【恋愛エッセイ】「あなたはズルい」と過去の私は言ったのに
今でも思い出す。
「俺、いま、自分に自信がないから。。。ごめん。」
彼は確かにそう言ったのだ。
そして私は言い返した。
「それは。。ズルいよ。ズルすぎる。」
自信がないから。。。ごめん。かぁ。
言い訳なのか、本当にそうなのか分からなかったけど、彼にはそう言うしか道が無かったのかもしれない。
そしてそれほどに圧迫させてしまったのは、もしかしたら私のせいなのかもしれない。
その後、なんと言っていいのか困り果てた彼はお酒を飲むしかなかったし、
私はバーの遠くをただ瞬きなしで見つめるしか出来なかった。
ただただ何も生まない、あの空っぽな時間を思い出すだけで、今でも私は目頭を熱くしてしまう。それほどに強烈な恋だった。
ありがたいことに時間は勝手に過ぎていってくれた。
が、あの頃の彼の困った本当に自信の無いような顔を忘れるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
ブリスベン空港行きの電車があと13分後に迫っていた。
セントラル駅で待つ二人。
ジンジャーカラーの髪とグレーがかったブルーの瞳を持つイギリス人と
黄味がかった浅黒い肌と低い鼻の日本人。
イギリス人の彼が口を開いた。
「俺たちの関係をこれからどうする?メルボルンとブリスベンの遠距離になるけど」
私は
「今の私の状態で100%遠距離恋愛にコミット出来るか分からない。でも、もしあなたが遠距離恋愛を望むなら、出来る限り関係が上手くいくように努力する」
これが私が少し前から考えていた柔らかいサヨナラ台詞。
「恋愛ってどちらかが望んで、片方がそれを成り立たすために努力するものじゃなくて、お互いが好きという気持ちで合意して築いていくものじゃないの?」と彼が言うから、私はそうだねと言うしかなかった。
あの時みたいに瞬きを忘れて改札口の先、遠くを見つめる。
どこかで通り過ぎたような、何も生まない空っぽの時間が流れる。
そして私は言った。
「私、いま、自分にいろいろ自信がないから。ごめん」
彼が乗る予定の電車が5分後に迫っている。
彼はAlrightと言い、私にハグして改札へ向かった。
改札を抜けると彼が片手を大きく上げて、最後の合図をした。
私は、ハッとなり「Safe flight」と出来る限りの大声で叫んだ。
周りの人々は振り返ったが、彼は振り返ることもせず前を向いて進んでいった。
私も家に帰ろう。
ついさっき、彼と歩いていた道を今度は一人で引き返している。
駅の外に出るとそこには冷えたオーストラリアの夜が広がっていた。
枯れた水分のない葉っぱの匂いがくすぐったいせいなのか分からないけど、つい30分前まで付けていたサングラスを暗闇でつけなくてはならないほどに、私は悲しんでいた。
私は彼のことを好きになれたら良かったと思った。
そしたら、こんなオーストラリアの寒い夜道と枯れ葉の香りで一人泣くことはなかったかもしれない。
そしたら、これからどうしたらいいのか分からない不安の渦の中でも、せめて向かう先が見つかるまで彼の肩に寄りかからせてもらうことが出来たのかもしれない。
でも、そんなこと結局、私の勝手に過ぎないと感じた。
自分の選んだ道中で不安だから、孤独だから、怖いから、ただ誰かに頼りたかった。
でも、そんな理由で私のことを好きになってくれた人を横に置くのは違うと気が付くと、自然と大きなため息がでた。
等身大の自分が目の当たりにした、等身大の自信の無い自分が露呈しただけか。
正直なところそれだけじゃない。
ただ「自信がない」と言い訳したかったのかもしれない。
何と彼に言っていいのか分からなくて、でも悪者になりたくなくて、
わざわざブリスベンまで会いに来てくれた彼が少しでも報われて欲しいと思って、どうかあなたが悪い訳じゃないんだよって分かって欲しくて、そして本当に何もかもに自信がなくて。
私は言ったのだ。「自分に自信がない」と。
私は。。ズルくなってしまったのだろうか。
そのイギリス人に私がどう映ったかは聞く権利などもう私にはないのだが。
5年前、自信がないと言った彼の横顔とやかましく鳴り続ける洋楽ポップを鮮明に思い出す。
5年前の彼も私と同じようなこんな気持ちで言ったとしたら、彼は私に恋心を持っていなかったのではないだろうか。
だとしたら、私たちが一緒に過ごした時間は彼にとって何だったのだろうか。私は自信が無い彼がたまに寄りかかるためだけに横に置かれた女の子だったのか。
さっきイギリス人とサヨナラしたばかりのはずが、私はとっくに5年前にタイムスリップしてあの時の彼の気持ちを手探りしている。
そっか、やっとわかったよ。
彼の勝ちだよ。だって、もう5年経つのに彼は私の中で悪者になったことがないんだから、ズルい。
きっと彼の中では私に精一杯優しさを込めて断ってくれていたのかもしれない。
どうしてこうも恋愛は難しいのだろうか。
スキで好きで仕方ない人とはなかなか結ばれないのに、一方で好きと言ってくれる人を好きになるのは至難の技なのだ。
私はバスの窓に映る自分の顔を見た。
サングラスを取ると、マスカラは落ちて下瞼にへばりつき、口紅もはげきっていた。
そこにはただ、黄味がかった浅黒い肌、硬く太い黒髪、十円玉みたいな色の瞳に低い鼻の日本人が一人泣いていた。
~あとがき~
先日、↓こちらの記事を書きました。
私には心から「幸せになって欲しい」と祈り願う愛する人たちがいる。
簡単に言うとそんな内容を書きました。
善い者に映りたいとかではなく、これは紛れもない事実なのです。
私はもしかしたらズルいのかもしれない。
でも、恋愛とは関係なく大切にしたい愛でたいと思うこのイギリス人の彼に
「どうか幸せになってください」と今夜、私は心から祈るのです。
Have a good life, J.
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