犠牲の羊たち
注文した料理がまだ来ない。私は焦っている。時刻はすでに18時10分を過ぎている。かれこれ20分、待っている。カウンター席から、私は店内を見回す。皆殺気立っていて、この空間における殺意の総和は、450人の人間を殺すことができるだけのものに相当するだろう。
4人の店員は皆ビギナーでもたついており、客をさばけていない。ああ、神様、間に合わせてください、腹が減って仕方がないんです。私は祈りにも似た心境で虚空を見つめている。あと15分後には仕事のために店を出なくてはならないが......。おそらく、間に合わないだろう。料金は前払いだったし、あぁこれはお金をドブに捨ててしまうことになるな。
「おい!まだなんですか?あとどれぐらい待てばいいんだ?」
客の1人が耐えかねて叫んだ。
「あとちょっとです」
店員は小さな声で狼狽えながら答えた。
私は落ち着きなく手をさすった。目の前にあるのは、申し訳程度に提供されたコップ一杯の水と、騒がしい人間たちだ。
私の空腹は限界に達していた。
「ああ、すみません。ちょっと時間が来てしまいそうなので、あなたたちで空腹を和らげましょう」
「え?」
店内の一人の客が困惑しながら反応した。続いて聞こえたのは___
「ギャアアァァッッーーーーー!!」
別の客の獣の断末魔のような悲鳴だった。
「独特な血ですね...…ちょっと疲れているんですかね?消耗した魂の香りがします。獲物は選ぶべきだったかな?……ですが、長い間血液については『断食』していたので…...新鮮に感じますね」
ドサッという音とともに、一人の客は地面に崩れ落ちた。その身体からは存在の重みである血液が失われ、その瞳は、生命からは程遠く、虚ろに開いている。
「あ、あ......」
客たちは恐怖のあまり瞳孔を開き、何も言えなくなっている。店内は途端に不満げなピリついた雰囲気から、恐怖に満ちた空間へと変貌した。
「またやってしまったな。やっぱり抑圧は身体にも精神にも良くないね。ある本で読んだんだ、木の葉を隠すなら森の中だとね。では死体を隠すなら......?」
彼はふらっと一歩動いた。
「_そう、死体の山を築けばいい。君たちの魂にも、血液にも興味はないけれど、多少私の空腹感は満たせるでしょう。さぁ、最後の望みがあるならば、今やっておくことです。あなたたちの手元のスマートフォンを触ることですか?それとも、恐怖の表情を浮かべることですか?」
彼は自身の谷底へとまた一歩踏み出した。
「私もあなたたち人間も、皆愚かですね。そう思いませんか?あなたたちは、どれほど威張ってみたところで犠牲に捧げられる従順な子羊なのです。そして私はこれから行うことによって遅刻するどころか次の仕事を見つけなければなりません」
彼はもうダメだった。世界が軋む音がした。
「ああ、おしゃべりがすぎましたね。3、2、1_0。時間が来てしまいました」
翌日、一つの町の人口が激減したというニュースが報じられた。