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学生アルバイトと労働保険・社会保険の加入要件(昼間学生版)

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている東京恵比寿の社会保険労務士法人シグナル代表 特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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担当者「弊社は社会保険の適用拡大において今後は週20時間以上の従業員が対象なのですよね。」
弊所「そうですね。あれ?!学生アルバイトの●●さんも加入手続きをしちゃいましたか?!」
担当者「?!しました。。。え。。。。」
ということがありましたので、今回は、「学生アルバイトと労働保険・社会保険の加入要件(昼間学生版)」についてお伝えします。

 

以前、「労働保険(労災+雇用)・社会保険の加入表 昼間学生版付き」という記事で昼間学生についてご説明したのですが、学生アルバイト(インターン)についてのご質問を多く受けていることや、社会保険に関する法改正などもあったことから、この機会に独立した記事として新たに書き下ろすこととしました。

 

学生の方を会社業務に活用されている企業の経営者や人事労務担当者の方は、主に次の3点についてご注意ください。
(1)「労働者」か否か
(2)「インターン」の扱い
(3)「昼間学生」か否か

 

詳しいご説明は後でしますが、ここではその学生の方が
(1)「労働者」であるならば労働法の保護を受ける立場となること
(2)インターンである場合に有給インターンと無給インターンを正しく区別する必要があること
(3)昼間学生か否かで扱いが異なる場合があること

というポイントを念頭に置くようにしてください。

 

(1)は当たり前のように思われるかもしれませんが、学生の方を「フリーランス」のつもりで使用していたところ、実は労働者として扱わなければならないケースだったという場合もあるので注意が必要です。
(2)は最近トラブルが増えているインターンの学生に関する扱いの問題です。
(3)は、学生アルバイトの方が昼間学生であるか否かで加入すべき労働保険・社会保険が違ってくる問題です。

 

この3つについては、詳しい説明をすると長くなりますので、今回は取り急ぎ必要な対応を知りたい方のための<基本編>と、詳しい説明まで知りたい方のための<理論編>に分けてご説明することとします。

 

<基本編>
以下では、「昼間学生のアルバイト」(有給インターンを含む)という設定で、労働保険・社会保険の加入条件についてご説明していきます。

 1.労働保険(労災保険+雇用保険)
 「労働保険」とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険の総称です。
以下、それぞれについて見ていきます。

 

(1) 労災保険
労災保険は、原則として労働者であれば正社員、契約社員、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態に関係なく、また、時間・日数・期間を問わず適用対象になります
(事業主と同居している親族などは対象外です)。

1日だけ、あるいは1時間だけの短期アルバイトでも労災保険の適用対象です。
そのため、雇用保険や社会保険のように、資格の取得および喪失などの手続きは不要で、保険料は全額事業主(使用者)が負担します。 

学生アルバイトであっても労働者ですから、労災保険の適用対象者となりますので、業務上の負傷疾病(業務災害)や通勤途中の負傷疾病(通勤災害)について、労災保険から給付が受けられます。
ただし、休業については、休業から最初の3日間は待期期間として給付が受けられません。
この3日間が業務災害によるものである場合は、事業主が休業補償を行う必要があります。 

労災保険の給付の申請は、被災した労働者本人が労働基準監督署に対して行う必要があります。

 

(2)雇用保険
雇用保険は、原則として次の要件に該当する労働者であれば、本人の希望の有無に関わりなく適用され、使用者(事業主)が資格の取得および喪失などの手続きを行う必要があります
。 

①週の所定労働時間が20時間以上であること
②31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
③アルバイトの場合は、以下の労働者でないこと
・昼間学生
・4か月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される者
・臨時内職的に雇用される者 

ということは、学生アルバイトが「昼間学生」である場合は、雇用保険の適用対象外ということになります。
これは、昼間学生の場合は「学業が本分」であるため、雇用保険の保護を及ぼす必要がないという判断によるものです。

 

ただし、昼間学生であっても、次に該当する場合は雇用保険の被保険者となります
①卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同一事業所に勤務する予定の者
②休学中の者(休学中であることを証明する書類が必要)
③雇用関係を存続したまま大学院等に在学する者
④一定の出席日数を課程終了の要件としない学校に在学する者で、同種の業務に従事する他の労働者と同様に勤務し得ると認められる者 

このような要件もあるため、人事労務担当者の方は、「昼間学生だから雇用保険の対象外だな」と即判断するのではなく、就職内定者の学生が卒業前にアルバイトするような場合や、休学中でないかの確認を怠らないようにしてください。

 

2.社会保険(健康保険+厚生年金保険)
「社会保険」という用語は、広い意味(広義)と狭い意味(狭義)の2つの使われ方をしています
。 

広義の社会保険=労働保険(労災保険・雇用保険)+狭義の社会保険
狭義の社会保険=健康保険・厚生年金保険・介護保険

 

表にすると、次のようになります 。

通常、労務管理の世界で「社会保険」というと狭義の社会保険を意味することが多いです。
2024年10月から「社会保険の適用拡大」の対象が従業員数51人以上の企業にまで広がりましたが、ここでいう「社会保険」も狭義の社会保険である健康保険と厚生年金保険のことです。
以下「社会保険」は狭義の社会保険を意味するものとして用いることにします。 

なお、介護保険制度においては40歳以上65歳未満が「第2号被保険者」となりますが、その保険料(介護保険料)は医療保険料(健康保険料)と併せて徴収されていますので、ここでは健康保険に含まれるものとしてご理解ください。

 

(1)社会保険(原則)
 社会保険は、原則として法人事業所および常時従業員が5人以上の個人事業所(あわせて「適用事業所」といいます)または従業員の半数以上が適用事業所となることに同意し、事業主が認可を受けた事業所(「任意適用事業所」といいます)に常時使用されている者で、次のいずれかに該当する人が加入対象となります。 

①正社員
②1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上ある人 

②の要件を「4分の3基準」といいます。
「常時雇用者」とは正社員のことだと理解しておいて良いでしょう。
②の要件を満たせば、非正規雇用労働者(契約社員・パートタイマー・アルバイト等)でも、社会保険の加入対象となります。 

さらに、①または②に該当する人以外に、法人の代表者と役員も加入対象です。。

 

(2)社会保険(適用拡大)
先ほど「社会保険の適用拡大」という言葉が出てきました。
国は2016年から短時間労働者の社会保険加入を推進しており、2024年10月以降は、以下の要件のすべてを満たしている人が社会保険の加入対象となっています。 

①週の所定労働時間が20時間以上であること
②所定内賃金が月額8万8000円以上(年収約106万円以上)であること
③2か月を超える雇用の見込みがあること
④学生ではない
⑤従業員数51人以上の企業に勤務していること

 

(3)学生アルバイトと社会保険
さて、学生アルバイトの扱いですが、原則として「4分の3基準」((1)の②)を満たしていれば、社会保険に加入することになります。
ここでご注意いただきたいのが、社会保険の適用拡大対象である従業員数51人以上の企業であっても、学生アルバイトは適用拡大の対象にならない((2)の④)ということです。 

なぜ、学生アルバイトが社会保険の適用対象外なのかについては、厚生労働省の「短時間労働者に対する適用範囲の在り方について」という資料では、「学生はパート労働市場における重要な労働供給源であるが、短期間で資格変更が生じるため手続きが煩雑となるとの考えから、適用対象外としている」という説明がなされています。 

具体例で考えてみますと、

ア 週所定労働時間が正社員の4分の3以上ある昼間学生アルバイト
社会保険の加入対象となります。
ここが雇用保険との違いですのでご注意ください。
たとえば、週所定労働時間が35時間の昼間学生アルバイトは、「雇用保険なし+社会保険あり」ということになります。 

イ 週所定労働時間が正社員の4分の3未満である昼間学生のアルバイト
原則の「4分の3基準」を満たしていない上に、学生は社会保険の適用拡大の対象となっていませんので、企業規模を問わず社会保険の加入対象とはなりません。
つまり、この場合は「雇用保険なし+社会保険なし」ということになります。

 

ただし、学生であっても、次の方は社会保険の加入対象となります。
①卒業見込証明書を有する方で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の方
②休学中の方
③大学の夜間学部および高等学校の夜間等の定時制の課程の方等

 

3.まとめ
以上のご説明を表にまとめると、次のようになります。

 

ご参考までに、「社会人版」は次のとおりとなります。



<理論編>
<基礎編>で昼間学生アルバイトの労働保険・社会保険加入についてはご理解いただけたと思いますが、さらに詳しく理解したい方は以下のご説明もぜひお読みください。

 

1.「労働者性」の問題
労働者とは、「職業の種類を問わず,事業⼜は事務所に使⽤される者で,賃⾦を⽀払われる者」をいいます(労働基準法第9条)。この「労働者」に該当するか否かの問題を「労働者性」の問題といいます。労働者性は、 

①労働が使用者の指揮監督下で行われているか(指揮監督下の労働)
②報酬が労働の対価として支払われているか(報酬の労務対償性) 

という2点で主に判断されます。
この2点をあわせて「使用従属性」の基準といいます。

 

アルバイトも、使用従属性が認められれば労働者性ありということになります。
当然のことのように思えますが、なぜこのように厳密な判断をしなければならないかというと、いくつも理由はありますが、その中でも大きな理由としてはフリーランスと区別をする必要があるからです。 

最近はUber Eatsの配達員のようなギグワーカー(プラットフォームワーカー)がメジャーな存在になりましたが、この働き方もフリーランスの一例です。
フリーランスには「仕事の諾否の自由」があります(配達員が配達を引き受けるかは自由です)し、「仕事の完成」に対して報酬が支払われます(配達員は配達を完了してはじめてお金がもらえます)。
それに対して、アルバイトは労働時間中に命じられた仕事を拒否することは原則的にできませんし、仮に仕事が完成しなくても、労働時間に対して賃金(時給など)が支払われます。 

アルバイトとフリーランスには、このような違いがありますが、労働者性の有無による最大の違いは「労働法」(労働基準法など)の保護を受けられるかどうかにあります。
もっとも、フリーランスとは名ばかりで、実態が労働者と変わらないというような場合は、労働法の保護の対象となります。
たとえ契約書に「業務委託契約」と書いてあっても、使用従属性はあくまで実態で判断されるからです。

 さらに、近時はフリーランスも「雇用類似の働き方」である場合は、従来以上の保護が及ぼされる傾向にあります。
また、2024年11月1には、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が施行されますので、こちらにもご注意ください。

 

(2)「インターン」の扱い
インターンシップとは、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の「インターンシップ推進に当たっての基本的考え方」(以下、「考え方」といいます。)によれば、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」とされています。
簡単にいえば、学生が企業で行う「就業体験」のことですね。 

このインターンシップに参加している学生のことをインターンと呼んでいますが、このインターンにも賃金が支払われない「無給インターン」と賃金が支払われる「有給インターン」があります。 

純粋に企業の現場を見学するレベルにとどまるような場合は無給でも問題ありませんが、企業の指揮命令を受けて業務を担当するような場合は、たとえ短時間あるいは短期間であっても有給でないと違法となります。
結局、(1)でご説明した「労働者性」が問われるということです。 

「考え方」においても、「インターンシップの実施にあたり、受け入れる企業等と学生の間に使用従属関係があると認められる場合など、労働関係法令が適用される場合もあることに留意する必要」があるとしています。

 

(3)「昼間学生」か否か
「昼間学生」とは、学校教育法第1条、第124条又は第134条第1項の学校の生徒又は生徒を指します。
雇用保険の適用においては、「通信教育を受けている者、大学の夜間学部・高等学校の夜間又は定時制課程の者」が昼間学生ではないとされています。
 

以上が、「学生アルバイトと労働保険・社会保険の加入要件(昼間学生版)」のご説明になります。
学生アルバイトも労働者ですので、採用時の「労働条件通知書」の交付に始まり、使用する側は労働・社会保険諸法令を遵守しつつ働いてもらう必要があります。
実際の労務管理で疑問が生じた際には、ぜひ専門家である社会保険労務士にご相談ください。


 それでは次のnoteでお会いしましょう。


お仕事のご依頼はこちらまで info@sharoushisignal.com
※お問い合わせを多数頂いており、新規のご依頼に関しましては、原則として人事労務コンサルティング業務、就業規則等の作成業務、労務監査(労務DD・労務デューデリジェンス)業務のみをお引き受けさせていただいております。
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