「有隣堂しか知らない世界」に電卓博士として出演した
先日、わたし、YouTubeに出演してまいりました。書店チェーンの有隣堂さんの超人気YouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」に“電卓博士”として出演させていただいたのです。
「有隣堂しか知らない世界」はチャンネル登録者数が29万人。すごいですね。略称は「ゆうせか」で、視聴者は「ゆーりんちー」と呼ばれているそうです。
番組MCはR.B.ブッコローさんです。正直なミミズクさんで、ブッコローさんからは「シャープの王道の人から見たら『うちの会社って、電卓つくってたっけ』みたいなポジション?」というご質問もいただきました。(全く怒っていないです!)そこでわたしも、少数精鋭の電卓グループを代表して、会社員人生の約半分、15年以上にわたって電卓に関わってきた技師として、電卓の良さを率直にお伝えしてまいりました。
出演にあたっては、ブッコローさんにどんな質問をされても答えられるように、わたしもあらかじめ準備をしました。
有隣堂さんの運営する店舗の視察へ。お伺いしたのは横浜の伊勢佐木町本店、横浜・みなとみらい、東京・有楽町、東京・日本橋の4店舗です。
伊勢佐木町本店は4Fの事務用品売り場に電卓コーナーがありました。でも…目立ちません。シャープの電卓はクレジットカードタイプだけでした…。他のおしゃれな3店舗は、そもそも電卓コーナーがありません…。店選びを間違えたかもと反省。
それでも、もしかしたら、有隣堂さんでの電卓の売り上げから、国内全体の市場規模やシャープの電卓売上高にまで話がおよぶかも?と思い、資料も用意していました。
でもまあ残念ながら、その目論見は外れました。ブッコローさんが有隣堂の社員さんに「有隣堂って電卓売れてるんですか?」とたずねたところ、
返事は「置いてます」。
え、置いてます?
「きさまー!売れてるか売れてないか聞いてんだよ。置いてるか置いてないか、なんか聞いてない」と叫んだブッコローさんに、わたしも同感でございます。笑
電卓なくてもスマホでよくない?
ブッコローさんは、電卓じゃなくてもスマホでよくない?というお考え。ブッコローさんいわく、「ブッコローの『スマホ最強!』の一声で、紙の地図の戦士、紙の時刻表の戦士…いろんな戦士たちが散っていきました」。シャープはスマホメーカーでもあるので、わたしも内心は複雑です。
さらに「スマホ全盛期、電卓ならではの良さってあるんですか?」とおっしゃいます。
もちろん、、、 です!
スマホは、電卓を使うためにアプリを立ち上げなければいけませんよね。電卓は、手にとって計算をすぐに始められます。
さらに、重要な会議に参加して、計算が必要なとき、スマホを取り出せますか?
ブッコローさんも「あー。でも、それは・・・ちょっとあるぞ・・・?」と賛同してくださいましたので、少しは伝わったのでしょうか。ホッとしました。
会議でスマホをさわっていると、仕事なのか私用なのかわかりませんが、電卓なら疑われません。電卓で計算した結果を発表したら、数字に強いヤツというイメージもできて、上司からも「お、しっかりやってるな!」と褒められたりなんかして。まあ、これは半分冗談ですが、スマホが使いにくい場面でも電卓なら問題ありません。だから、うちの会社では重要な会議でスマホを使って計算する社員はいないと信じています、、、!
スマホが持ち込めない世界
スマホが持ち込めない場所は他にもあります。
わたしが数十年前に通っていた大学の機械工学科は、工作機械を使う実習が多くありました。工作機械は、ちょっと当たっただけでも骨折したり、指が切断されたりします。注意が散漫になると思わぬケガをするので、作業中はスマホやパソコンを手元に置けません。計算をするときは電卓を使っていました。
化学の実験も同じです。劇薬を使うので、パソコンよりも電卓が向いています。工場や研究所もそうですね。万が一、劇薬を電卓にこぼしても、電卓ならそれほどお財布に響きません。
スマホ持ち込み禁止といえば、試験もそうです。スマホはインターネットにつないでカンニングができてしまいます。ところが、電卓なら持ち込みOKな資格試験もあります。「公認会計士」に「税理士」、「不動産鑑定士」など難易度がとても高い試験から、科学技術の資格としては最高峰の「技術士」、さらには「一級・二級建築士」の製図試験まで。「日商簿記検定試験」は電卓かそろばんを持ち込めるそうです。そろばん…渋いです。
電卓愛用者のいる世界
ゆうせか公開後、ゆーりんちーさんたちが投稿されたコメントを大変嬉しく拝見しました。電卓をご愛用いただいている方の声を聞ける機会も少なく、本当にコメントをくださった方ありがとうございました!
コメントにもあるように、電卓が必須とおっしゃる方は世の中にたくさんいらっしゃいます。昔のわたしのような理工系の学生さん。お仕事なら経理・財務・税務・会計さん、金融さん、技術さん、不動産屋さん、商業関係さん…。電卓愛用者の皆さんは、電卓に対して並々ならぬ思いを持っておられます。そんな方たちのためにシャープは今日まで60年間、さまざまな電卓をつくってきました。
進化した電卓あれこれ
日本で電卓産業が盛んになったのは1960年代後半~1970年代のことでした。最盛期には50社以上が激しい競争を繰り広げ、「電卓戦争」と呼ばれたそうです。
そして今から60年前の1964年。東海道新幹線が開通し、東京オリンピックが開催され、富士山の山頂にレーダーが設置された年に、シャープ初の電卓が誕生しました。世界初のオールトランジスタ電卓「コンペット CS-10A」です。
幅42×奥行44×厚さ25cm。重量は25kg。価格は535,000円で、当時の乗用車とほぼ同じです。キーボタンは100個もあります。現在の電卓と異なり、入力するときはそれぞれの桁ごとに0~9の数字を選んでボタンを押す必要がありました。しかも、ボタンは硬く、押し込むような操作が必要で「けんしょう炎になりそうだった」という声も聞きました。それでも計算スピードが桁違いに早く、音も静かで、世の中に大反響を巻き起こしたそうです。
あれから60年、電卓は手のひらサイズに進化しました。ブッコローさんにも、そんなわが社の電卓あれこれを体験していただきました。
プロ御用達の「実務電卓」
電卓の基本形といえばコレ。経理さんなどプロ向けの「実務電卓」です。四則演算(足し算・引き算・掛け算・割り算)、百分率(%)、平方根(√)などが計算できます。では、どこがすごいか、ご紹介しますね。
・高速早打ちはスマホの倍速
スマホの電卓アプリは画面を見ないと打てませんが、物理キーのある電卓は指の触覚でキーを押したことがわかります。スピードが重視される経理業務では、プロはノールックのタッチタイピングで電卓をタカタカタカタカッと連打します。このとき、電卓に求められるのは、プロの入力スピードに付いていくことです。
スマホの場合は、画面をタッチしてから約0.1秒後に反応します。つまり「1秒間に10回」入力できます。
それに対して電卓は「1秒間に16回」、高速早打ち機能がある実務電卓なら「1秒間に20回」入力しても処理できます。つまり、スマホの1.6〜2倍の速さでタカタカッと打っても付いていきます。
ゆうせかでは、ブッコローさんにスマホ電卓とリアル電卓で実演していただきました。
「1」と「2」を交互に、できるかぎり高速で「12121212…」と入力してもらいます。
スマホ、残念!最初が「2」から始まって、最後も「221」と打ち損じです。画面に映っているわたし、満面の笑顔ですね。心の中で「入力ミスが出なかったらどうしよう…」と心配していたんです。もしブッコローさんが成功したら「もっと早くタッチして!」「次は、目をつぶって、お願いします!」と、けしかける予定でした。
続いて実務電卓で「12121212…」。大成功です。画面のわたしもさっき以上に笑顔です。ブッコローさんは「はっ、速いっ…。画面、超キモかったっすよ。トゥルトゥルトゥルトゥルトゥル」と楽しんで、両手でもやってみたいと挑戦。「キッショ…」と褒め言葉をいただきました。
・2色成形キーは金太郎飴
電卓やキーボードの文字がかすれて消えた経験はありませんか?しかたないから勘で打ったり、油性ペンで数字を書いたり…。一般の電卓は数字を印刷しているので、使っているうちにこすれて見えなくなることがあります。
実務電卓の上位モデルに採用している「2色成形キー」なら、そのような心配はありません。写真は「3」のキーを半分に切ったものです。白と黒、2色のプラスチックでつくった数字が奥まで続いているので、キーの表面がすり減っても金太郎飴のように数字が現れ続ける構造になっています。ブッコローさんにも「これはいいことを知った…のか?」と多分、喜んでいただきました。
・横から見るとわかる傾斜キー
電卓のキーを横から眺めたことはありますか?よく見ると、上の列「789」のキーは高く、真ん中の列「456」は低く、下の列「123」はその中間ぐらいの高さになっています。「5」のキーに中指を置いたとき、「789」は自然に押せる角度に、指を少し曲げて打つ「123」は打ちやすいように傾斜をつけています。このデザインを「スカルプチャーキー」といいます。
1つ1つのキーも、よーくご覧ください。指にフィットしやすいようにカーブをつけて真ん中をくぼませています。これが「シリンドリカルキー」です。
ゆうせかを予習していたとき、有隣堂の新入社員さんが、ゆうせかをBGMとして流しっぱなしにしていたと話されていたので、「聴いている」視聴者も多いのだろうと推測。きっと電卓の知識もお持ちじゃないという前提で、テロップがなくても、耳から入る情報だけでも内容がわかるようにと考えました。
社内で使う専門用語は、一般の人にわかりやすいように言い換えました。「嵌合」は「はめ込み」に、「摺動」はキーを押したときの「上下の動作」に、という具合です。
「スカルプチャーキー」「シリンドリカルキー」はカタログにも載せている用語なので、そのまま使おうと思ったのですが、有隣堂さんとの打ち合わせで「これも、わかりにくいんだ」と気づかされました。わたしも、まだまだ勉強中の身です。
・プラスチックもゴムもあります
ゆうせかではご紹介しませんでしたが、キーの材料にも種類があります。最近のシャープの主流は「プラスチックキー」です。プラスチックキーの下にはゴムが入っていて、ゴムの硬さを調整することで、軽く入るキー、押したときにクリック感のあるキーといった調整をしています。
「ゴムキー」は薄くできるので、薄型の電卓に使われます。操作したときの音がなく、静かなのが特徴です。
・静かな場所で使うならサイレントキー
静音構造で操作音が静かなキーもあります。キーには出っ張りがあって、その部分が筺体に当たったときにカチッと音がするのですが、「サイレントキー」は出っ張りと筺体の間にクッションになるモノを入れて、音が鳴りにくくなるようにしています。
ローンや外貨預金の計算は「金融電卓」
金融電卓は、ローンや外貨預金の計算など、金融に特化した電卓です。使うのは、銀行や証券会社など金融関係の方や、不動産会社の営業担当者など。一般の人でも、ローンの返済計画を立てるときや、投機など資産運用をするときに便利なのでおすすめです。小・中・高校で金融教育が始まっているので今後、活躍の場がさらに広がるかもしれません。
ゆうせかの事前準備では、①月々の融資額を計算する、②返済までの月数を計算する、2パターンを用意していましたが、当日のブッコローさんの反応を見て、②の月数計算で説明することにしました。
お題は「100万円を利息6%で借りました。毎月5,100円返済すると、返済まで何カ月かかるでしょう」。ブッコローさんに入力してもらうと、答えは788カ月。65.7年ですね。ほとんど利息だけを返している状態です。
今度は、毎月の返済額を5,000円に変えてブッコローさんに計算してもらいました。
月数の表示が「0」に!電卓の画面の左側に「E」が出てしまっています。毎月5,000円の返済額だと、利息を払い続ける状態が続いて元金が減らないためエラーとなってしまいます。
そんな計算ができるので、ブッコローさんも「いいこと知ったわァー…。コレおいくらなんですか?」と興味津々。ゆうせかで使ったEL-K632は税込4,378円です。この値段で人生が変わるかもしれませんね。
ブッコローさんから「岩附さん、利息6%で僕に100万借りません?月々5,000円でいいっすよ」と持ち掛けられたのは秘密にしておきます。笑
余談ですが、わたしの電卓人生で最も開発に苦労したのが、この金融電卓です。ローンの返済方法には、ありとあらゆるパターンがあります。開発過程であまりにも悩みすぎて、体重がみるみる減り、同僚には「最近ちょっとやつれてきたよ」と心配され、直属の上司は当時住んでいた寮に何度も様子を見に来てくれ、さらに上のチーフは「本当にまずいことがあったら相談するんだぞ」と声をかけてくれました。もし、後継機をつくることになっても、担当者は別の人に!と心から祈っております…。
理系の心をガッチリつかむ「関数電卓」
電卓の液晶に「分数」が表示されているのを見たことがありますか?関数電卓は、分数・√・Σなどの数学記号を含む数式を、教科書に書かれているとおりに表示できる電卓です。
サイン、コサイン、タンジェント。πもあります。ブッコローさんは「スッゲエじゃん…電卓に分数出てんの、初めて見た!」と大興奮。計算した後、「CHANGE」キーで「仮分数→小数→帯分数」に表示を変更する操作は、見た目の変化もあるし動画向きかな?と思って取り入れました。ブッコローさんには「帯分数とか懐すぎて…涙が出そうなんですけど」と泣いていただき感無量です。
主なユーザーは理工系の学生さんやわたしのようなエンジニア。最近は経済学や社会学、金融を勉強している方にもお使いいただいています。
ゆーりんちーさんたちのコメントでも、関数電卓は大人気でした。
ブッコローさんの一択「プリンタ電卓 」
ブッコローさんが唯一「欲しいのは、あれ。全国民が欲しいでしょ」と言ってくださったプリンタ電卓です。計算結果を紙に残せて、日本ではホテルのフロントや個人商店など使われる場所が限られていますが、海外ではわりとポピュラー。日本でいう確定申告をするときに、計算結果のエビデンスを付けろという決まりがあるらしく、重宝されているようです。
とはいえ、国内での需要が少ないので、ゆうせかでトークが持つか心配でした。そこで有隣堂さんが扱っている文具や食品を伝票計算の例題として用意しました。「ボールペン100円」、「ノート210円を2冊」。このあたりでブッコローさんが店員役となり即興コントがスタート。動画ではカットされましたが、とても楽しい時間を過ごせてわたしは大満足です。
プリンタがカチカチ動いて印字するところでは、ブッコローさんはキャアー!フホホホォーウ!最後は、紙が切りやすい位置までキーを押して紙を送るのですが、ブッコローさんが長く押しすぎて、「あぁーーーーーっ…」と二人で悲鳴をあげました。
わたしの推しは「学校教育用電卓」
ゆうせかではカットされましたが、わたしの推しもご紹介させてください。簿記や会計を勉強する人向けに開発した学校教育用電卓です。税込キー、税抜キーをわざと外して、電卓に頼らず計算の原理が身に付くようにしています。
では少しよろしいでしょうか。次の2つの電卓の画像、何か違いがありませんか?
よ~く見てください。3桁区切りのカンマ「 , 」はどの位置にありますか?
カンマは下じゃなくて、上。これが普通の電卓です。
それに対して学校教育用電卓は、3桁区切りのカンマが下にあります。この下カンマの表示は特許も取っています!
下に、小数点「 . 」とカンマ「 , 」どちらも表示できるようにするには、あらかじめ「 . 」と「 , 」を並べて配置しておく必要がありますが、そんなスペースはありません。そこで新しい表示方法を開発しました。小数点用の表示部分、カンマ用の表示部分、さらに両方で使える共通部分をつくったのです。小数点はちょっと大きめに、カンマは普段見慣れた下の位置に表示しました。
ところで、なぜ電卓はカンマが上に付いているのでしょう?
実はカンマは、日本やアメリカは「下」ですが、ヨーロッパをはじめとする世界では「上」が多いようです。
日本が「下」になったのは、昭和27年、内閣官房長官が各省庁に通知した「公用文作成の要領」からだといわれます。「3桁ごとにカンマでくぎりなさい。カンマは下に書きなさい」。それが、やがて一般にも広まったそう。昭和27年は終戦から間もない頃。GHQの統治はこの年まで続いていました。おそらくアメリカへのいろんな忖度があったのでしょう。
それなのに日本の電卓メーカーは、シャープも含め、ほとんどがカンマを上に付けています。理由の一つは、海外に輸出するためではなかろうかと思っています。電卓は、日本よりも海外の方が、ものすごく需要が高いんです。特に教育分野で、日本の電卓は大いに活躍しています。
存在するのに使われないキーボタンたち
キーの構造や電卓の種類に、少しは興味を持っていただけたでしょうか。電卓には数字や+−×÷の他に、「どう使うかわからない」といわれるキーボタンもあります。ここではごく簡単にご説明します。
■クリア機能「C」
Clear:クリアの「C」と覚えてください。「CA」はClear All:クリアオールで、メモリーの中にある数値なども全て消します。「CE」はClear Entry:クリアエントリーで、今表示されている数字を取り消したい場合に使用します。今まで計算してきた結果は残るので安心です。
■メモリー機能
メモリー機能は、画面表示されているものと別の場所に記憶しておく機能で、「GT(グランドトータル)」と「M(メモリー)」の2種類があります。
・「GT」
「GT(グランドトータル)」は、計算した数値を累計するのに便利なキーです。
たとえば「5×4」と「2×4」など複数の計算式の結果を累計したい時は、GTが便利です。
・「M」
「M」の付くキーは、Memory:メモリー関連のキーで、「M+」はメモリーに追加、「M−」はメモリーから削除、「RM(リコールメモリー)」はメモリーの中身を見る、と覚えてください。計算結果を足していくだけの「GT(グランドトータル)」と違って、「M−」で引いていくこともできます。
計算では、最初に「CM(クリアメモリー)」でメモリーの内容をクリアしてから、入力します。最後に「RM(リコールメモリー)」を押して、メモリーの内容を呼び出します。
たとえば「5×4―2×4=」を計算してみます。
簿記試験では、この2つのメモリー機能を別々に管理したり、組み合わせたりして、いかに早く問題を解けるかが腕の見せどころです。インボイス制度で消費税率8%と10%のものを別々に合計するときにも使えますね。
電卓の原点、歴史的偉業に選ばれる
さて、ここまで電卓のお話を長々と書きつづってまいりましたが、すべての出発点は、あの世界初のオールトランジスタ電卓「コンペット CS-10A」でした。
わたしの家は珍しいモノ好きの両親が集めた色々な電化製品があったせいか、わたしは幼少期から電化製品が好きでした。小・中学生のときはTV局のような大きなビデオカメラを肩に担いで撮影したり、取説を見ながら電卓で遊んだり。コンペットではありませんが、シャープの初期の電卓も家にありました。
そんな生い立ちもあり、わたしがシャープに入社したのは、コンペットが誕生してから34年後の1998年。当時はインターネットが盛り上がってきた時代です。Windows98とか懐かしいですよね。
それから月日は流れて2005年、ビッグニュースが飛び込んできました。「コンペット CS-10A」が「IEEEマイルストーン」に認定されたのです。
IEEEは、世界最大の電気・電子技術者による非営利団体組織(学会)です。マイルストーンに選ばれた他の歴史的偉業には、雷が電気であると証明したベンジャミン・フランクリンの業績や、電気学の始祖と呼ばれるボルタの電池などがあります。
そこに肩を並べるなんて、これほど名誉なことはありません。当時のわたしは電卓とは違う部署にいましたが、シャープの先輩方がつくったものが評価されたのがすごく嬉しかったことを覚えています。
シャープだけではありません。この受賞は、電卓につながる基礎研究をしている人、部品を開発するメーカーさん、いろいろな人たちの技術が積み重なっての受賞です。みんなが認められたようで、本当に嬉しかったなと当時を懐かしく思い出します。
電卓60周年のニューフェース
こうして脈々と続いてきたシャープの電卓は、2024年、60周年を迎えました。60年目の新モデルはフラットフェースなデザインです。
キーの凸凹はありません。しっかりと押せる「押し心地」にこだわりました。通常の電卓は、大きなキーの端を押すと、うまく入力できなかったりするのですが、これはキーの端を押しても、キーが傾きにくい設計に。パソコンのキーボードに近い快適な操作感を目指し、ブッコローさんには「ニュメッとしてますよね」と斬新な評価をいただきました。
ゆーりんちーさんたちのコメントには、簿記をやる人あるあるとして、キーの角を押すと電卓が反応せず計算ミスにつながるので「どこを押しても反応してくれるのは嬉しいよね」というご感想や、「パソコンを使いながら電卓を叩くと、もっさりした違和感があるんですが、このキーならスムーズに電卓を使えると思いますね」との声も見られました。ありがとうございます。
残念ながら電卓の国内需要は下がっていますが、電卓はなにものにも代え難いツールとして求められている地もあります。電卓60周年を迎えた現在、シャープの電卓は、国内より海外での売上比率の方が高くなっています。
欧州やアメリカなどの先進国では、普通科の授業で関数電卓が使われます。論理的な考え方を学ぶところに時間を割き、計算すれば答えが出るところは電卓でサッと済ませる、といった授業スタイルのようです。
また、新興国でも、工業力を高めるために科学者や技術者を増やすことが政策として重視されていて、学校の授業に電卓が取り入れられています。
南アフリカでも大活躍!
南アフリカでは、現地の教育コンサルタントと協力して、学校への電卓普及に取り組んでいます。
南アフリカの公用語は、英語とアフリカーンス語だそうです。わたしにも南アフリカへ視察に行くかい?とお声がけをいただいたんですが、残念ながら英語がからっきしダメで、アフリカーンス語は言うまでもありません。現地から送っていただいた子どもたちの写真を見て、「うちの電卓が役に立っているなぁ」と喜んでいます。
数字や数学記号、数式は、世界共通の言語です。五線譜に書かれた音符や奏でるメロディーと同じように国境の壁を越えていきます。
わたしたちシャープの電卓がきっかけになって、世界中の子どもたちが数学や科学への興味を持ってくれたら素晴らしいですよね。
そして、わたしと同じようなエンジニアや、電卓を相棒として使ってくださる方たちが、南アフリカにも、カナダにも、日本にも、もっと増えればいいなと思っています!
(余談ですが、カナダではかなりのシェアを誇っていたりします。)
海外でも人気の関数電卓に限らず、電卓ってすごく息の長い商品なんです。学生の頃に買った電卓を、10年たっても使い続けているビジネスパーソンの方も多いようです。
長く使っていると、持ったときのサイズ感やボタンの配列、押し心地などが体になじんでくるんですね。そうやって大切に使ってくださるユーザーの皆さんには、本当に感謝しかありません。
「10年、20年使っていたら壊れてしまって、新しい物に買い替えたいんだけど、どれが自分の持っている電卓と一番近いですか?」というお問い合わせも、年に何回もあります。
新商品を開発するときは、どうしても新しい技術を入れたり、何かを変えたりしたくなるんですが、そうやって長く使ってくださる方がいらっしゃるので、昔から親しまれた特長はあえて変えず、でも使いやすさはできるだけ使いやすく、と心がけています。
そうして次の電卓も、また次の電卓も、シャープを選んでいただいて、100年、200年と歴史を紡いでいきたいと思っています。
終わりに…。
この60年の節目に、ブッコローさんに、シャープの電卓の世界を知ってもらえて、とてもうれしかったです。
会議で使いにくいスマホの代わりに、電卓を持てば、ブッコローさんの人生も変わるかもしれませんね。