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Dr.本田徹のひとりごと(51)2014.5.9

「マイノリティと健康」から包摂的人間開発へ :デビッドさんの講演DVD完成に思う

 私たちにとって宿願であった、デビッド・ワーナーさんの2009年日本講演のDVDがようやく完成し、皆さまに視聴していただくことができるようになりました。多くのボランティアの方々の協力、また撮影や編集を一手に引き受けてくださった、フリーランスの映像作家・谷口悌三さんの大きな尽力、そしてシェア事務局の飯沢幸世さんをはじめとするスタッフの粘り強さなしには日の目を見なかったことなので、感激もひとしおです。デビッドさんにもお約束していたことなので、務めを果たせた感じです。しかもこのDVDの完成が、今月24日に開かれる日本国際保健医療学会東日本地方会「マイノリティと健康」の開催に間に合い、ぴたりと時宜に適ったという意味でも、格別に感慨深いものがあります。

デビッド・ワーナーさん講演会DVDのジャケット

 こんどの学会のテーマは、さまざまなマイノリティの方々が直面する、健康面の格差や人権上の問題をきちんと取り上げ、傾聴し、当事者―支援者(運動家)-研究者間の対話を進め、社会的な発信、アドボカシーを目指すという欲張ったものです。
そして、デビッドさんが1960年代以来、メキシコをはじめ世界各地で、参加型教育やプライマリ・ヘルス・ケア(PHC)のリーダーとして一貫して取り組み、心血を傾けてきたのは、まさに、障害者や少数民族などのマイノリティの人々と一緒に、彼らを盛り立て、彼ら自身が主役を担う保健教育やリハビリテーションの活動を積極的に創造していくことでした。今回の東京や佐久で開かれた講演会のDVDをご覧いただくと、PHCやCBR(地域に根差したリハビリテーション)に賭ける彼の情熱や、すぐれた創意・工夫の足跡を知ることができます。

21世紀に入って、途上国の開発や障害者運動の現場では、インクルージョン(Inclusion)、「包摂」(外務省訳では「包容」)という言葉が、非常に重視されるようになってきています。2006年に国連総会で採択された「障害者の権利条約」(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)はまさに、「インクルージョンと参加」をもっとも枢要な一般原則として掲げ、世界中でその実現を目指しています。日本もようやく今年の1月にこの条約の正式な締結国となりました。しかし、障害者を取り巻く環境や課題は依然として深刻ですし、この国では、国内法の整備や社会の具体的な現場での、条約の真の実現に向けた取り組みが、今後の課題となっています。

実は、5月の東日本地方会の後、11月初旬に予定されている、第29回日本国際保健医療学会学術大会(日本熱帯医学会との合同学会。シェアの理事でもある、仲佐 保・国立国際医療研究センター国際医療協力局国際派遣センター長が学会長を務める)において、ミニシンポジウムの一つとして、「障害とインクルージョン」というテーマが取り上げられることになっています。題して、「CBRからCBIDの時代へ-地域に根差したインクルーシブな官民連携を目指して」
これは、日本におけるCBRのパイオニアである中西由起子さん(ADI:アジア・ディスアビリティ・インスティテート代表)とCBRの日本における創始者の一人である長谷川幹さん(三軒茶屋リハビリテーションクリニック所長)のお二人を招いて、縦横に話し合っていただこうという、学会理事として本田が提案して、採用された企画です。
地域に根差した「包摂的人間開発」(Community-based Inclusive Human Development)、CBIDまたはCBIHDがどのようなものとして、世界や日本で目指され、取り組まれているのか、ぜひこのシンポジウムを通して共に学ぶ機会としたいです。

最後に、もう一度、5月24日の「マイノリティと健康」について。基調講演を務めてくださる、関野吉晴さんは、皆さまご存知の通り、「グレートジャーニィ」の探検家であるとともに、文化人類学者、医師として、長年、世界中の少数民族の人々と親しく付き合ってきた人で、彼のお話から、マイノリティとともに生きていく、基本的な態度や姿勢を学ぶことができるでしょう。5つの分科会のどれもが、とても魅力的な方々を座長、パネリストとして迎えています。ぜひ皆さまのご参加を心から呼びかけたいと思います。
会場では、上記のデビッドさんのDVDのほか、東日本大震災でシェアが気仙沼において従事した救援活動の、出来立ての記録集も皆さんに手に取っていただけるようにしたいと思います。では、5月24日、国立国際医療研究センターでお目にかかり、ご一緒に楽しく学べることを心待ちにしています。

東日本大震災緊急支援NGOシェアの保健医療活動報告書 ー地域・行政・NGOが手を携えて歩んだ、6カ月の記録ー

2014年5月8日


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