マハーバーラタ/7-6.ドローナを突破するアルジュナ

7-6.ドローナを突破するアルジュナ

14日目の朝となった。

クリシュナに続いて全員がユディシュティラのテントに集合した。

ユディシュティラはクリシュナに尋ねた。
「よく眠れましたか?」
「ええ。そうですね。
あなたの落ち着いた顔を見ていると、今日は何も不幸なことが起きないということが分かりますよ」

この日がとても重要な日であることを全員が理解していた。

ユディシュティラはさらにクリシュナに向かって話した。
「クリシュナ。
あなたはきっとアルジュナの誓いを達成させてくれる方法を考え出してくれたに違いない。
あなたが御者としてアルジュナを導いてくれるのだから、きっと成功するはずです」
「もちろん。アルジュナこそ最高の戦士です。
勇敢さ、戦いの技術、彼がマスターした全ての神聖なアストラ、この高貴な顔、豹のような歩き方。一体誰が彼を止められるでしょう?
きっと今日は敵軍を焼き尽くし、ジャヤドラタと共にドゥルヨーダナ軍の背骨は砕け散るでしょう。
私がいます。全力で彼を助けます。彼を失敗させません。
どうぞ確信していてください」

そこまで話した時にアルジュナがテントに入ってきた。
アルジュナもまた落ち着いた表情であった。
ユディシュティラは彼を抱きしめ、近くに座らせた。
「あなたの表情で分かります。幸せそうだ。クリシュナも同じだ」

アルジュナは昨日の夢の話を始めた。
クリシュナと共に偉大なシャンカラにあったという話を聞いて皆がわくわくし、感動した。
アルジュナの誓いが果たされることを皆が確信した。

クリシュナは戦闘馬車の準備を整え、アルジュナを迎えた。
「準備はできた。さあ、アルジュナ、行こう!」

アルジュナはインドラから授かった金色の鎧を身に着け、
天の宝石で飾られた金の王冠が頭に乗せられた。
白馬に導かれる金色の戦闘馬車の中に座るクリシュナとアルジュナの姿は見事な光景であった。
朝の太陽がハヌマーンの旗の上で輝いていた。

戦場への行進が始まった。

アルジュナがサーテャキの所へ行って話しかけた。
「サーテャキ、頼みがある。とても重要な任務だ。
ドローナがドゥルヨーダナに宣言した約束のことを覚えているか?
私は今日ジャヤドラタを殺す為に敵軍の奥深くまで侵入するが、
一方で兄ユディシュティラがドローナに捕らえられてはならない。
私の代わりに兄の護衛を任せられるのはサーテャキ、あなたしかいない。
クリシュナの従兄弟であり、アルジュナの弟子であるあなただ。
あなたが兄を守ってくれるなら、私は安心して前線へ向かえる」
「任せてください。
どうぞ私の手にあなたの兄の安全を委ねて前線へ行ってください」
「頼んだぞ」

一方、カウラヴァ軍ではドローナがジャヤドラタに話しかけていた。
「心配無用だ。あなたを守る為の最高の陣を敷いた。
神々でさえあなたの所までたどり着くことはできないはずだ。
アルジュナを恐れなくても大丈夫だ。安心しなさい。
あなたは明日の日の出を見ることができるだろう」

ドローナは三重の陣形を整えた。
第一の陣形、シャカタヴューハ(楔の陣形)の口にはドゥルヨーダナの弟ドゥルマルシャナが配置された。彼はアルジュナに立ち向かえると自負する戦士であった。
第二の陣形、パドマヴューハ(蓮の陣形)を守るようにドローナは外で待ち構えた。
第三の陣形、スーチームカヴューハ(針の陣形)にはブーリシュラヴァスラーデーヤアシュヴァッターマーシャルヤ、ヴリシャセーナ、クリパが配置され、その最も奥にジャヤドラタが配置された。

一番遠くに配置されたジャヤドラタからもアルジュナが進んでくる様子が見えた。彼にとってはアルジュナの姿がまるで死神ヤマのようであった。

アルジュナの戦闘馬車は広大な平原で停められた。
ほら貝デーヴァダッタを吹き鳴らした。
クリシュナのほら貝パーンチャジャンニャも吹き鳴らされた。

これまでに毎日聞いてきたはずのその音色は敵軍に恐怖を与えた。
「クリシュナ、ドゥルマルシャナのいる所へ向かってくれ。
まずは最初のヴューハを打ち破る!」

クリシュナが運転する戦闘馬車はドゥルマルシャナが配置されているヴューハの口部分に向かった。

アルジュナが敵軍に向かって矢を放つ速さがあまりにも速すぎて、矢筒から矢を手に取って弓から放つまでの動作が全く見えないほどであった。

カウラヴァ軍は誰もアルジュナの猛攻撃に耐えられず、ドゥルマルシャナは逃げ出した。
ドゥッシャーサナが象軍を連れてアルジュナに挑んだ。
しかし象の軍隊はあっという間に蹴散らされた。
アルジュナがドゥッシャーサナを挑発した。
「ドゥッシャーサナ。いつもの勇敢な言葉はどうした?
やってみなさい」
ドゥッシャーサナはそれ以上アルジュナと戦うことができずに逃げ去った。

こうしてアルジュナは第一のヴューハを突破した。

アルジュナは第二のヴューハの外側で守っているドローナに接近した。
「ドローナ先生。私は息子の死に報いる為にジャヤドラタを殺すことを決めました。
あなたはかつて私に言いました。アシュヴァッターマーと同じくらい私のことを息子のように思っていると。今でもそう思ってくれていることを期待しています。
どうか私を祝福し、この恐ろしいヴューハに入らせてください」

ドローナは笑った。
「アルジュナ、私を倒さずにこのヴューハに入ってはならない」

アルジュナは仕方なく先生に向けて矢を放ち始めた。
二人の英雄は激しく戦い、お互いに一歩も引くことはなかった。
周りの者達もその素晴らしい戦いに見入ってしまっていた。

アルジュナはドローナの弓を破壊し、馬と御者を傷付けたが、ドローナも勇敢に戦い続けた。
決着がつくことなく時間が過ぎていった。

しばらくその戦いを見ていたクリシュナがアルジュナに話しかけた。
「時間が羽に乗って過ぎて行っている。
それ以上あなたの先生との戦いに時間を使っていてはジャヤドラタの所までたどり着けない。
その人と戦うのは止めてパドマヴューハへ向かおう」
「クリシュナ。その通りだ。頼む」
クリシュナは微笑んで戦闘馬車の向きを変えた。
アルジュナの戦闘馬車はドローナの周りを回った。
それは敬意の挨拶プラダクシナであった。

アルジュナは先生に微笑んだ。
「先生。私は行かなければならないのです」
ドローナは軽蔑の微笑みでその言葉を迎えた。
「アルジュナ、私に何を見せようと? 敵を倒さずに逃げるつもりか?」

アルジュナはドローナから離れながら叫んだ。
「ドローナ先生! 父は息子に怒らず、先生は弟子に怒らないはずです。
私は自分の道を進みます。弟子がうまく行くよう祈ってください」
そよ風に乗ったその言葉はドローナの元へ届いた。

アルジュナは先生の許しを得ずに次のヴューハの中に入って行った。

アルジュナは背後から追ってくるドローナから逃げながらも、
前方のクリタヴァルマー、カンボージャ王スダクシナ、シュルターユスが率いる大軍と戦った。
クリタヴァルマーがアビマンニュを取り囲んで殺害した6人のうちの一人であることを知っていた。アルジュナの怒りが彼に向けられ、激しく攻撃した。

クリシュナが話しかけた。
「アルジュナ。時間がない。彼が私の甥であることなど気にかけなくていい。早く倒すんだ」
アルジュナは激しく攻撃し、クリタヴァルマーは気を失った。

カンボージャ王スダクシナがアルジュナに挑んだが全く歯が立たなかった。

次にやってきたのはシュルターユダという名の王であった。
彼はヴァルナ神から授かった最強の鎚矛を持っていた。
その鎚矛を手に持っている限り誰にも負けることがないとヴァルナは彼に言っていた。ただし決して武器を持たない者に向けてはならないという忠告も受けていた。もし武器を持たない者に向ければ自らを滅ぼすと。

アルジュナは彼に対して防戦一方となっていた。
運命の働きであろうか、シュルターユダの記憶は曇り、その鎚矛を投げつけた。
その鎚矛はクリシュナに向かって飛んだ。
クリシュナの肩に当たったが、全く傷付けることはなかった。
そして鎚矛は向きを変え、シュルターユダの方へ戻っていた。
それは猛烈な一撃となり、シュルターユダの体は破壊された。

再びスダクシナがアルジュナに挑んだが、今度は心臓を貫かれた。

それからアルジュナは敵軍から包囲されたが、全く臆することなく敵軍の破壊を続けた。

シュルターユスとアチュターユスの兄弟がアルジュナに挑んだ。
友を殺された二人は怒り狂って戦った。
その怒りはすさまじく、クリシュナに矢を当てて気絶させ、槍をアルジュナに突き刺した。
アルジュナは戦闘馬車の柱を掴んで立ち上がり、戦い続けた。
アインドラアストラを呼び起こしてこの兄弟を殺した。

カウラヴァ軍の中には逃げ出す者が現れ始めた。

アルジュナはさらに進んで行った。

(次へ)

いいなと思ったら応援しよう!

ひろさん@シャンティライフ
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!