プロティアン･キャリアとは？今の時代にこそ求められるキャリア形成方法について解説
あなたのキャリアを決めているのは誰ですか？変化の激しい現代社会で注目されている「プロティアン・キャリア」をご存知ですか？
これは、ギリシア神話の変幻自在の海神プロテウスにちなんで名付けられた概念で、自分自身がキャリアの主人公となり、柔軟に進化し続けるキャリア形成法です。
1976年にダグラス・ホール教授が提唱したこの理論は、「組織主導」から「個人主導」へとキャリア観をシフトさせます。成功の定義も、組織での出世ではなく、自己の価値観に基づく満足感へと変わります。
あなたも、環境の変化に応じて自分らしいキャリアを築いてみませんか？
従来型のキャリアとプロティアン・キャリアとの比較
ここでは従来型のキャリアとプロティアン・キャリアの違いについて解説します。2つのキャリアについての考え方を表にまとめると下記の通りです。
プロティアン・キャリアの特徴
プロティアン・キャリアは従来のキャリアと比較すると、より個人に重きを置いています。プロティアン・キャリアが個人を重視する背景には、以下のような理由が考えられます。
価値観の多様化
個人の価値観や人生の目標が多様化し、画一的なキャリアパスでは満足できない人が増えている
雇用環境の変化
終身雇用制度の崩壊や雇用の流動化により、一つの組織に依存せず自律的にキャリアを構築する必要性が高まっている
ワークライフバランスの重視
仕事と私生活の調和を重視する傾向が強まり、個人のニーズに合わせたキャリア選択が求められている
組織の限界
急速な環境変化に対応するため、組織よりも個人の柔軟性や適応力が重要視されるようになっている
たとえばプロティアン・キャリアの最終的な目的は、組織での成功ではなく、自分自身が満足できることです。給料や地位が上がることよりも、自分自身の成長や心理的な成功を目指すというのがプロティアン・キャリアの考え方です
従来型のキャリアの特徴
プロティアン・キャリアが個人に重きをおいているのとは対照的に、従来型のキャリアは組織に重きを置いています。大きく4つの背景が考えられます。
組織主導
従来型のキャリアでは、個人のキャリア発展は主に組織によって計画され、管理されます。昇進や異動などは組織の判断に基づいて行われることが多い
長期的な雇用関係
一つの組織に長期間、理想的には定年まで勤務することが期待される
組織への忠誠心が重視される
垂直的な成長
キャリアの成功は個人のスキルより組織内での昇進によって測られる
地位の上昇が重要視される
安定性重視
職務の安定性や予測可能性が重視される
リスクを避け、組織の中で既に確立されたキャリアパスに従うことが奨励される
たとえば従来型のキャリアの最終的な目的は、組織内における地位の向上や給料のアップになります。地位の向上にはもちろん個人としてのスキル向上も求められますが、それ以上に組織内での立ち回りや、権力を持つということに価値観を置きます。
プロティアン・キャリアの形成のために必要な3つの要素とは
ここではプロティアン・キャリア形成のために必要な要素を見ていきます。主に下記の3つが考えられます。
アイデンティティの確立
アダプタビリティの獲得
心理的成功の実感
それぞれ詳しく見ていきましょう
アイデンティティの確立
アイデンティティは日本語にすると「自己認識」「自分らしさ」「個性」などと訳されます。言い換えると個人が自分自身をどのように捉え、理解しているかを表す概念です。
プロティアン・キャリアを形成するにあたって、なぜアイデンティティの確立が必要かというと、自分のアイデンティティがはっきりしていないと、様々な社会の変化や環境の変化に直面した場合、その時々の状況に翻弄されてしまいプロティアン・キャリアが目標とする心理的成功からは遠ざかってしまうからです。
たとえば、自分の価値観が明確でないと、親や友人などの期待に過度に影響されたり、自分の興味がわからないため、選択した仕事についてモチベーションを持てないケースが考えられます。そういう状況が長く続いたりすると、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすことも考えられます。
この辺りはキャリアアンカーの考え方と似てますね。
アダプタビリティの獲得
アダプタビリティとは、変化する環境や状況に対して効果的に適応する能力を意味します。つまりプロティアン・キャリアの考え方では、新しい仕事や技術、職場に柔軟に対応する能力が従来型のキャリアに比べてより求められます。
例えば、IT知識や新しいプログラミング言語の習得といった技術変化への対応や、新しいコミュニケーションツールの習得といったリモートワークへの適応、違う業界への転職などの異業種への対応などがあげられます。
時代が変われば求められるスキルも変わります。特定のスキルを持つというよりも変化に対応できる姿勢や柔軟性が求められていると言えるでしょう。
プロティアン・キャリアを形成することによるメリットとは
ここまで、プロティアン・キャリアの意味や背景、そして従来型のキャリアとの違いについてみてきました。次にプロティアン・キャリアを形成することによるメリットを見ていきます。
自分自身のスキルアップに繋がる
仕事のモチベーションが上がる
会社にとって有用な人材になれる
それぞれ詳しく見ていきましょう
自分でキャリアを形成できる
プロティアン・キャリアを形成すると、自分にあったキャリアパスを見つけて行動しやすくなる、というメリットがあります。なぜなら、プロティアン・キャリアは主体はあくまで個人であり、自分が何をしたいのかを考えながらキャリアを形成するからです。
従来型のキャリア形成では、会社がキャリアマップを作成し、何年後はこういう役職で、これくらいの給料水準というモデルケースを作成し従業員に提示していました。近年では終身雇用制度も崩れており、会社としてはそのようなモデルケースを提示できないケースも増えてきています。
こういう状況において、プロティアン・キャリアを実践し、自分自身に合ったキャリアパスを考えることは個人にとってはもちろんですが、会社にとってもプラスです。
仕事のモチベーションが上がる
プロティアン・キャリアの考え方は個人に重きを置いています。自分自身が主体となってやりたい仕事を積極的に行っていくため、仕事に対するモチベーションの向上が期待できるでしょう。
3人のレンガ職人の話（※）が有名ですが、同じ仕事でもやらされ仕事でやるのと、自分がどのようにしたいのか、自分がどのようなキャリアを積んでいきたいのか、という視点を持ちながら仕事に取り組むのとでは見え方が変わってきます。
自分事として取り組むことで、どんな仕事でもモチベーションアップに繋げることができるのです。
プロティアン・キャリアを促進させる10のステップ
キャリアを有しているのは個人であるという認識からスタートする
個人が発達の努力をするための情報やサポートを作り出す
キャリア発達は関係的なプロセスであることを認識する
キャリア情報、アセスメント技術、キャリア・コーチング、キャリア・コンサルティングを統合する
キャリアサービスや新しいキャリア契約に関して、従業員と十分なコミュニケーションをとる
キャリア・プランニングではなく、仕事のプランニングを促進させる
人間関係や仕事を通じての学習を促進する
キャリアを発達させる仕事や人間関係への介入を促進する
職務に熟達することではなく、「学習者としてのアイデンティティ」を重視する
「発達のために自分の周りにある資源」を使うという思考傾向をのばす
これら10のステップは個人としてというよりは、キャリアカウンセリングの際に用いられるものです。詳細の説明はまた別に機会に譲りますが、参考になる点が多くあるため簡単に説明します。
一番最初のステップに「キャリアを有しているのは個人であるという認識からスタートする」とあります。言い換えると会社が個人のキャリアについて何かをしてくれるのを待つのではなく自分で主導権を持ち構築していくものだということを言っています。
そのうえで、個人が発達の努力をするためのサポートをカウンセラーが行う、という流れになります。組織ではなく個人が主体となるのがプロティアンキャリアの基本的考えになりますので、これを意識してそれ以降のステップを見ると個人としても進め方の参考になる点が多くあります。
まとめ
本記事ではプロティアン・キャリアについて解説しました。プロティアン・キャリアを実践し、より良いキャリアを築くポイントは以下の5つです。
自己理解の向上
継続的な学習
向上心
柔軟性の維持
主体的な意思決定
終身雇用などの日本型雇用が限界を迎え、コロナウィルスによるパンデミックで時代が大きく変化する中、環境の変化に応じて変幻自在に姿を変え、組織に捉われずに自らのキャリアは、戦略的に主体的に考える時代になりました。 このことを体現するための考え方こそが「プロティアン・キャリア」です。これからのキャリアを考える際に、上の5つのポイントに着目して考えてみてはいかがでしょうか。