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初日の感謝100本ノック|スリランカ滞在記
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新年最初の記事です。明けましておめでとうございます。
昨年秋からスタートしたnoteを通じて、自分と向き合う時間と皆さんの言葉に触れる時間を今年もたくさん作っていきたいと思っています。
改めて、今年もどうぞよろしくお願いします!
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スリランカへ行ってきた。私と夫と友達夫婦のリリーとオーガスタの4人で。
とても素晴らしい旅で、忘れたくない出来事がたくさん起こった。
旅のメモを見返しながら、何回かに分けて日記を残そうと思う。
空港を出た瞬間から、この国のことをとても好きになる予感があった。
土地と空気に祈りが満ちている。
紀元前から続く仏教国であることはもともと知っていた。ただ、そうは言ってもこの現代、一部の熱心な人々によってや年中行事のシンボルとしての信仰だろうと勝手に予想していた。
それは間違いだったと分からされる。こんなに強い祈りの空気はそう軽く生まれるものではないはずだから。この旅の中で見られるであろうスリランカのいろんな表情を思い、期待に胸が膨らんだ。
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空港を20時に出て、1番の都会であるコロンボのホテルへ向かう。
タクシーの窓から見える景色は南アジアの都市らしく混沌としていて、街灯も少なく、少しだけ心細くなった。
それでもTHE異国といった、エキゾチックな街並みを新鮮な気持ちで眺める。浮かれ心と好奇心が優勢だ。
信号が赤になり、タクシーが停止すると窓の外に物乞いをしている人がやってきた。
一生笑うことを放棄したような光の無いの目をした女の人と、ボロボロの包帯を引きずっている片足を失った男の人。
突然のことに心のバリアを装備する間もなく、真っ直ぐにその人たちを見つめてしまった。ヤバイと思った時にはもう目が離せなくなっていて、完全にくらっていた。
リリーが私の目を塞いでくれても、初めはびっくりするよねと背中をさすってくれても、ぴくりとも動かないお面のような表情と深い穴のような目が脳裏に焼きついて離れなかった。早く信号が青に変わって走り出してほしいと願っている自分が後ろめたい。
旅慣れている他のメンバー(夫、リリー、オーガスタ)と違って、私は海外経験があまり無く、日本には無いショッキングな光景への心構えが全然出来ていなかった。
ギャップが大きすぎて、少し涙が出た。
お前が泣いてどうすんねん、と自分の中の自分が怒っていて悔しいような情けない気持ち。
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ホテルに着いたのは21時。清潔で新しくて、お茶目で親切なスタッフさんのいる近代的ないい感じのホテル。
これから外に夕食を食べに行く予定だったのだけど、ここに来るまでに見た街の光景にびびっていて、本当に行く…?と半べそかきだった。みんなは笑っていて余裕そうだった。
目当ての店までの道中、「すぐ走れるようにしとこ」や「旅慣れてる感じであんまキョロキョロしないで」とみんなに呼びかけた言葉は、ほとんどがビビり倒している自分に向けたものだった。
そんな心配は杞憂に終わり、大体のスリランカ人は私たちを見なかったし、自分の仲間たちとただ寛いで過ごしていた。怖いことは何も起こらなかった。
目当ての店は、私たちが憧れてやまない「ジェフリー・バワ」という建築家の事務所跡地につくられたギャラリー&レストラン。
今回のスリランカ旅の目的の1つは、バワ建築を肌で体験することだ。
ジェフリー・バワは「熱帯建築家」とも呼ばれる、ヨーロッパ系の血をひくスリランカ人。彼の手がけた建築はスリランカの自然と一体になることが出来るらしい。
空、海、山、水、樹、石…。バワにとっては、これら全てが建築の材料。また、そのマテリアル同士の境界線を取り払うという新しいスタイルで、自然への畏敬と人間の快適な生活を共存させた。
いわば、アジアンリゾートの礎を築いた素晴らしい建築家なのだ。
そんな彼の代表作といえるホテル「ヘリタンスカンダラマ」がこの旅の最後の目的地。
そう考えると、最初の食事としてバワの事務所跡地レストランを訪れるのは、最適かつ縁起が良いような気がする。
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店の門を超えた瞬間、京都の旅館へ来たような感覚になった。スリランカなのに。
庭と住居の境界がぼんやりしている様子が、日本で古来から受け継がれてきた美意識と似ているのだ。
内と外が溶け合う美しさ。縁も所縁も無い遠くの土地で、こんな見知った感覚になれるなんて嬉しい。
通してもらったのは、建物の中庭のようなスペースで、キャンドルライトの灯りの元で食事を楽しめる席だった。
普段あまりお酒を飲まないくせにテンションが上がってしまい、スリランカ産のビール「LION BEER」を頼んだ。すっきりとした爽やかなお酒で飲みやすい。
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食事もびっくりするほど口に合ったので、よく食べてよく飲んだ。
何より大好きな3人とこうして遠く離れた異国でテーブルを囲っていることが本当に楽しくて幸せで、知らない間に自分の限界値を超えて飲んでいることにその時はまだ気付いていなかった。
頭がボーっとして視界がぼんやりと暗く歪んできたので、一旦お手洗いに行って酔いを覚そうと席を立った。2、3歩歩いたところで、「上」が分からなくなって気が付いたら目の前が地面だった。(ありゃ、おかしいな)と思ったけれど、声をあげて駆け寄ってくる夫とリリーの声を聞いて、自分が転んだのだと分かった。
「大丈夫!転んだだけ!」と言いながら立ち上がって歩き出そうとしたが、そこから意識を失った。
ハッと気がついた時には見知らぬスリランカ男性にお姫様抱っこをされ揺られていた。遠くで夫とリリーとオーガスタが慌てているような声が聞こえるのに、なんか気持ちいいな〜〜と呑気なことを考えていた。
風通しの良い場所のソファーに降ろされ、スリランカ男性は「Stay here」と言い残し去っていく。
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入れ替わりで夫たち3人が来て何が起こったのかを説明してくれた。
私は大丈夫大丈夫と言いながらも目が膜を張ったみたいに虚だったそうで(夫)とリリーが支えようとしてくれたが、支えきれないほど急に身体が重くなってそのままぶっ倒れたらしい。
そこに店員さんが颯爽とやってきてスマートに抱き抱えてソファーに運んでくれたというわけだ。「めっちゃ王子だったんだから!」と興奮がちなリリー。
全力で謝り、もう大丈夫だと伝える。
リリーとオーガスタは席に戻って食事を再開し、(とはいえお腹いっぱいだっただろうから、優しさで休む時間を作ってくれたのだと思う)夫は側にいてくれた。
申し訳ないやら恥ずかしいやらでソワソワとソファーで休んでいると、店員さんが「これ飲みな、楽になるよ」と絞ったライムにスパイスを加えた飲み物をくれた。
「ほんとにごめん」と言うと、いいからいいからと親しげな笑顔を向けてくる。
特製ドリンクは魔法みたいにスッキリと効いた。
彼以外にも私のそばを通り抜ける店員さんたちは、秘密を共有したみたいにニヤリと笑いかけてきたり、気にしてないよとはにかんで見せたりする。
私はすっかり気が楽になって、ご迷惑をかけたのにも関わらずなんだか笑い話のような気がしてきた。
スリランカ式に、顔の前で手を合わせ「ィストゥーティー(ありがとう)」とたくさんの店員さんに言った。ほぼ連呼。
はからずもこれがィストゥーティの100本ノックとなり、この旅の終わりまで感謝の気持ちを感じたらスムーズに現地語でお礼が言えるようになったという副次効果。
そんな1日目の夜。飛行機で一睡もしなかったので(編み物に夢中になっていた)時差含め活動時間は23時間。
興奮で忘れていたけれど、実は疲れていたのかもしれない。
まだまだ元気そうなみんなの体力エグいな〜なんて思いながら、ベッドに入った記憶も曖昧なままスコーンと眠りに落ちた。
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