今夜よりいい夢を〜2019.06.21 ねごと LAST TOUR@福岡DRUM Be-1
2018年末、突然の解散発表。『ETERNALBEAT』『SOAK』と、評判の高い作品を立て続けに発表し、ネクストアクションを期待されていたのでとても意外だった。しかし解散表明の文面から伝わるのは清々しいまでの“やりきった感”であった。なるほど、と思う。メンバーが30代に差し掛かるタイミングで思うところあったと語った蒼山幸子のインタビューからも、4人それぞれの人生を見つめ直すタイミングだったのだろう。こればかりは仕方がない。やっぱり健やかにやるのがバンドの理想像だから、この選択はきっと正しかったのだ。
1曲目は「インストゥルメンタル」、というタイトルの歌あり曲なのだが、活動初期は1曲目の定番だったわけで。12年の歴史を物語る選曲、早速エモギマりしそうだったけれど、2曲目は「PLANET」だ。『ETERNALBEAT』TOURでもオープニングを飾った、キラキラと飛び跳ねるようなナンバー。初期をなぞるような幕開けから、比較的新しいモードのねごとを繋げるような曲順に既に胸が熱い。続く「DESTINY」で徐々に手も上がり始める。そうそう、この押し付けがましくないのに、だんだんと体が動いてくる感じこそがねごとのライブの醍醐味だ。
フィードバックノイズからの「♯sharp」はツアーでは久々の披露だ。The Birthdayの「愛でぬりつぶせ」をリファレンスとする激しいロックナンバー。近年は抑えていた一面ゆえ、この全開放っぷりは嬉しい。あぁ、そういえばリリース時に、沙田瑞紀が、最後にギターを掻き鳴らすところで拳が突き上がる様を見てみたいとラジオかなんかで言ってたなぁ。そんなことを思い出す、一面のハンズアップだった。簡単な挨拶を挟んでの「ループ」で思い出すは、やはり2008年に「SCHOOL OF LOCK!」で初めて聴いた時のことだろう。あれからもう11年か。
そう、僕にとってねごととは世に出る瞬間から知っていたバンドであり、リリース音源は全て発売時にチェックし、福岡でのワンマンは欠かさず観に行っていた、そういう表立った活動をまるっと見てきたバンドだ。だからこそ、1stアルバム『ex.negoto』からの「季節」なんか、高校時代の記憶を刺激されてしまう!「透明な魚」「黄昏のラプソディ」といった、節目の『VISION』からの楽曲は、突き抜けた気持ち良さがある。フェスロック隆盛期の中で、自らに合う四つ打ちと、横に揺らすリズム、その獲得に挑んできた証がここで強く息づいていた。
周囲からの期待と自分たちのやりたい音楽との狭間で格闘を続け、本人たちが暗黒期と語っていたのが2ndアルバム『5』に至るまでの流れであるが、今回はそんな時代の楽曲たちもラストランを見事に彩っていた。中盤にぐっと引き込んだバラッド「たしかなうた」は、シングルとして出すにはややシリアスすぎるが当時のギリギリの心情が詰まっている。<どこに辿り着くかわからないけど>と歌いながら、ここまで来た。<無垢な足跡 さようなら>という歌詞もこのシチュエーションに刺さりすぎる。重く残る1曲だ。
アンニュイなSFが目まぐるしいテンポチェンジで展開される「街」を経て、「君の夢」へ。“ねごと”のバンド名にちなみ、解散にあたって「夢から醒めることにしました!」とドラムの澤村小夜子がコメントしていたのが印象的だったが、その角度から聴くとまた違った切なさが積もってくる。ラストアルバムとなった『SOAK』からの楽曲もここで立て続けに演奏。藤崎佑の奏でるシンセベースがグネグネと踊らす「Fall down」。蒼山幸子の儚い歌声とドリーミーなエレクトロが混ざり合う「水中都市」では終盤、轟音を叩きつけてこちらを圧倒していた。
「水中都市」が福岡の宿泊先で作られた曲だという小話や、前日に食べた「透明なイカ」の話など、他愛もない雑談に終始したMCもとても良かった。それこそ『5』の時期なんかは、強いメッセージを届けようとMCも気を張っていたように思える。段々と自然体になっていき、その完成形がまるで楽屋みたいなゆるいトークというのは実に良い!MCから一転して、代表曲「メルシールー」、ダウナーでラウドな「シグナル」などハードなテンションの楽曲が後半をブチ上げる。サビで客電が灯った「憧憬」など、ベスト盤選外の曲も爆発的な盛り上がりだ。
アンセムらしく再構築した「ETERNALBEAT」のアザーバージョンを経て、甘く涼しげな「endless」、ベスト盤の新曲でありねごとのラストソング「LAST SCENE」をシームレスに繋げていく。前々回のツアーで習得したノンストップに踊らせる流れ、最後の最後まで最新形を提示し続けるねごとのストイックさが伺える。本編ラストは、活動後期に熱烈な歓迎を受けることになった「アシンメトリ」である。ねごとがやりたいことをやり尽くし、やりきるきっかけとなったいわば答え。しなやかだが重たく、至上のダンスへと誘い出す爽快なシメだった。
アンコールではベスト盤収録の「雨」をしっとりと演奏。徐々に終わりが近づいてくる時間にじっくりと浸れた。そしてこの日1番のマニアック選曲、「彗星シロップ」もとびきりの笑顔と高揚感をくれた。薄っすらと予想はしていたが、やはりアンコール最後は1stシングル「カロン」だ。この曲はなんだろう、説明できないエネルギーがあるな、といつも思う。初めて聴いた時から今に至るまでずっと熱が続いてるような。もしもこの曲が解散の日も最後に鳴るとすれば、<太陽が夢を染めて 朝になっていた>という歌詞で終わるわけでしょ。ねごとのラストとして美しすぎるでしょ。夢から醒めて朝になるんだよ!そんなことを思って静かに泣いた。
1曲ごとに、自分って思ってるよりねごと好きだなぁ、って思っちゃうような良いライブだった。売り出し方とかも含めて、ファンとしてもコレかなぁ、、??みたいな時期はあったし、フェスにおけるヒットが当たり前になった時期にもなかなか迎合できない姿はもどかしくも愛おしかった。そんな迷いも経ながら、『VISION』以降は明確に自分たちの居場所を作り上げて、洗練された音楽性を磨き上げた。元よりプロを目指していたわけではなかった4人が、「私たちの音楽に出会ってくれてありがとう!」と言った。それだけで十分だ。この後の公演も、今夜よりいい夢を見せ続けながら、きっと爽やかなラストシーンへと辿り着くはず。
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