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世界を救えナードマグネット~2019/10/19「だいそうさくツアー」@福岡graf(ゲスト:2)

ナードマグネットが6月にリリースした2ndアルバム『透明になったあなたへ』。この傑作のリリースツアー、残すところあと3本というタイミングで福岡公演が開催された。これまで2度、ナードのライブは観ているがどちらもゲストバンドとフェス出演者という形で持ち時間も短かった。ようやく主催のツアーでたっぷりと楽しむことができたので、ここに感想を書き残す。

18:30- 2
福岡と岡山のゲストバンド・2はThe SALOVERSを解散した古館祐太郎が2017年に結成したまだ活動歴の浅いバンドだが、メンバー4人ともバンド解散経験者ということで手練れ揃い。しかしライブはこなれた様子はなく、初期衝動を剥き出しのまま吐き出すような激しいもの。「Family」のようなプライベートな優しい独白も強烈な高揚感を持ってライブの場で届けられる。

2は紅一点ドラマーのyuccoに目が奪われる。感情がそのまま乗り移ったようなドラミングにはシビれてしまう。「土砂降りの雨が降った街」や「急行電車」のような柔らかなメロディの曲ではうららかに、「FALL FALL FALL」や「NEVERLAND」のようなどっしりした曲では今にも泣き出しそうな顔でぶっ叩いている。このバンドの土台を支えるに相応しい強靭な憑依力だった。

「ルシファー」からの後半はテンションもブチ切れっぱなし。「ナイトウォーク」「ロボット」ではハンドマイクでこちらを煽る。古館は随分と髪が長く、2012年頃みたいだな、と。あの頃よりもずっと大人になったはずだが「フォーピース」のような曲からは未だに血走った目つきを感じてしまう。ラストの「DAY BY DAY」まで50分を1度のMCのみで突っ走っていった。

-setlist-
1.ニヒリズム
2.ケプラー
3.Family
4.土砂降りの雨が降った街
5.急行電車
6.FALL FALL FALL
7.NEVERLAND
8.ルシファー
9.ナイトウォーク
10.ロボット
11.SとF
12.フォーピース
13.DAY BY DAY

19:40- ナードマグネット
「ネバ―エンディングストーリー」をSEに登場、それにちなんでか「世界を救え!」のヤジが飛び出し、ギターボーカルすださんが「世界を救いにきました!」と大風呂敷を広げて始まった「アップサイドダウン」。「ストレンジャーシングス」をモチーフにした1曲だが、思えばSEだった「ネバ―~」は劇中でダスティンが歌っていた曲じゃないか。何かニヤニヤしちゃうな。

『透明になったあなたへ』は、そこから去った大切な人を思い歌った曲が並べられた物語性の強いアルバム。ライブの場では、本来の曲順では終盤の「COMET」が2曲目に変わってより回想性が強まったり、過去曲「(Let Me Be)Your Song」が入り込み物語の場面が増えたように思えたり、ライブ自体はタフで爆発的なのに、劇的な質感も同時に加速していく面白さがある。

とはいえ、彼らのステージングそのものも見応えがある。安定感抜群のドラム、飄々としながらパワフルなベース、そして自身の心象を思いっきりぶつけるボーカルと、どれも見映えが良いがやはりギタリストふじー氏の演奏中の顔の動きには夢中になる。ギターソロを過剰なまでに口の形で表現し、あらゆる所作が珍妙すぎる。「FREAKS&GEEKS」の最後なんて、ギターを置いてから曲終わりに変な顔をする、ということをキメにしてしまっていた。

そんなふじーさんがダブルネックギターを繊細に演奏する、柔らかな「透明になろう」から終盤に。アルバムの核を担う曲が次々と披露されていく。日々のしょうもない喧噪をラウド&ファットなサウンドでぶっ飛ばす「バッド・レピュテイション」の破壊力は痛快すぎ。声を合わせるパワーは凄い。

「好きな音楽を歌って踊って騒いでたまにグッときたり泣いたり笑ったりする権利がある、そんな歌です」と「THE GREAT ESCAPE」が。うだつの上がらない日々からの偉大なる大脱走。アルバムの根底にあるテーマが、自分の日常とも接続されて身震いする。まさにこの会場こそがその逃げ場であり、自分が自分であることを「だいそうさく」するライブだと思い知らされた。

ラストは「HANNAH/You Are My Sunshine」。言わずもがな「13の理由」のヒロインをモチーフとした1曲。心が引きちぎれそうな思いが宿り、<左へカーブを曲がりきっても/海なんて見えなかったな>と小沢健二の歌詞を引用しながら、望みなき日々を歌うシリアスな1曲だが、それを爆音で鳴らすことは絶望に立ち向かう手段であり祈りだ。間違いなくナードマグネットの音楽は僕らの世界を救ってくれている。最初の宣言は大風呂敷じゃなかったな。

アンコールでは名曲「Mixtape」が披露された。映画「ウォールフラワー」を観た直後だったので、余計に響く。戻れない時間を追い求めるこの歌が終盤に鳴る意味は巨大である。どんなに暗く重たい結末の後でも、僕らの日常は続いていく。だけど<We are infinite><この夜は僕らのもの>という切実な大合唱が、トンネルの先で待つ予感を輝きに変えてくれる気がするのだ。

ラストは「ぼくたちの失敗」でみんなぐっちゃぐちゃになりながら、すださんもフロアに飛び込んで終了。凄まじい感傷と、ガムシャラな楽しさが織り交ざった、ナードにしか成せない空気がgrafに充満していた。またこの場所に、逃げ込めるよう、生き延びねばならないと思った。それじゃあ、また。

-setlist-
1.アップサイドダウン
2.COMET
3.(Let Me Be)Your Song
4.家出少女と屋上
5.虹の秘密
6.チェイシング・エイミー
7.MISS YOU
8.アフタースクール
9.恋は呪い
10.I'm Not Gonna Teach Your Boyfriend How To Dance With You
11.FREAKS&GEEKS
12.透明になろう
13.Song For Zac&Kate
14.バッド・レピュテイション
15.テキサス・シンデレラ
16.THE GREAT ESCAPE
17.IntroHANNAH/You Are My Sunshine
-encore
18.pluto
19.Mixtape
20.ぼくたちの失敗

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