マハーバーラタ/3-7.パーシュパタ

3-7.パーシュパタ

アルジュナは皆に別れを告げて北へ向かった。
以前ラージャスーヤの時に見かけたガンダマーダナ山に向かった。その山はまるで古い友人のように見えた。しばらくその山との再会を楽しんだ。

さらに旅を続けたアルジュナはヒマラヤに入り、インドラキーラの名を持つ地を通って山頂にたどり着いた。その場所で修行を始めることにした。

他にも修行者がいて新参者のアルジュナに話しかけてきた。
「あなたは何者ですか? こんな恐ろしい場所に一人で来るなんて。
ここは世俗の人々には近寄りがたい場所です。世俗を手放した穏やかな人だけが来る場所です。
しかし、あなたは戦士のように見えます。ここには鎧や武器はふさわしくない。ここは他人を征服する場所ではなく、自分を克服する場所です。戦いではなく平和を求める者の居場所ですから、それらの物を捨てて平穏に暮らしなさい」
「いえ、私はこれを手放しません」
「捨てなさい。さもなければこの地から去りなさい」
「いえ、これは私に必要なものですから手放すことはありません」

アルジュナの毅然とした態度を見たその修行者は本来の姿を現した。
インドラだった。
「おお、アルジュナよ。久しぶりだな。何を求めてこの地に来たのだ?」
アルジュナはインドラの足元にひれ伏して挨拶した。
「はい、私はヴャーサのアドバイスでここに来ました。北に向かい、シャンカラからパーシュパタを授かり、インドラから武器を授かってきなさいと。ダルマに従って王国を取り戻す為にはそれらの力が必要だと聞きました。
私はあなたの世界であるインドラローカに行きたいのではありません。あなたの世界で得られると言われている喜びを求めているのではなく、聖なる武器を求めているのです。これから始まる戦争の準備をしなければならないのです。
インドラ神よ。あなたは以前、適切な時が来たなら武器を与えてくれると言ってくださいました。その時が来たのではないでしょうか? あの罪深いドゥルヨーダナに復讐する為に、どうか私に助けをください」
インドラは息子アルジュナの手を取って言った。
「いかにも。その約束は覚えている。あなたに全ての武器を与えよう。しかし、その前に我が主シャンカラに会いなさい。
この地で修行をしなさい。その修行で彼を喜ばせるのです。そうすれば彼はあなたの前に現れてパーシュパタを与えてくれるでしょう。
それを達成した時、私は再びあなたの前に現れます」
そう言ってインドラは消えた。

アルジュナはシャンカラの出現にのみ集中した。
集中して、集中して、集中することに夢中になった。
どれくらいの時間が経ったのか分からないほど集中し、生きる為の最低限の必要なことさえも我慢して集中した。

シャンカラにその真剣な願いが届いた。
ハンターの姿を装い、弓矢を手に持ってインドラキーラ山に現れた。妻のパールヴァティーもまたハンターの姿で傍にいた。

ちょうどその時、ムーカという名のラークシャサが猪の姿を装ってアルジュナを襲撃しようとしていた。
アルジュナはガーンディーヴァを手に取った。
「私の修行の邪魔をする者よ。私をヤマの住処に送ろうとしているようだが、行くのはお前の方だ」
弓に矢を固定して放とうとした時、ハンターの姿をしたシャンカラが現れた。
「やめろ! この猪は私の獲物だ! お前が殺す権利など無い。やめるんだ!」
アルジュナはその言葉に注意を払うことなく矢を放った。
彼の矢とハンターの矢が同時に猪の真ん中に突き刺さった。
まるで二つの稲妻が落ちたかのようであった。
猪はラークシャサの姿に戻り、死んでいった。

アルジュナは女性と共に立っているハンターの方を向いた。
その二人は光り輝き、山全体を奇妙な光で照らしていた。
「あなたは誰ですか? 山の斜面に住む野生動物も恐れず、しかも女性を連れてくるなんて。ここは男性であっても危険な場所です。
あなたはハンターのように見えますが、狩りのルールを知らない人だ。
この猪は私を攻撃しようとしていた。そして私が矢を向けた。あなたにはその権利が無かったのにそのルールを破った。これはあってはならないことだ。私の矢を受けてみよ」

ハンターは魅力的な微笑みを浮かべ、柔らかな声で話した。
「私が先にこの猪に狙いを定めていたのです。その時点で私の物でした。あなたがいる方へ逃げて行ったが私の矢によって死んだのだ。
あなたは勇敢さに自惚れているようだ。私を殺すなんてできやしない。命の危険にさらされているのはあなたの方だ。
この猪も、刺さっている二本の矢とも私の物だ。あなたが勇敢だというならあなたが放った方の矢を奪ってみなさい」
話し終わってもいまだに微笑みを浮かべていた。

アルジュナは修行を邪魔された上に自尊心を傷つけられた。
戦いを決意した。

アルジュナが無数の矢を放ち、矢のマントでハンターを覆った。
ハンターはまるで薄手のシルクを払うかのように笑みを浮かべながら矢を払った。
何度も何度もアルジュナの鋭い矢によって襲われたが、ハンターはとても落ち着いていた。微笑みはさらに増し、もっと魅力的になった。

途方に暮れてしまった。
「このハンサムなハンターは一体何者だ? まるでヒマラヤの若い頂のようだ。ただのハンターではない。きっと変装を楽しんでいる神に違いない。
しかし、彼が誰であろうと、強い戦士であるのは間違いない。こんな強い戦士と戦うことはこの上ない喜びだ」

もはや普通の矢では太刀打ちできないことを悟ったアルジュナはアストラを使うことを決めた。
しかし、どんなアストラを放とうとも、体に矢が刺さるだけで、ハンターからは全く傷を負っている気配が感じられなかった。
まるであられの嵐に対する山のように、どんな猛攻撃によってもハンターは動じずに立っていた。

信じられないことが起きた。空になるはずのないアルジュナの矢筒が空になってしまった。こんなことは今までになかった。
アルジュナはガーディーヴァの弓でハンターの額を打った。
彼はじっと立っていた。
剣を握りしめて突進した。彼の頭を割るつもりで剣を投げつけた。
しかし、全く効かなかった。
近くにあるものは何でも手に取って彼に攻撃した。大きな枝、石、持てる物は何でも手に取った。
彼は微笑みを浮かべて、全く恐れることなく立っていた。

アルジュナは肉体のみの決闘を挑んだ。
二人はお互いに鉄の塊のような拳で殴り合った。
ハンターは全く怯む様子が見られなかった。

強すぎる。あまりに強すぎる。
動揺しながらもアルジュナが戦い続けたが、次第に気が遠くなり、気を失った。
それでも立ち上がり再び戦おうとしたが、できなかった。
アルジュナの体はたくさんの傷から流れ出る血で染まっていた。

アルジュナは考えの中でシャンカラ神に祈った。
足元に咲いていた花で花輪を作り、泥でリンガ(像)を作った。
リンガの上に花輪を置き、目を閉じて、神の慈悲を求めてシャンカラに祈った。
再び目を開いた時、花輪がリンガの上に乗っていないことに気付いた。
驚いて辺りを見渡すと、なんとその花輪がハンターの頭の上に乗っていた。
全てを理解したアルジュナはハンターの姿をしたシャンカラ神の足元にひれ伏し、流れ出た涙が神の足を洗った。

シャンカラ神は優しい微笑みを浮かべて話しかけた。
「アルジュナ、あなたの勇気は素晴らしい。気に入りました。
この世界にあなたほどのクシャットリヤに会ったことはありません。あなたは無敵になるでしょう。勇敢さにおいて私に匹敵します。戦争においては敵を皆打ち負かすでしょう。何か願いはありますか?」

アルジュナは再びシャンカラの足元にひれ伏し、先ほどまでの無礼の許しを求めた。シャンカラは彼の手を取って起き上がらせた。
「さあ、私に何を求めますか?」
「おお、神よ。どうかあなたの武器パーシュパタを授けてください。そしてあなたの本来の姿を拝見したいです」
「もちろんです。あなたに私のパーシュパタを与えましょう。それにふさわしいか見極める為にハンターの姿であなたを試しました。私は満足しました。あなたは十分ふさわしい。
このパーシュパタは悪者の手に渡れば危険な武器となり、世界を滅ぼす力となります。あなたを信用します。これが絶対的に必要な時以外はあなたは決して使わないでしょう」

シャンカラはパールヴァティーと共に真の姿を現した。
そしてアルジュナにパーシュパタを与え、それを放つマントラと、引き下げるマントラを教えた。

アルジュナはそれを大きな喜びと謙虚さを持って受け取った。
天と地がその出来事に喜んだ。
「あなたの父インドラが待っています。天界であなたを待っています」

インドラキーラ山がシャンカラ神の存在によって輝いていたが、突然その光が消えた。シャンカラ神は去った。

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