9暴走簡裁(Ⅱ)
それから、この第一回口頭弁論(平成23年4月14日)の前日、私はお昼休みに、M市役所の資産税課に電話をしました。井上君が当事者ですから、井上君と合流して、スピーカーフォンで話をしました。
現場検証の翌々日、東村和美さんの実母の南村二江さんは、S司法巡査に「本当の所有者は謎田黙男さん」と言っていたのですよね。
そこで、資産税課の職員さんに
「昭和A棟の固定資産税を払っているのは謎田黙男さんですよね?」
と聞きました。
「誰が払っているか」と聞かなかった理由は、個人情報を市役所に聞き出そうとしても、それは答えてもらえないと思ったからです。
そして、資産税課の答えは
「確かにそうです。」
とのことでした。さらに
「固定資産税に関する通知書や納付書も、M市は謎田黙男さんへ送付されて いますよね?」
と聞いた所、
「ええ、そうですよ。」
とのお返事を頂きました。
南村二江さんは、S司法巡査には「私が固定資産税を払っている」と言いましたが、やはりウソだったのですね。
ついでに、新たな情報を入手しました。井上君が電話を代わって、昭和A棟に関連して西村さん、南村さん、北村さんを提訴した事を担当の方に話し、事件番号も伝えて
「裁判上、謎田さんについて、お聞きしていい事だけでいいので教えてくだ さい。」
と、お願いすると、意外にも資産税課の職員さんは詳しく教えてくれました。
昭和A棟は相続関係がわからず、謎田さんには一応、名義人として払ってもらっているものの、相続争いがあって解決していないとのことでした。
相続争いの相手方は教えてもらえませんでしたが、西村さん・南村さん・北村さんでしょうね。答弁書に、「謎田ハナさんが、(昭和A棟の大家さんだった)東村元男さんの姉である」と書いてありましたから、お年寄りたちは謎田黙男さんの親戚でしょう。
しかし、駅から男性の足で徒歩10分とは言え、田舎で、借地で、陽の当たらない築89年の物件で(登記簿から昭和A棟は大正11年に建てられた事がわかります)、さらにトイレが家屋の外にあるような物件を欲しがる理由がわかりません。
土地付きならば家屋を解体して売る事もできますが、借地なのですから、むしろ土地を地主さんに返す時の解体費用(数十万円~百万円超え)を考えたら、普通は相続なんてしたくないと思いますけれど…。
とにかく、謎田さんに関する、この情報も貴重でした。これは後に、見事にヒットした「隠し玉」となりました。
やっぱり戦争の基本は「情報」ですねw
さて、井上君(と私)の人生初めての裁判の日がやって来ました。
(後述しますが、本当は、人生最初の裁判は3月17日の横浜地裁で、西村さんと南村さんを訴えた裁判のはずでした。)
神奈川簡裁は小さくて、駐車場も狭いです。建物にはいるとすぐ、受付のガラス窓越しに、職員さん達の仕事場が見えます。
「おそらく裁判官だなぁ」と言う感じの人、「おそらく書記官だろうな」という感じの人も丸見えです。
この日は、井上君が原告席で
「訴状のとおり陳述します。」
と言って、それから
「なお、被告の答弁書に書いてある家屋は、原告の使用している家屋とは関 係のない建物です。」
と言い、私が追加で作った資料は郵送していたら間に合わないので、直接、裁判官に手渡す予定でした。ほんの3分くらいで終わることでしょう。
被告側の弁護士、白根先生はお見えになっていませんでしたが、いくら何でも、昭和A棟と関係のない家屋について答弁されたら、どんな裁判官だって答弁書の「作り直し」を命じるでしょう。私は気楽に構えていました。
出廷すると、傍聴席側に長テーブルがあって、その上に置いてある「当事者は、出廷してきました」という用紙に名前を書いて印鑑を押して、呼ばれるまで傍聴席で待つのですね。井上君の前に2件裁判がありましたけど、どちらも和解するということですぐ終わりました。
さぁ、井上君が呼ばれました。書記官が
「平成23年(ポ)第4949号」
と言うと、井上君が大声で返事をしました。
「はいっ!!」
あれ?何で気合入ってるの?…打ち合わせで何度も気楽にやろうね、って言っておいたのに。そしてドカドカとうるさい足音をたてて、井上君が当事者席に入りました。
裁判官は壮年のおじさんです。ボソボソと面倒くさそうに
「原告は訴状のとおり陳述しますね?」
と聞きました。すると井上君、また大きな声で
「はい!しかしですね、被告の出した答弁書の建物は、本件の建物とは…」
と、唐突に説明をしようとしました。
すると裁判官が、井上君の話を遮って
「でもね、あー、井上さんね。あなた、家賃払ってないんでしょ?」
と、仰せになりました。
えっ?何でいきなり家賃の話なの?被告である東村和美さんが「昭和A棟の所有者でない」事は、本人が認めていますので家賃を請求する権利がないし、答弁書でも家賃を請求していません。
「いや、そうですけど、私が言いたいのは、そもそも被告の言う家屋の場所 が…」
必死で説明しようとする井上君。まずい!裁判官に対して怒鳴ってる!
「家賃払ってないんだったら、ダメでしょ。」
この時、小馬鹿にしたような裁判官の言い様に、私は井上君が裁判官にいらだっているのかと勘違いしていました。
「いえ、ですから、私の使用している家屋と、被告の答弁書の家屋は…」
すると、
「家賃は払うんだよ!」
いきなり裁判官がキレて怒鳴りました。すると、井上君、
「それはそうですけど、物件が違うんですってば!」
ああああ、裁判官と口喧嘩か…マズい!緊急事態だ!井上君は汗だくです。
すると、顔をしかめた裁判官が、訴状と答弁書を見比べました。この法廷は狭いので、傍聴席と裁判官の距離も近く、裁判官の動きも良く見えます。裁判官は、それぞれの提出した書証も見たようです。
そして、顔を上げると
「それじゃあ、井上さんね、訴状作り直していいから。もう一度やってあげ るから、いいでしょ。それで。」
んんんん?どういう意味?
「あ…。はい。」
井上君もさっぱり訳がわからない様子ですが、棄却ではないんですよね。
「わかりました。」
「じゃあね、次回期日はね…、○月○日、○時○分。いいかな?」
「わかりました。」
井上君は、そう怒鳴ると乱暴に裁判官に手渡すはずだった追加資料を鞄にしまい、ガッガッガッと靴音を立てて法廷を出て行ってしまいました。
私を無視して。
目次
1大家が泥棒(Ⅰ)
1大家が泥棒(Ⅱ)
1大家が泥棒(Ⅲ)
2オタ友のために(Ⅰ)
2オタ友のために(Ⅱ)
2オタ友のために(Ⅲ)
3現場検証したら(Ⅰ)
3現場検証したら(Ⅱ)
3現場検証したら(Ⅲ)
4仕事しろよ(Ⅰ)
4仕事しろよ(Ⅱ)
5本もない(Ⅰ)
5本もない(Ⅱ)
5本もない(Ⅲ)
5本もない(Ⅳ)
6お宝20号
7普通が一番
8下準備(Ⅰ)
8下準備(Ⅱ)
9暴走簡裁(Ⅰ)