もう、逢えないのだろう。【カイネ/可不】
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永い夢を見た。
夢の中で、君は笑っていた。
其処には、感じるはずもない温もりがあった。
其処には、聴こえるはずもない歌声があった。
其処には、紡げるはずもない思い出があった。
これが夢だと、何となく分かっていた。
でも、気付かないふりをしていた。
永い夢は終わらない。
夢の中で、君は哭いていた。
其処には、願うはずもない不幸があった。
其処には、解けるはずもない悲しみがあった。
其処には、確かな心の動きがあった。
それが無意味だと、自分に言い聞かせていた。
だから、気付かないふりをしていた。
夜は明け、朝が来た。
永い夢は終わりを告げた。
やっぱり夢だったんだと、心が理解した。
もう二度と、同じ夢を見ることはできない。
もう二度と、逢うことはできない。
もう二度と。
強烈に刻み込まれた記憶も、次第に薄らいでいく。
薄らいでいけ。
夢の中の君は、どうなったのだろう。
なんて誰かに話したら、最初からいなかっただろと笑われるだろうな。
それはそうなんだけどさ、と分かったふりをしている僕が目に浮かぶ。
雪は融け、春が来た。
君が今は、僕の知らない何処かで優しい笑みを湛えていることを、願ってみる。
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