ジャバランジャバラン
暖かい風が頬を撫でた。都会の中で穏やかな空間を求めた人々が川にやってきている。俺もまたそのうちの一人だ。川辺には砂浜が広がっている。
ザクっ、ザクっと一歩踏みしめるたび歩いているんだという感覚がひろがる。
足があって、ちゃんと歩けているんだ。左、右、左、右、左足より前に、右足より前に。
歩くということが何か分かっていないが、歩けているんだということは分かる。
地面を見て歩いている。落ち込んでいるわけではなく、確かなものとして道を舗装している。
ざくざく......ざくざくざく......。
ひらけた空間に出てきた。冬の間に葉をむしられたのか、枝だけになった木がところどころに生えている。いつの日か見たような黄色味を帯びた背丈の低い草に、木が影を落としている。
藁のようなものさえある。
おもむろに腰をおろした。なんとなく、座ってみたくて。
空気が暖かい。ひだまりってこのことを言うんだろうか?言葉と現実がリンクしていないが、たぶんそうなのだろう。
そのとき、僧侶のような服を着た胡散臭い雰囲気の人と、それを取り囲む人々を視界の隅に捉えた。
15人以上はいるとおもわれた。彼らはただそこにいた。何も発さず、ただ円形になって座っているだけだ。
それはさておき、本を持ってきたのだ。日向で本を読むと、本に陽が染みこむような感じがする。文字はひらけた空間に拡散して、また本の中へと戻っていく。文字列と景色がリンクする感覚は心地のよさをもたらす。次にこの本を読んだときには、きっとこの緑、青の色彩が鮮やかになる。
草むらに横になった。枝だけになった木と、青い空が見える。今日の空が限りなく青であることに初めて気づいた。眩しい。
遠くではだんじりの音が聞こえる。
管楽器の音も聞こえる。
ジャバラン、ジャバランジャバラン.......
プワープワー......
のどかだ。
そうしてどれくらい時間が経ったか、地面に影が侵食してきた。
僧侶たち御一行は影から遠いところまで逃れている。
俺だけが影の中に取り残されていた。
鞄を持って、日向の方へと移動した。
暖かな空間が待っているのだ。
しかしすぐまた影が押し寄せた。するとすぐ日向の方へと移動する。
その繰り返しだった。境界線の少し外側に逃げていく。しかし、境界線は着実に移動していく。
影の王国と日向の王国の二つがこの憩いの場をめぐって争っていた。
人々のいる陽だまりは、暖かったが眩しすぎた。
影はひんやりとして、あたたかい温度が欲しくなった。
そして俺は立ち上がった。