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6.16 羊文学 TOUR2022 ”OOPARTS” @ Zepp Nagoya

羊文学、初の全国ツアーの名古屋公演に行った。メジャー2ndアルバム『our hope』のレコ発ツアー。人気の上昇度とライブ本数(特に地方の)が吊り合っていないバンドだと思っていたが、結果としてコロナも影響してか初の全国ツアーがZeppクラスというバンドとしては近年例を見ないキャパとなった。個人的にもワンマンは初めてで、2018年の宗像フェス、2019年のWILD BUNCH FEST.で3、40分の尺を観たくらい。長尺での羊文学はかなりの待望である。

ステージには紗幕がかかっており、客電が落ちると薄らと朱色の明かりが灯る。目を凝らすと白熱灯がある。メンバーがシルエットで映し出される中、ライブは「hopi」からスタート。出音の迫力の凄まじさに笑ってしまいそうになった。光と影と音だけの空間に吸い込まれそうになる中、2曲目「mother」ではステージバックのライトが灯り、また違う角度から陰翳がつけられる。そして1曲目を凌ぐ轟音。着席のまま食い入るように舞台を見つめてしまった。


凄まじい集中力を要する2曲の後、懐かしいイントロから1st音源に収録の「雨」が。塩塚モエカ(Vo/Gt)がギターを掻き鳴らし始めると幕が落ち、メンバーが現れる。最初は世界観のじっくり浸らせ、カタルシスをもたらす構成は見事でまんまと総立ちになっていた。更にヒット曲「光るとき」を続ける出し惜しみの無さ!圧倒的な強度のメロディと塩塚の祈りのような歌唱。ライブだと容赦なき爆音と生々しい演奏が加わって、浄化作用が増幅されている。


そして照明演出がずっと素晴らしい。「光るとき」では白い光を循環させながら会場中を満たしすっかり酔いしれてしまった。ここに「砂漠のきみへ」が放たれると、まるでフェスのトリで羊文学を見ているかのようなクライマックス感すらあった。最後のロングトーンのギターソロ、吸い込まれそうになった。この頭30分だけで世界観と美学の提示は十分。一転して塩塚と河西ゆりか(Ba/Cho)がヘラヘラしまくるゆるすぎなMCが良い緩衝材になっていた。


セットリストは『our hope』に加えて昨年夏のEP『your love』からも多く披露された。季節柄もぴったりでゆらゆらとしたグルーヴで魅せた「なつのせいです」、ジャキジャキとした小気味よさと晴天を突き抜けるような「あの街に風吹けば」など、ここまでの緊張感とはやや一線を画す多彩な楽曲をプレイするゾーンへと突入する。「電波の街」では荒々しいドラミングと吐き捨てるように歌う塩塚が印象的。ワンマンでしか寄り道できないアプローチだ。

羊文学は神秘的でノイジーで、、といったパブリックイメージを持ったバンドだと思うが、『our hope』『your love』の多面的な音楽性はライブの場でも色濃く届けられていた。横乗りのベースラインとフォーキーな質感がマッチした「金色」、淡々としたリズムと強いメッセージがストレートに紡がれる「キャロル」など、中盤に良いメリハリを生んでいた。バンド7年目、メジャー2年目にして正しくその豊かさが広がっていることを実感できる時間。


3人で真ん中に寄ってセッションを奏でるとステージ後方の幕が開き巨大なスクリーンが出現。ここから映像演出も加わるのだという。「くだらない」ではアナログな褪せた質感で撮られた街の映像がゆらめき楽曲の揺蕩いを表現していた。またアルバムのラストを飾る「予感」もこのブロックで披露。ほとんど弾き語りの幕開けからフィードバックノイズ渦巻く終盤へと怒涛のうねりを生む曲だが、光を淡く掬い上げた映像によってより劇的に仕上がっていた。


無機質なシンセの音が鳴り、ステージ上空に吊るされた三角錐の照明装置が灯る。それを見つめる塩塚と河西。そんな画になる1シーンを経てアルバムリード曲「OOPARTS」へ。これが壮絶な化け方をしていた。16分割されたバックスクリーンに様々な地球/遺物をテーマにした映像が流れ凄まじい没入度を生む。演奏の抑揚も過剰で、2番サビの塩塚のディストーションギターは思わず声を上げそうになった。ツアータイトルに相応しい、ピーク的な瞬間だった。


一度曲が終わったかと見せかけて最後にもう1ドロップくる「OOPARTS」を踏まえ、へらへらと「騙されポイントですね」と笑う塩塚と河西の姿はおよそ先ほどまでのバンドとは全く異なるのだがこの飾らなさも魅力だろう。アルバムで様々な楽曲に挑戦するきっかけとなった「パーティはすぐそこ」を軽やかに届けた後、大いなる包容力を携えた「マヨイガ」が鳴る。どこまでも飛んでいけそうなバンドの信頼感を確固たるものにする雄大さがあった。


このライブの中でもひときわ清涼感のあるイントロが「あいまいでいいよ」だ。ポップさと親しみやすい詩世界でデザインされた楽曲だが、ゼロ年代から引き継がれてきたギターロックの感傷も塗されており、羊文学というバンドがしっかりと音楽史の道筋の中に息づいていることを実感した。そして本編最後の曲として「ワンダー」が壮大な光景を浮かべながらプレイ。暗い教室から限りない宇宙まで駆ける羊文学の音楽がひと繋ぎになったようだった。


アンコールではライブ仕様のアレンジを付け加えた「人間だった」を凛々しく披露。この曲を機にどんどん歌う視線が変わっていったように思う。様々な機微を持つ楽曲を全て束ねる圧倒的なバンド力。これぞ理想の3ピースだ。ゆるいグッズ紹介(フクダくんも喋っていた、カルピスとグミが好きらしい)を経てこの日最も観客の腕があがった「powers」を力強く演奏。フェスでも多くセトリ入りしているようでその場数が堂々とした佇まいを生んでいそうだった。


アンコールラストは「夜を越えて」。昨年の『your love』収録で、ラストにしては粛々と言葉を刻んでいくような1曲で意外な選曲であった。しかしこの曲を置いたことで大団円感は薄れ、ひんやりとした余韻を持ったままライブを終えることはできた。そしてここだけで終わるはずがないという余地も感じさせた。結成7年、メジャー3年、初の全国ツアーにしてはあまりにも洗練されきったステージングには驚くばかりだったが、この耳をつん裂く轟音を忘れることなく、無邪気に突き進んで欲しいと願う。

<setlist>
1.hopi
2.mother
3.雨
4.光るとき
5.砂漠のきみへ
-MC-
6.なつのせいです
7.あの街に風吹けば
8.電波の街
9.金色
10.キャロル
11.くだらない
12.予感
13.OOPARTS
-MC-
14.パーティーはすぐそこ
15.マヨイガ
16.あいまいでいいよ
17.ワンダー
-encore-
18.人間だった
-グッズ紹介-
19.powers
20.夜を越えて


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