人形

「私の家族を探しています」というツイートが私の趣味垢に流れてきた。内容を見てみると、どうやらその「家族」というのはぬいぐるみのことらしかった。なるほど、ついにぬいぐるみも家族に含まれるようになったか。まあ別に他人の価値観をどうこう言うつもりはないし、軽くスルーした。

それから数日後のことだ。このツイートの影響かどうかはわからないが、無性にぬいぐるみを見に行きたくなった。近所にぬいぐるみを売っている店はないか調べると、テディベア専門店というのがあった。行くしかない。私は自転車を走らせた。

昔何度も通った友人宅の近くにその「店」はあった。ドアをノックするよう張り紙があったので、少し強くノックした。しばらくすると店主と思しき中年女性が私を招き入れた。


中を一目見て思った。「ガチ」だ、と。厚い真っ黒なカーテンによって隠された空間が明らかになった。
そこには50体程度のぬいぐるみというより人形が円形に私を取り囲むように陳列され、いや佇んでいた。
瞳がまるで意志を宿しているかのように光に反射して爛々と光っていた。

私は注意深くその人形たちを観察した。観察しながら思った。値踏みされているのは私の方ではないのかと。人形たちの瞳は妙に生々しくて、「見られている」感じが伝わってきた。
さまざまな人形があった。

サスペンダーの服を着たキツネや象、うさぎ。
どこかが壊れてしまった狂気的な瞳を宿すぼろぼろになった名もない動物。
生きている人間であるかのように錯覚してしまうほど精巧に作られた少女。
それらが取り囲む空間はどこか異質だったが、不思議と心惹かれていった。

黙ってみていると店主に「持ってごらん」と声をかけられた。キツネの人形を試しに手に取ってみると、ずっしりと確かな重さがあった。

こいつ、生きてるぞ。

私はハッとした。
そういうことか……

店にはパソコンを叩く羊の人形が座っているばかりであった。

タタン♪タタ♪カタカタ♪カチャカチャ♪

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