか?」
「誰が悪徳やねん!アンタにとっては神か天使だろうが!」
普段どおりの軽口の叩きあいをしながら横浜地裁の駐車場を出て、ほんの1,2分の事でした。
「んん?」
「何?何これ?」
車が上下左右に揺れ始め、周囲の車が次々停まり始めました。外を見ると高いビルがユランユランと円を書くように揺れています。振り返ると横浜地裁もゆあ~んゆよ~ん…
「あっ!」
道路沿いの3階建てのビルの壁からザーッとレンガが落ちてくるのが見えました。幸い下には人はいなかったようです。良く見ると本物のレンガではなく、貼り付けタイプの外壁のようでした。
「地震だ!」
「大きいぞ!」
「ヤバい!!」
徒歩の人々はしゃがみこんだり、車から運転者が出てきたり周囲は騒然となっています。ヤバいヤバいの大合唱が沸き起こりました。
井上君も
「ヤバイ!これ、津波来るぜ!!」
「ウソッ?津波?ヤダヤダヤダヤダやめてぇ~~~っ!!」
「高台に行くぞ!!」
横浜地裁は海側ですので、井上君は別方向へ車を走らせました。井上君が勤めていた会社は、裁判所から割と近かったので、裁判所周辺の地理には詳しかったのです。
この日は井上君のカーナビつきの車でした。井上君の会社のグループが毎年お花見に行く、小さな山の上にある児童公園まで行くと、ナビをテレビに切り替えました。福島県では大津波が発生したとのことでした。
私は携帯で実家に連絡をしてみましたが、通じませんでした。皆が皆、こうして携帯で連絡を取り合ったので、回線が混み合っていたのでしょう。
幸い、児童公園の中に公衆電話がありました。何度かかけてみて、ようやく母と連絡がとれました。大地震ではありましたが、母は怪我もなく、家具などが倒れたりもせず、無事とのこと。
「あああああああ、よかったぁ。おかんも家も大丈夫だったぁ~。」
世の中に公衆電話が残っていて、これほどありがたいと思ったことはありません。公園の中の子供連れのお母さん達も、揺れが収まると慌てて帰って行きました。井上君は犬を連れた見知らぬおばちゃんとおしゃべりです。おばちゃんも一緒に車内のテレビを見ていました。大地震が来ても、愛想だけはいい男です。
一方、私は、天災にはどうしようもなく弱いです。被災した経験はありませんでしたが、想像するだけで怖くなってしまいます。この時ばかりは足が震えていました。
しばらくして、余震もおさまった頃、私達も帰ることにしました。
「ったく、『西村いちろう』の住民票に、移送申し立て、第3波はリアルで 津波かよ。」
「ヤダ本当に津波来る?どうしよう、今からママ連れてG県に逃げようか な…海ないもんね、G県。」
「横浜だって山ばかりだから平気だよ。そっちの家だって山の上なんだ し。」
「そりゃあアパートは山だけど、実家は海側だし遠いし…」
そう言えば、井上君は私を名前で呼んだ事は一度もありませんでした。もしかしたら、私の名前を覚えていなかったのかも知れませんね…。
「今は動くなよ。車で大渋滞になったらトイレだって行けないんだぜ?心配 ならアパートにお母さんを連れて来ればいいだけじゃん。」
「あ…そうか…。」
意外にも冷静な井上君のお陰で、この日は無事にアパートまで送ってもらいました。私一人だったらパニックになっていた事でしょう。つくづく、この日に運転していなくて良かったと思いました。
この大地震で、会社もしばらくの間は休みとなりました。テレビでは、どの局も同じ津波の映像を流し続け、コマーシャルはACだけ。被災地は福島でしたが、首都圏も、いつ大地震が起きるかわかりませんので、皆が皆、不安の中にいました。私も買い物にも怖くて行けないくらいでした。行っても、せいぜい歩いて7,8分のコンビニくらいまでです。
ところが井上君は
「G県じゃ、あちこち崖崩れらしいぜ。」
なんて情報収集しては電話をかけてきます。こんな惨状じゃあ、どうせ就職活動どころではないし、と、M市に行くと決めた日には妙に嬉しそうに
「んじゃ、行ってくるゎ~。」
なんてウキウキしていました。
当時は、この大地震の余波で世間は大騒動でした。パニック買いやガソリン買占めの渋滞、東北のみならず関東甲信越も崖崩れや土砂災害だらけ。こんな危険な状況で山越えなど阿呆の沙汰ですが、井上君は書記官のOさんに
「私にもしもの事があったら、父が裁判を引き継ぎますから。」
と、連絡して西村いちろうさんの住民票を取りに行くことを伝えたそうです。当然、書記官は
「やめてください!危ないですから。事情が事情ですから、裁判所も待ちま すから。」
と止めてくれました。
ところがそこで止まる井上君じゃありません。書記官に
「いやいや大丈夫ですよっ!この程度ではびくともしませんから。」
と答えて旅立ちました。実は必要がなくなった『受理証明書』という書類を大事に持って。
私は井上君の事は、全く心配しませんでした。(井上君のことも、裁判のことも考える余裕がなかったのが実態ですが)
井上君は、ドライバーとしてはかなりな腕前でしたし、しかも車はパジェロです。パジェロは多少の崖崩れなんか屁でもないのです。むしろ崖も楽々超えてしまうのがウリの、軍用ジープ並みのパジェロの性能を堪能しに行ったようなものです。
ただ、コンビニもスーパーも営業していない可能性が高かったので、3日分のおにぎりを作って持って行ったそうです。当時はとにかく寒かったので、おにぎりが痛む心配はありませんでした。
携行缶にガソリンを入れて、3日分の飲料水も持って…こういう時、登山好きな人は強いなぁ。
そして、3日後。「もしもの事」などなく、パジェロと井上君は全くの無傷で帰ってきました。簡裁では、あれだけビビっていたのに
「乗り越えるほどの瓦礫も何もなかった」
と、残念がっていました。
怖がる所が違うんですよねぇ、この男はw
そして、井上君は西村いちろうさんの住民票を手に入れて来ました。「実は必要なかった」という事は井上君にはナイショにしておきましたけどねw
私は、「移送申し立て」が却下されるように、西村さん達の不動産についても調べて来るよう頼んでおきました。
つまり「訴訟経済上」困っていない土地持ちだと証明するために、家、土地の登記簿を証拠として提出したかったのです。井上君は家も土地も持っていませんので、どんな小さな家・土地であっても、持っていれば井上君より裕福、と言う訳です。
「移送申し立て」は、最初に提訴した西村さんと南村さんの分、つまり平成23年(ピ)999 号事件に対して訴えられたのですが、どうせ北村さんの分もやってくると思って、北村さんの分の不動産の登記簿も取ってもらいました。井上君は、妙にカンの働くところがあって、ナビを見たら北村さんの家の近くに果樹園があり、これは北村さんの果樹園じゃないかと思って調べたら、大当たり!井上君はその果樹園の登記簿も取ってきました。
M警察署でクリスマスの夜に大騒ぎした時、井上君は彼らがいかにも農家の人と言う感じに見えたそうなので、その果樹園も北村さんのものだと思ったそうです。
そして、私はその登記簿を書証として、彼らには高額な財産があるので「訴訟経済上」の事情を考慮してやる必要はない、という意見書を出しました。
この画像が、その意見書の1ページ目です。2ページありますが、文字が小さいので、画像の下に内容を書きますね。
※裁判用の書類は、各ページの一番下にページ番号を振らなければならないそうです。
1ページ目
本件のG地方裁判所M支部への移送の申し立ての却下をお願いいたします。
理 由
1 本件の訴訟物は被告らの不法侵入及び窃盗等の共同不法行為を原因とす る損害賠償金のみであって、不動産や動産に関する権利についてのもの ではありません。
2 被告らが不法侵入した家屋の所有者は東村和美氏であり、被告らは所 有者の親族であるに過ぎず、当該家屋に関して何ら権利を有するもの ではありません。
なお、所有者本人は当該家屋への不法侵入及び窃盗には関っておりま せん。
3 当該家屋の管理、及び原告の原状回復義務、明け渡し等については所 有者東村和美氏との間で、神奈川簡易裁判所にて平成23年4月14日に 第一回口頭弁論が行われる予定となっておりますので、本件で議論す る問題ではありません。
事件番号:平成23年(ポ)4949号
4 本件は被告らの単なる不法侵入及び窃盗を原因とする損害賠償請求で あり、事件後被告らが原告に謝罪さえすれば解決するものでした。し
かし、被告らの答弁書にもあるように、被告らは謝罪する必要はない と述べています。
その上、被告らは事件後再三に渡り原告及び原告の母親をからかうよ うな言動をとっており、原告はその度振り回されております。
(後程陳述書等にて記述し、証拠も提出いたします)
本件が被告らの住所地であるG地方裁判所M支部へ移送された場合、 被告らの不真面目な言動が増加する畏れがあります。原告は現在横浜 市を中心として自営業を営んでおり、被告らに振り回される事により 顧客の確保が困難になっております。このような状況が継続すれば原 告は職を失う畏れがあります。
2ページ目
5 被告らは移送申し立ての理由として「訴訟経済上」としておりますが、 被告らの経済状況は良好と考えます。
その理由としては、
① 弁護士を訴訟代理人としており、着手金、報酬を支払う資力がある 事は明白です。
② 被告らが経済的に困窮しているのであれば「法テラス」を利用する ものと考えますが、自費で弁護士に依頼しています。
③ 原告は実際に被告らの自宅の外観を見ておりますが、西村氏宅、南 村氏宅共にG県内でもかなり大きな邸宅です。双方とも裕福である と思います。
(西村氏の住民票を提出する際、両氏の不動産に関する登記簿謄本
も提出する予定です。)
④ 原告は弁護士に依頼する資力がないため本人訴訟を行っておりま す。
被告らは原告よりもはるかに裕福と考えます。
⑤ 原告は事件後、被告らに対して裁判外で、穏便な話し合いでの解決 を提案しておりましたが拒否されました。経済的な利益を考えるな らば、当事者が冷静に話し合い、解決する方法が双方にとって最も 負担が少ないと思います。しかし被告らは原告からの提訴に対して も、裁判外での話し合いを提案する事もせず、多額の費用のかかる 応訴を選択しています。
以上の理由から、被告らが訴訟経済上保護される必要性はないものと考えます。
よって、本件については横浜地方裁判所にて継続されますよう、何卒
お願い申し上げます。
意見書の内容は、ここまでです。
意見書は、どうせ却下されるだろうと思って、ちょっと話を盛りました。井上君は、まだ就活中でしたし自営業はやっていませんでしたw 相手が大嘘つきですからね、これくらいは許されるでしょうw
そして井上君が、M市役所に行って、西村いちろうさんの住民票を取った後は、その住民票と共に書記官から「訴状訂正願い」を提出するようにと言われてましたので、これも作成しておきました。こういう自分の家の中での作業は、サクッと出来たのですけれど…。
会社では、仕事が手につかずイヤミも耳に入らず、とにかく地震の恐怖で病的だったのは確かです。
安心できるのは自分のアパートにいるときだけでした。アパートは軽量鉄骨でしたが、丘の上です。高台なら津波の心配はありません。きっとテレビで繰り返し繰り返し津波の映像を見せられて、津波鬱だったのだと思います。
(デブハラ会社には、お客さんなんて来ませんでしたので、鬱状態でも業務 に支障はありませんでした。私の、この会社での業務は、雑用とデブ店 長・超デブお局の嫌がらせに耐える事でしたから。こんなのは鬱になるよ うな事ではありません。本人たちが知らない所でチョコチョコ仕返しをし て楽しんでいましたからw 仕返しの内容はナイショです。もう時効です けれどねw)
そんな裁判どころではない不安な日々の中、平成23年3月28日付で、とうとう「移送申し立て」に対する「決定」が出ました。
(と、井上君から連絡が来ました)。
目次
1大家が泥棒(Ⅰ)
1大家が泥棒(Ⅱ)
1大家が泥棒(Ⅲ)
2オタ友のために(Ⅰ)
2オタ友のために(Ⅱ)
2オタ友のために(Ⅲ)
3現場検証したら(Ⅰ)
3現場検証したら(Ⅱ)
3現場検証したら(Ⅲ)
4仕事しろよ(Ⅰ)
4仕事しろよ(Ⅱ)
5本もない(Ⅰ)
5本もない(Ⅱ)
5本もない(Ⅲ)
5本もない(Ⅳ)
6お宝20号
7普通が一番
8下準備(Ⅰ)
8下準備(Ⅱ)
9暴走簡裁(Ⅰ)
9暴走簡裁(Ⅱ)
9暴走簡裁(Ⅲ)
9暴走簡裁(Ⅳ)