私たちの大人
泣くほど嫌なら辞めればいいじゃん
未成年のガキに言われた
その時、私が感じた感情は憤りだった
それは、私が今まで培ってきたものを否定されたような感覚。
しかし、それ以上に
そのガキの発言に何も言い返せない自分の未熟さにだった
それはごもっともだと、辞めればいいじゃんなんて当たり前の事を
涙を流すほどの場所に身を置いている自分の愚かさに、私は独り涙した
しかし少しの抵抗をしてみた
「それは無理なんだよ。大人だから」
大人になるって、自由を無くすってこと?
大人の定義。私は大人になって初めてそれを理屈で考えた
少年は言った
大人ってもっと自由かと思ってたよ。
子供と違って、色んなことを出来るようになる。お金をもてる、結婚もできる、車に乗って色んな所へ遊びに行ける。
そんなに楽しいことづくめの代償が、今涙を流すことなの?
私は理屈で少年に応えた
確かに自由だよ
でもお金を持っても税金や将来への貯蓄
結婚も、子供のことや親のこと
大人って大変なんだよ
少年は少し考えたあと、少しだけ大きく口を開いた
なんでそんなに自由や楽しみに蓋をするの?
少年の真っ直ぐなその濁りのない発言に、私はたじろいだ
みてよ、今は夜。
車なんて通ってない
道の真ん中で堂々と寝っ転がっても怒られやしない
走り回ったって誰も気にしない
なんなら、歌なんか歌っちゃったりして
大人だからもっと走り回るべきだと思うんだよ
時間が無い、お金が無い、余裕が無いって
行動することに言い訳ばかりつけて
自分を苦しめて、何になるって言うの?
子供はとても自由だ。だからこそ、残酷で
私たち大人がそれを綺麗事だと吐き捨てて
未来へ蓋をする
「君も大人になったら分かるよ」
大人気ないセリフだったと思う。
大人って、いつなれるの?
「さぁ、20歳を過ぎてお酒を飲めるようになったらかな」
お酒飲めたら大人なんだ。お酒飲める代償が、僕たち子供より不自由なら、僕は要らないな
さらに少年は語った
僕は、お姉さんを大人だとは思わないよ
僕は大人を自由な存在だと思ってる
でも実際は、僕たち子供より不自由で
僕たち子供より時間に囚われて
子供以上に子供だと思ってる
もしかしたら、僕たちの方が大人なのかもね
「そうかもね。私も、少年みたいに自由に生きれば、大人になれるかな」
それは分からないよ。僕の大人の定義がそうなだけで、実際には大人って面倒臭いのかもしれないし
でも、もっと笑って欲しいんだ。
大人になりたいって思いたいから
少年は私の前から姿を消した
私は大人失格だ。
私が大人になったのはいつからだろう
20歳になった時
お酒を飲んだ時
高校生を見て、若いっていいなって思った時
色々な場面でそう感じるが、
答えとしては、その感情の積み重ねの結果ではなかろうか
いや、もっと明確にするなら
もっと分かりやすい言葉で言うなら、
夢を諦めた時。即ちそれは、青春が終わったと自覚した時だと思う
青春と大人と夢。
私は少しだけ嫌な考えをした
青春が終わる時が大人
夢を諦めた時が青春の終わり
それが大人なら、なんて嫌な世界だろう
なら、今も尚、夢を追う人々は全員子供なのか
そうではない。でもその人たちは子供のように無邪気で本気で真剣に
人生と向き合う。そして楽しそうに笑っている
そんなことを考えている内に
少年は大人になった
また再会したその彼はこう言った
「大人って僕はなれそうにない気がするよ」
それは何故?
「まだ夢を諦められないんだ。ずっと追いかけたいものがある」
私は彼が、大人に見えた
初めて大人に見えた少年を、私は羨ましく思った
少年よ、君は十分大人だ
「あの時考えていた大人の定義、あんなものは実は必要ない。みんな大人であり、子供さ。
私が今考えなきゃいけないのは、大人子供の話じゃない。
カッコイイ人間かそうじゃないかだと思う
君はカッコイイ人間だ。きっといい大人になると思うよ」
お姉さんも、僕にとっては立派な大人だよ
必死に人生を生きて、辛くても生きて
そんな大人。
でもどうか、いつまでも子供の心を忘れないでね
「いってくれるね、少年。私も目指すよ。君みたいな大人をね。新しい大人の形を見つけられるまで また会おうよ」
私は、道の真ん中を堂々と歩きながら
胸を張った