男の子は泣く〜2023.02.10おとぎ話 × 忘れらんねえよ『RINNE』 @名古屋CLUB QUATTRO
男らしさとロックバンド
現在放送中のドラマ「今夜すきやきだよ」。2月3日放送の第5話で描かれたのは”男らしさ"についてだった。仕事の悩みをうまく吐き出すことができず自分だけで背負い込むことを美徳だと思う主人公の友人の心をそっと解していくような回で、かなりじんときた。こういうドラマが届いて欲しい人を今まで精神科診察の現場で沢山見ているな、と思う。刷り込まれたこうあるべきだという責任感は周囲も自分も気づかぬうちに心を蝕んでいくものだ。
昨夏、CINRAでアップされたロックバンドおとぎ話の有馬和樹(Vo/Gt)のインタビュー記事のことを思い出した。ロックンローラーならこうあるべきという無意識の刷り込みにギャップを感じ、プライベートでも男らしくあらねばというという観念に縛られた先、少しずつその呪縛を解きながら、近年の楽曲の方向性に繋がっていたというエピソードが語られていた。少年性やわんぱくさ、そこに滲むラブとロマンというイメージを帯びていたおとぎ話の楽曲の響き方は変わり、性愛をあえて歌ってこなかった事実や近年の歌詞表現に施されていたこだわりについて噛み締め直せる素晴らしい記事だった。
昨年末、東名阪のクラブクアトロでの対バンライブシリーズの開催が発表された。名古屋は盟友・忘れらんねえよがゲストアクト。そういえば私がおとぎ話を認識したのは忘れらんねえよの「ゾンビブルース」だったので、かなり感慨深い対バンだ。そしてどうにもならない現実ややりきれないルサンチマンをロックンロールに託してきた忘れらんねえよもまた、間違いなく"男の子の涙"を歌い続けてきたバンドだろう。"男らしさ"を見直す局面にあるこの時代のこのタイミングだからこそ、観たい組み合わせだった。そして実際にこの共演を観て心が動く場面が数多くあった。忘れぬよう書き残していく。
おとぎ話が鳴らす忘れらんねえよ
先攻は忘れらんねえよ。この日はおとぎ話がバックバンドを務め、柴田隆浩(Vo/Gt)がセンターに立つという特別編成。普段の忘れも何度か観てはいるが、最大3本のギターによる轟音とサイケ強めなアレンジがとにかく新鮮。柴田も「豊か!」とその音像を大絶賛していた。この日が本格的には初めてのコラボレーションだというが強い呼応を感じるのはやはりほぼ同い年であり、ただならぬシンパシーを寄せ合っているからだろう。前越啓輔(Dr)と風間洋隆(Ba)がおとぎ話では見たことない高速四つ打ちのリズムを刻む牛尾健太(Gt)がらしさ満点のギターを添える「ばかばっか」は特に興奮した。
「孤独なもの同士」と柴田と有馬は自虐気味が笑いあっていたが、孤独と向き合う時間を大切にしているからこそ心の根源を歌えるのだと思う。1曲目に演奏された「ばかもののすべて」における《ロックンロールと君がずっと好きだ》という叫びの愛しさ、「うつくしいひと」の大好きな《あなた》だけに生きる理由を見出す切実さ、「戦って勝ってこい」の情けなくも明け透けな友情。これらすべて、おとぎ話もしくは有馬和樹との共作である。柴田の持っているナイーブな側面を見事に掬い取って楽曲に変えてきた、おとぎ話と忘れらんねえよが強く結びついた歴史の積み重ねを感じる選曲ばかりだ。
忘れらんねえよのライブは柴田がフロアに降りて踊り歌いまくるし、観客に運ばれながらビールを買い、観客に足を持ってもらってビールを飲むといった行き切ったテンションのパフォーマンスが特徴的だし、それがコロナ禍を越えて戻ってきている事実にもとてもグッときた。こういうエクストリームさが、有害な男性性を感じる悪ノリのようには見えずに真っ直ぐ熱くなれるのも柴田が一貫して孤独やひとりで盛り上がることを肯定し続けているからだろう。滑稽に見えようが己をさらけ出したその姿こそ、現代の男性を苦しめる"男らしさ”をちゃんと放棄できている好例なのかもしれないと思った。
バンドを20年以上続けるおとぎ話の凄さを讃えたMCの後に、元メンバーが脱退する際に作られた「別れの歌」は素晴らしくエモーショナルで、弦が切れても決死に"自分らしくある自分"について叫び続ける「新・俺よ届け」には、おとぎ話と忘れらんねえよが一緒にやる意義が詰まりまくっていた。そしてラストは「忘れらんねえよ」。最初期の楽曲だが、ここでも柴田は《いつも遠くで見つめている/あの娘と彼氏のはしゃぐ姿》と歌っていた。初めから彼の歌う恋心はその"想い"だけが強く刻まれ、対象が傍にいるかどうかは問わないものだったのだ。大合唱しながら、そのピュアさを改めて思った。
BOYS (DON’T) CRY
後攻はおとぎ話。今回はかなり元気でアグレッシブな曲が多かった印象。ゆえにアクティブに、メンバーそれぞれが思い思いに動いている。おとぎ話のライブを観るとつくづく思うのが、全く違う雰囲気の4人なのに、この4人でしかおとぎ話はあり得ないな、ということ。かわいく歌い踊る有馬も、いかにもスターギタリストな涼しいプレイをかます牛尾も、飄々としかし冷静に低音を担う風間も、優しげだけどタフなドラミングが光る前越も、おとぎ話を形作るにこれ以上ない。ロックらしい男らしさとかじゃなく、メンバーらしい振る舞いが全ておとぎ話のロックミュージックに還元されているのだ。
アッパーな曲の中にも温かく切ない愛が滲むのがおとぎ話の楽曲たちだ。《好きな子に告白したら 僕等の未来が壊れたのさ》と嘆く「ネオンBOYS」や《僕のココロは/君の名前を呼ぶと壊れてしまいそうだ/好きだよ/僕は君に一言伝えたいだけなんだ》と思いを秘める「THANK YOU」といった初期~中期の楽曲から、《あいのうたを今/君にあげるから/どんな結末も/抱きしめる愛を誓うよ》と歌う「LOVE CRY」や《全然根拠がなくたって構わないから/あなたのために生きてみせる》と歌う「DEAR」など見返りを求めぬ大きな愛を歌うようになった近年の楽曲まで一貫する誠実な"想い"がある。
押し付けることもなく、もしかすると伝えることすらもできない。しかし、胸に芽生えた愛が確かにあるということ。そうやって他者を思うことを歌うおとぎ話のロックミュージックは今の時代にこそ必要な響きを持つだろう。ドラマチックなバラード「光の涙」から、美しく煌めく「COSMOS」へと連なるラストはそういう温かみや優しさが瞬き続ける名シーンだった。MCで有馬は「恋愛をこじらせた者同士」と忘れらんねえよとの共通点について微笑んでいたが、この社会が作り出した"恋愛"の見本ではないだけで、間違いなく"愛"を携えた者同士だと分かる。2人の楽曲はそれを高らかに歌っている。
アンコールでは大名曲「SMILE」がにこやかに奏でられる。《恋をした瞬間に涙が溢れる/ドキドキとため息の間で/心が揺れる》とは、あまりにも人生の本質だろう。人に対する想いに限らない、胸が高鳴るあの気持ちをめいっぱい抱きしめるような讃歌だ。フロアでは柴田もおとぎ話を見ており、先導してダブルアンコールを煽った結果、トドメの「BOYS DON'T CRY」だ。1stアルバム『SALE!』に入っているビッグアンセムで有馬の持っていた少年性やわんぱくさがキラリと光る。しかし同時に、今に繋がる"想い”もある。
世に言うラブソングとしてはそりゃあささやかかもしれないけれど、きっと誰かのことは救うはずの"心の中で祈る"という愛の形。おとぎ話は、1番最初に出したアルバムでもそのことを歌っていたのだ。忘れらんねえよのガムシャラさとは異なる熱量で、慎ましくしかし確かに今自分の中に燃える愛を歌にしてきた。40歳を超えてなお、そのピュアネスをステージの上で自分らしく表現し続けているおとぎ話と忘れらんねえよがいるという事実に、とても勇気づけられる。旧来的な"らしさ"に無意識に傾いてしまう現実があるからこそ、彼らのように泣きながらキラキラと生きていたいと思えるのだ。
[setlist]
忘れらんねえよ
1.ばかもののすべて
2.踊れ引きこもり
3.アイラブ言う
4.ばかばっか
5.CからはじまるABC
6.うつくしいひと
7.戦って勝ってこい
8.別れの歌
9.新・俺よ届け
10.忘れらんねえよ
おとぎ話
1.GALAXY
2.LOVE CRY
3.ネオンBOYS
4.DEAR
5.THANK YOU
6.また、よろしく
7.BOY'S BEAT
8.FUN CLUB
9.光の涙
10.COSMOS
-encore-
11.SMILE
-double encore-
12.Boys don't cry
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