マハーバーラタ/1-32.司祭ダウミャ

1-32.司祭ダウミャ

カーンピリャへ向かう途中の深夜のことであった。
パーンダヴァ達は深い森を抜けてようやくガンジス河に出た。パーンダヴァ達は疲れた手足を冷やそうと川に入る準備をしていた。すると一人のガンダルヴァが現れ、怒りを露わにした。
「私はガンダルヴァのアンガーラパルナだ。ここにいるのは私の妻だ。なぜ今この川に入ろうとするのだ! 妻達と一緒に川に入っているのだから、お前らは入ってくるんじゃない! この川は私のものだ」
アルジュナはその横柄さとプライドの高さに怒りを感じた。
「聞いてください。海も、山の斜面も、川の水も、全ての人が共有するもののはずです。この川が自分のものだなんて、そんな自惚れたことを言うべきではありません。私達は強いですから脅しても無駄です」
ガンダルヴァはいらいらし始めた。
「時間を無駄にするのはやめろ。 すぐにここから去れ! さもなければ力づくで追い出してやる!」
「そんな愚かな振る舞いはやめた方がいいです。そちらが力づくで脅すなら、私もそうできますから」
ガンダルヴァは馬車に乗り込み、アルジュナに向けて矢を放ち始めた。しかしアルジュナはその矢を自らの矢で撃ち落とした。
「弓矢のことを知らない誰かに向かって放つなら、それは効果的でしょう。ですが、私には無駄です。あなたを超える弓使いですから。あなたの矢は水面に泡を作るだけで、それは子供のお遊びです」
それでもガンダルヴァは次々と矢を放った。

アルジュナは仕方なく火の神アグニが宿るアストラ、アグネーヤ・アストラを放った。それは火の粉をまき散らしながらガンダルヴァの馬車を燃やした。そして馬車の中から彼を引っ張り出した。
ガンダルヴァの妻達がユディシュティラの足元にひれ伏して慈悲を求めた。
アルジュナは兄の指示でガンダルヴァを解放した。
彼は今、改心していた。
「私はたった一人の人間に打ち負かさてしまいました。今まではチットララタ(光り輝く戦闘馬車の人)の名で呼ばれていましたが、これからは自分のことをダグダラタ(燃やされた戦闘馬車の人)と呼んでもらうことにします」

ガンダルヴァはパーンダヴァ達と友達になりたいと願った。戦闘馬車を燃やしたアストラをアルジュナから習い、代わりに三つの世界で起きていることが見える力、チャークシュシーヴィッデャーをアルジュナに与えた。さらに疲れを知ることのない美しい馬を与えた。
そして、パーンダヴァ兄弟が生きていたことを知り、彼らに提案した。
「あなた方はこの地上の統治者になるのですから、クラグル(家族の先生)を持つべきです。位の高い聖職者を傍に置き、そのブラーフマナの忠告を助けとして、あなた方のお父様のようにこの地上を統治すべきです」
「誰かふさわしい人を知っていますか?」
ダウミャという隠者がいます。彼がふさわしいでしょう」

アルジュナは彼に感謝して話した。
「あなたが私に与えてくれた馬ですが、今はあなたの元に残しておいて下さい。私達兄弟の暗い日々が終わる時、必要となる時が来ます。その時まで預かっておいてください」
彼らは愛情のこもった別れを告げ、ダウミャの元へ向かった。

ダウミャは彼らの慎ましさとその謙虚な振る舞いに喜び、クラグルとなることに同意した。
パーンダヴァ達は次第に黒い雲が晴れていき、心が軽くなっていくのを感じた。ヴャーサの言葉によると大きな幸運が待っているというパーンチャーラへ急いだ。

(次へ)


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