マハーバーラタ/1-45.カーンダヴァの森の火事
1-45.カーンダヴァの森の火事
アグニが森を焼く音は遠くまで届いていた。
アルジュナとクリシュナはどんなものも森の中から逃がさないように周囲から見張った。飛び上がって逃げようとする鳥がいれば矢を放ち、燃え上がる炎の中に落とした。
森を焼く炎はもはや鎮火できないほど大きくなっていた。
天界では大騒ぎになっていた。アグニによってカーンダヴァの森が飲み込まれていると、インドラに知らされた。
神々はインドラにアグニを止めるよう頼んだ。
「アグニのやつ、また森を燃やそうとしているのか? 懲りない奴だ。それとも何か自信があるのか? 様子を見に行ってみよう」
天高くからインドラがカーンダヴァの森の状況を確認した。
アグニが森を焼き、自分の息子アルジュナがクリシュナと共にアグニを助けている。
インドラはその猛攻撃から森を守ることにした。
空は雨雲で真っ暗になり、雨が降り始めた。
雨は土砂降りとなり、さらに世界の終わらせるほどの大洪水となった。
アグニの火とインドラの水、それぞれが世界を滅ぼすほどの力を発揮していたが、それらはお互いに狙いを定め、拮抗していた為に世界は滅びなかった。
インドラの水が地面に着く前にアグニの火が蒸発させた。
インドラはお気に入りの雲、プシュカラとアヴァルタカを呼んだ。
巨大な雨の柱が地上に落とされた。
アルジュナは森の周りを矢で完全に覆い、一滴の水も森に到達できないようにした。
この火事の時、蛇の王タクシャカは森から離れていたが、彼の息子アシュヴァセーナと母は森の中にいた。
母はアシュヴァセーナに言った。
「息子よ、あなたは生き延びなければなりません。私がアルジュナの気を逸らすのでその時に逃げるのです。いいですか、これは母の命令です」
アシュヴァセーナは従うしかなかった。
母が空へ飛び上がった。それを見たアルジュナは彼女に向かって三本の矢を放ち、撃ち落とした。
その時インドラが突然の大洪水をアルジュナに向け、アシュヴァセーナを逃がすことに成功した。
アルジュナは蛇の王子を逃がしたことに怒り、インドラを攻撃した。
インドラは全てのアストラを駆使して戦った。
さらにヴァーヤッヴャ・アストラを放ち、火を消す為の大風を吹かせた。
しかしアルジュナもそれに対抗する方法を知っていた。
今、クリシュナとアルジュナはインドラに怒りを持って対抗していた。
戦いは恐ろしいものとなった。
インドラは限りある命を持つ人間に対してヴァジュラを投げつける決心をした。その姿を見た他の神々もインドラに協力し始めた。
ヤマは槌矛を、クベーラは棍棒を、ヴァルナは縄と、ルッドラは三叉の槍を持ち、天界の王に戦いを挑もうとしているその大胆な二人の人間を攻撃しようとしていた。
そこに集まったリシ達はその戦いを見て驚いた。
どちらも一歩も引かず、全く終わりが見えなかった。
その時、天界から声が聞こえた。
「インドラよ、止めるのだ。この火はもう消さなくてよいのだ。あなたの友人タクシャカはここにいない。彼の息子も無事逃げ出した。
あなたがこの二人を打ち負かすことは不可能だ。彼らはナラとナーラーヤナ。無敵の二人なのだ。自分の息子との戦いは止めるのだ」
インドラは戦うことをあきらめた。
そしてクリシュナとアルジュナの所へ行き、話しかけた。
「あなた達は人間でありながら、神々でさえ不可能なことを成し遂げた。私はむしろ嬉しく思っている。何か私に願うことはあるか?」
クリシュナは穏やかに頷いて微笑みながら立っていた。
アルジュナは自分の父親の姿を見て興奮していた。
そして足元にひれ伏して願いを伝えた。
「どうか私にあなたの持つアストラの全てをください」
「いいだろう。だが今ではない。シャンカラがあなたにパーシュパタを授ける時、私もあなたにアストラを授けよう」
そう言い残してインドラは天界へ帰っていった。
炎の中に捕えられていたマヤという名のアスラがいた。彼はなんとか火から逃げ出そうとしていたが、クリシュナに見つかった。
クリシュナがチャックラを手に取った時、マヤは絶望で叫びながらアルジュナの足元に駆け寄り、慈悲と同情を求めた。
「恐れる必要はありません。あなたを傷付ける気はありませんから」
火は何時間も燃え続け、森全体が灰となった。
アグニが彼らの所へやってきて礼を述べた。
「私は満足しました。あなた達のおかげで、ずっと抱いていたこの不可能な夢を叶えることができました」
彼は二人に祝福を与え、視界から消えていった。
クリシュナとアルジュナは体を冷やす為にヤムナー河へ向かった。
川の水から吹くそよ風はとても新鮮で、まるで母親が子供を抱きかかえるかのように彼らを癒した。
しばらく体を癒した後、二人はインドラプラスタへ帰る準備を始めた。
太陽は西の丘に届き、夜の雲を照らしていた。
今日も熱帯夜がやってくる。
彼らは急いで帰った。
第1章(始まりの章)終わり。
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