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"ケリをつけない"という救い~「くれなずめ」と松居大悟が描く曖昧さ

5月12日に公開になった松居大悟監督の最新作「くれなずめ」が素晴らしかった。高校時代の帰宅部仲間6人が、同級生の結婚式のために5年ぶりに集まり、余興でダンスをする。しかしダダすべり、意気消沈のまま二次会を待っているその間。回想と夕暮れの時間が重なりながら進んでいく映画だ。出演は成田凌、高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、ほか。


(ここからは予告編で明かされていることではあるけど敏感な方にとってはとんでもないネタバレだ!と思うことに触れるので一応余白を作っておきます)

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予告編でも明かされ、また劇中でも序盤に触れられるがこの映画の主人公にあたる吉尾(成田凌)は既に亡くなっている人物だ。彼はこの世にいない人物でありながら、5人の旧友とともに当たり前に劇中で会話を繰り広げていく。吉尾は透けているわけでもなく、モノを掴めないこともなく、足がないわけでもない、立派な成田凌の姿している。かなり妙な状況設定だし、いったいこれはどういう映画なのだ?と序盤の他愛ない場面の数々には思うはずだ。集団幻覚?妄想の集合体?そんな言葉で形容したくなるようなシーンが続く。

ところがそんなことは次第にどうでもよくなる。「くれなずめ」は終始、曖昧な態度を取り続ける映画だ。5人それぞれが吉尾との思い出を振り返るシーンが挟まれ、その度に噛み締めはするのだけれど、死を実感することから目を逸らし続ける。全員が全員そんな風にして、受け入れることを受け入れずにいる。これこそ、この映画に松居大悟が込めたケリをつけないことへの肯定なのだと思う。整理なんかしなくても、ぐちゃぐちゃなまんまでしまっておきたい思い出だってある。そのシワにだって愛着が湧いてしまうのだ。


松居大悟は常に、人が想うあらゆる感情、そう誰かにとっては違和感や嫌悪感しかないがその人にとってはかけがえのない感情を物語の中で爆発させてきたように思う。リビドーと葛藤にまみれる「アフロ田中」がデビュー作なのも運命的だし、「男子高校生の日常」や「スイートプールサイド」といった思春期の疼きを描く漫画原作映画に恵まれたのも納得がいく。また、クリープハイプのMV群を「自分の事ばかりで情けなるよ」という映画にまとめあげた際もそこに渦巻くどうしようもなさを画面いっぱいに塗りたくり、大森靖子の楽曲を起点とする「ワンダフルワールドエンド」で描かれた業深い自意識は性差を飛び越える強度があった。

クリープハイプとの再タッグを果たす「私たちのハァハァ」ではファンムービーの中で、ファンという存在の持つ特有の痛みを抉り出す。三浦透子演じる主人公が抱える想いは彼女にしか見えない特別さがあり、この頃から彼のオリジナル作品にある“個の感情”へのフォーカスはさらに精度を増していく。「君が君で君だ」はその極地たるもので、倫理観を一度取り外してからでないと鑑賞に耐えられないはず。しかし、そこで描かれる想いもまた、当人にとっては格別に真摯であり笑われてたまるか、なものなのだ。

また、松居大悟作品の特徴として、構造が曖昧である、という点も挙げられる。「アイスと雨音」という作品は舞台演劇と映画の境界をぶっ壊し、どちらでもなく、どちらでもない新たな表現形態を提示。また主宰する劇団・ゴジゲンでの作品たちも驚きに満ちる。「劇をしている」は劇と素の会話をシームレスに繋ぎ、演じることを演じながら描いてみせる。最新公演「朱春」では今と過去と未来の姿を矢継ぎ早にスイッチングしながら、無常観や変わってゆくことに思いを馳せた。また「君が君で君で君を君を君を」では、ぬいぐるみに恋をする人々を描き、舞台上に紛れもない恋の形を表現してみせた。これは何か、と問われて一言で言えないものばかり。

「くれなずめ」は、忘れたくない人物のことを思い続けることでその人をそこに存在させてしまったという側から見れば異様な心象風景を、側からも見れる形で映像化してしまった作品だ。目に映るものの境界が曖昧になった世界の中で、一般的(とされている)惜別の情や哀悼の念までもが曖昧なままにされている。だけど、これでいいと思える。終盤に訪れる突飛な展開を踏まえた上で、何もかもが曖昧になったこの状態は1つの救いだと思った。劇中の彼らがそう思っているかは知らないが、こちらにはそう映ったし、ヘラヘラ笑いながらグズグズ泣けて仕方なかったのはその証左だと思っている。

(終盤の“突飛な展開”含め、ネタバレありで喋ったポッドキャストがこちらになります。舞台版との比較や、ここで詳しく触れられなかった松居大悟監督作品、特に怪作「君が君で君だ」について勇気を出して喋っています。)

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