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株主利益の最大化から逃げるな。

to HANOWAのみんなへ

「等身大の誇りを持てる新しい医療の循環をつくる」をテーマに経営してる新井です。

今日のお題はポジショントークにも聞こえる微妙なものです。
でも、HANOWAのみんなには局所的なスペシャリストとしてのみならず、誰もが事業運営や経営を担えるようになってもらって卒業してもらうことを願っています。なので、その水準の景色を知っていて欲しくてあえてお話しします。

鼻息荒いと思われるでしょうが、例えば

こんな記事を拝見すると、僕はこれとはまた違う見方を持ちます。
その見方の違いはどうしても、創業社長2代目以降の社長かの違いによるところが大きいかも知れません。僕自身もまだまだ本当の意味での株主資本主義の弊害に触れていないこともあるでしょう。

しかし、資本主義の権化のようなスタートアップという企業経営形態の中で、まがりなりにも3回の第三者割当増資で外部株主の資本を預かり、事業を黒字化にまで持ってくる経験を経ると、

座学の知識のみならず、身体知としても株主利益の保全を目指そうとすることが、結果的に全てのステークホルダーのご機嫌につながる。と分かってきます。

それじゃいってみましょう。


損益計算書の順番

個人的には「顧客を喜ばせることがビジネスの全て」的なメッセージはとても片手落ちだと思います。

オレンジはHANOWAのステークホルダー

損益計算書を見れば一目瞭然ですが、顧客に喜んで頂いたことで膨らむのは売上高です。確かにこれがないことにはなにも始まりません。

ただそれだけだと、仕入れでお世話になってる業者さんとその家族の生活は?社内で実業を回す社員やその家族の生活は?業務を委託するパートナーとその家族の生活は?

また融資で支援してくれている銀行員の給料(=金利)は?安全に事業を運営できるように国防や衛生、教育、インフラなど整えてくれている国への納税は?

そういった、関わる全てのステークホルダーの中で、最後の最後に配当という形で分配を受け取る存在が株主です。本当の意味で持続的であるならば、基本的にはココを最大化させようとすれば、自然と全てのステークホルダーがご機嫌になるように、損益計算書はできています。

顧客を喜ばせることしか考えていない経営者が多いから、日本企業は値上げが下手なんだろうなと思います。全てのステークホルダーの生活を守るなら、多くのケースで値上げは善であることが多いです。

  • 注1:会社法的に「株式会社は株主のもの」という話は色んな感情を差し込む人がいるので一旦ここでは割愛。

  • 注2:VCは通常、配当は受け取らない。インカムゲインとキャピタルゲインはこのnoteでは割愛。

無から有が生まれる瞬間の「!」

ただ、さすがにインフラ整備や国防などをやってくれてるとなると、税金を払うことに納得感はあっても、じゃ株主って何してる人たちなの?となります。

少しだけ話をHANOWAの創業の瞬間に戻します。

僕がHANOWAを立ち上げる時の2018年6,7月頃に考えてたことはこんな感じです。

「歯科医療人材、どこに行っても院長は『いない』って言うてるけど、実際に働く側は『いい職場がない』って言うてばっかやん…」

「新卒歯科衛生士の求人倍率20倍って言うてるけど、ボリュームゾーンで脂乗りまくってる30代前後はライフイベントばっかで週40時間なんか無理やで…」

「1日1人8時間まるまるは無理でも、3人が3時間ずつリレー形式で繋ぐような働き方やったら出来るんちゃうか?」

「エアビーとかUberみたいに、1人の人間単位の歯科医院での常勤雇用式のマッチングじゃなくて、時間単位の歯科医院とのマッチングが出来るサービスあったら絶対当たるんとちゃう?」

「でもメ◯レーとかグ◯ピーとかがどうせやるやろ…え、IR資料見ても遠隔診療とか健康経営とかばっかで、マッチングプラットフォームとかなんも考えてへんのか?」

「もしかしてこれ、今行ったらイケるんちゃうか?」

宇宙が最初になにもなかった場所に超新星爆発によって誕生したように、
だいたいの無から有を作った人には、最初にロジックや経験や資格や学歴などではなく、「」があったはずです。

上記の僕のヒトリゴトは、多分業界にいた人たちにとっては日常会話だったと思います。僕も起業してから業界の人に100万回くらい「それ10年前に考えてたのよね〜〜〜」と言われました。実際にやった奴とやらなかった奴の間にあったものは、ただ一つ。
」の有無だと思います。

この「」。

オリンピックの度にアテネで太陽光の鏡の反射から採火される聖火のように、実はとても脆く、儚く、か細く、刹那的で、とてもじゃないけれど海を渡れるような力強さなど持ち合わせていません。

「!」の火を紡ぐ人たち

その最初の火を絶やさなかった人たちが、初期の株主です。

銀行にはそれができません。
銀行はビジネスの仕組み上、聖火が何度も海を渡って、オリンピックが興行として利益を生むことが確実になった後に支援して、「お礼は利益からでいいよ(=金利)」とならざるを得ません。

最初の儚い「」の火に、
(もちろん色んな動機でお金を出す投資家はいますが)
「へ〜面白そうだね。乗るよ。」と言って少しのガスや、ちょっと丈夫なトーチをくれるのが初期の投資家です。

ここでの最初の投資家がお金を支援(株式を買う)する上で、欠かせない条件があります。
セカンダリーマーケットで売れる可能性があることです。

前述の損益計算書の最後の最後で分配を受け取る株主と呼ばれる人たちは、

  1. 最初の「!」を形にした創業者(とその仲間)

  2. 創業者のまだリスクあるアイデアにお金を出した投資家

  3. 創業者や投資家たちからセカンダリーで株式を買い取った個人/機関投資家、事業会社 etc

のいずれかです。これらはエコシステムなので、どれもが大事で優劣のつけようはありません。しかし、ことエコシステムを完成させると言う観点で言えば、3.の人たちが何よりも安心安全かつご機嫌に株を買ったり売ったり出来る状態でいることが、1.と2.の果敢なリスクテイクを促進させます

実はこの3.の人たちが尊重されない社会というのは、恐ろしいほどに起業家の果敢な挑戦やイノベーションの芽を摘み、経済の停滞に繋がりかねません。株主利益の最大化から目を背けるのは、一面としてはそんな社会を引き寄せてしまう可能性があります。

人を残して一流

これは社内報です。

HANOWAのみんなは一所懸命に自分の一隅で奮励努力するのみならず、広い視野と視座を持ってください。顧客のみならず、関与する業者さん、金融機関やステークホルダーと日々、お互いが活かし活かされていることに手触り感を持てる想像力を養ってください。そして今自分の現場があることは、実は株主のおかげでもあることをどこか心の内に留めておいてください。

いずれ役員になる人は、このテキストの中に何段階もの視座があることを理解して、自由に行き来できるよう修練してください。

金を残して死ぬ者は下
事業を残して死ぬ者は中
人を残して死ぬ者は上

後藤新平

いつも事業のみならず人を残せるように、自分のリーダーとしての在り方を背中で示していきたいと思います。


(番外編)VCの価値

HANOWAのみんなはXで新卒VCや、サラリーマンVCを揶揄してるのに加担したり、「事業経験がない奴がハンズオンなんてできねぇ」なんて恥ずかしいこと言うの、やめてくださいね。

VCの一番の顧客はLPです。スタートアップではありません。
VCの一番の価値は大企業や、年金基金や機関投資家やPEファンドが持て余している遊休資産であるお金を、ベンチャーに振り向けることです。

社会の中で氷漬けされている、動いてないお金に、流動性を付与し、新しいイノベーションを生む営みに火を灯すことです。

もうその時点でこの社会の中での120%以上の価値発揮です。ハンズオンとか本当どうでもいい瑣末なことです。

またVCの1号ファンドなんてそもそも無理ゲーの世界です。口八丁手八丁の全てを発揮して何とかして「◯◯な運用方針でとにかく3倍以上のリターンをお約束します!」って言ってお金を集めるわけです。根拠なんてないし、差別化要素もなにもないです。もし1号で10億円集めるなら、自分もセイムボードで1,000万円を何とか借りてきて投資します。GPはああ見えてみんな借金まみれです。毎年2%の管理報酬と、10年後にリターンの20%を受け取れる可能性はありますが、EXITもまだ少ない中2号、3号ファンドを立ち上げるのも至難の業です。

言うてやるな。
やめとけ。
GPになりたがる人が減ったら、今度は自分の挑戦の首を絞めますよ。