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ロックバンド

 そもそもロックバンドをおのれが志したのはいったいいつだったのか、ロックバンドを志したというとおれ一人でそれそのものの概念を目指したみたいな聞こえかたをするが、そういうことではなく、ロックバンドをやる、ということを志したのはいつだったのか。

 ね、バンドやろうぜ、つって組んだのは高校生のときなんだけど、じゃあ時期分かってるじゃん、はい、解散解散。松屋でも行こか〜。で、向かった松屋が店員二人だけで、しかもウーバーイーツの注文入りまくってて爆混み、新開地のおっさんは怒り狂って小銭叩きつけて外に出て行ったが、そんな話がしたかったのではなく、ロックバンドを組みたいな、組んだのは高校生のころだが、どうしてロックバンドだったのか。そしてどうしていまも自分はロックバンドというものに夢を見ているのか。

 まあはっきり言ってしまえば、誰にでも効くわけじゃない、むしろ一部にしか効かないそのロックとやらに脳みそを破壊されてしまったからだが、なぜおれにはロックが効いてしまったのか。それが分かればロックの治療薬を使ってライブハウス・ジャンキーたちにかたっぱしから売り倒すが、でもそうか、買わないよな。だってみんな好きで病気やってるんだから。

 そう、それがたちの悪いところで、自分ではない、つまり内部ではなく外部の要因によって自分というものの状態が規定されたり、左右されるって、会社の社長がそんなこと言ってたら誰もその会社で働かないが、まあつまり恋愛と同じなんですね、好きなだけで幸せ。っていう状態。反対に言うと、幸せになるためにはなにかを好きになればいい。でもその好きになったなにかは時の経過を経て変化する。もちろん自分も時の経過を経て変化する。

 つまりいまこの瞬間、それは極論なら今年、五年、十年、三十年、もしかするとゆるやかに幸せは続いてゆくけど、それは「X」、つまり二つのものが交差して、また離れてゆくたまさかに過ぎないのであり、その奇跡を抱きしめて……

 なんて理屈を言ってくるやつの話を馬耳東風、そのまま受け流し、ファック、いまこの瞬間だけは、愛してるものたちよ、どうか存続してくれ! そっちはともかく、自分は、自分だけは、あるいは、今度こそ、この気持ちは変わらないから、永遠に! そんな懲りないやつらがいて、ロックバンドはそんな懲りないやつらのためにあって、でもやっぱり平気で解散したりする。それで懲りないやつらは今度こそ懲りたりするが、それはフリだけでぜんぜん懲りてなかったりする。あたらしく懲りないやつらも出てくる。だからまたあたらしいロックバンドは生まれる。いつまでも。

 おれは千年先も、もし地上で最後の一人になったとしても電車のなかでイヤホンをしてロックを聴いてるし、そうすればやっとロックにこの気持ちが伝わると思うので、いまからそのときを楽しみにしている。でも一人になったらバンドはできないな。変なの。だからロックバンドが好きだ。


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Yuki Warashina
すべて酒とレコードと本に使わせていただきます。