マハーバーラタ/4-2.ヴィラータへ潜入するユディシュティラ
4-2.ヴィラータへ潜入するユディシュティラ
ヴィラータへ潜入する前にしなければならないことがあった。
パーンダヴァ兄弟の持つ武器をどこかに隠しておかなければならない。
ユディシュティラは言った。
「さて、武器をどうしましょうか。これらを持って町に入ったら間違いなく目を付けられて騒ぎになります。世界中がドゥルヨーダナのスパイでいっぱいだと考えるべきです。特にアルジュナが持つ神の弓ガーンディーヴァは有名すぎる。これからの一年間は誰もお気に入りの武器を手にするべきではないだろう。どこか安全な場所に一年間隠しておかなければ」
アルジュナが言った。
「この町の向こうに焼き場があります。そこには巨大なサミの木があって、一見恐ろしそうな雰囲気があります。きっと人はあまり通らないでしょう。私達の武器を皮で包み、死体に見せかけて高い枝から吊るすというのはどうでしょう? それを調べる勇気を持つ人がいるとは思えないから大丈夫でしょう」
ユディシュティラはその意見に賛成した。
自らの愛用の武器を手放すのは悲しいことだった。
アルジュナはまるで別れの挨拶のようにガーンディーヴァの弦を一度だけ鳴らした。
他の皆も目を湿らせながら丁寧に武器を包んだ。
ユディシュティラは天界の神々に祈った。
「おお神々よ。どうか私の声に耳を傾けてください。ブラフマージ、インドラ、クベーラ、ヴァルナ、ルッドラ、ヤマ、ヴィシュヌ、スーリヤ、チャンドラ、空間、土、火、風、全ての神々に祈ります。
どうか、あなた方のお力によって、ここにある私達の武器をお守りください。決して誰の手にも渡りませんように。
一年のアジニャータヴァーサの終わりには私かアルジュナが来ますのでその時にはお返しください。
ビーマが来て頼んでも、彼にだけは返さないでください。彼は短気で、いつもドゥリタラーシュトラの息子達に対する怒りに燃えています。一年が終わる前にこの武器を使おうとするかもしれませんが、どうかそれは止めていただくようお願いします。もしそれをしてしまえば私達はさらに12年間追放されてしまうのです。
私達はアジニャータヴァーサをやり抜いてからドゥリタラーシュトラの息子達と戦います。どうか私達に祝福をお与えください」
ユディシュティラは自ら木に登ってその包みを吊るした。
彼らは別れの涙を浮かべて抱き合い、嘆き悲しんだ。
そしてユディシュティラが弟達に声を掛けながら木から降りた。
その様子を何人かの村人が遠くから見ていた。
彼らの目にはこんな風に見えていた。
木の上に死体を置き、マントラを唱え、何やら儀式をしている。そして皆が泣きながらお互いを慰め合っている。そしてその傍にいる女性がまるで心が破れたかの如く泣きじゃくっている。
その村人達が近寄ってきた。ユディシュティラが彼らに説明した。
「この木の上に置いたのは母の遺体です。私達の慣習では葬式をしないのです。遺体を何年も吊り下げておくのです。もし誰かがこの遺体を動かそうものなら、その者には直ちに死が訪れると言います」
村人達はその話を信じて去っていった。
「サハデーヴァ、そこに牛の死骸がありますね。その皮を剥がして遺体を覆いましょう」
そしてパーンダヴァ達はその場から離れていった。
彼らはこれから始まる日々のことを考え始めた。
これまで彼らはずっと一緒だったが、これからはお互いに見知らぬ者として離れ離れになるのだった。それは彼らにとってはどんな修行よりも辛いことだった。
緊急連絡用の暗号としてのもう一つの名前を決めることにした。
それはジャヤ、ジャエーシャ、ヴィジャヤ、ジャヤッセーナ、ジャヤドバラであった。
夜が明け、川で沐浴を済ませた。
まず最初にユディシュティラが変装し、皆に別れを告げた。
ユディシュティラは王宮に向かい、王と面会することに成功した。
ヴィラータ王は気高い姿で現れた。その姿を見てユディシュティラはすぐにこの人物を気に入った。
ユディシュティラは大胆にも王に向かって進み、ひれ伏すこともせず、敬意も払わなかった。それはまるで王と王の対面のようであった。彼はただそこで立っていた。
ヴィラータ王はこの変わった人物を前に独り言を始めた。
「・・・なんなのだ、この人は? この国の王である私にひれ伏すことをしない。しかも私は不快に感じない。どういうことか? この立ち姿を見ていると、私の方が立ち上がって彼の前にひれ伏して迎えた方がよいとすら感じる・・・なぜだ? 彼の方がよほど高貴な、全世界の統治者となる為に生まれてきたような人物にすら感じる。ブラーフマナのような姿をしているが、歩く姿は完全にクシャットリヤだ。まるで虎のように歩く。私は彼に魅了されている。彼を喜ばせるべきだ」
ユディシュティラはさらに玉座へ近づいた。
王は玉座から立ち上がり、ユディシュティラの方へ進み、彼の手を取った。
「あなたのようなブラーフマナに会えて光栄です。私に何を求めますか? あなたが求めることをすることが私の幸せです」
ユディシュティラは手短に無駄なく、偽りなく、しかも真実を隠して話した。
「私の名はカンカ。インドラプラスタの統括者ユディシュティラの最高の友です。
サイコロゲームの結果、彼は弟達や妻と共に森で過ごすことになったということを知っているでしょう。私はユディシュティラと共に過ごしました。まさに彼の魂と呼べるほどの仲です。私も彼と同じくらいサイコロが好きです。今ではあの頃よりも格段に上手になりました。
そして今、彼は身を隠す期間に入りました。この運命に深く悲しんでいます。私は支援を求めてあなたの元へ来ました。あなたはその気高さにおいてユディシュティラに匹敵すると聞いたのです。
私には今、何もありません。父も母もいません。私を頼りとする人もいません。
私にとって幸せと悲しみは同じ重さとなりました。喜びも不快も私にとっては同じものを意味します。私はあらゆる望みから自由です。
私は幸せを探してあなたの元に来ました。私は得ることができますか?」
その言葉に感銘を受けたヴィラータの目は尊敬で満たされていた。
「あなたがここに来たことによって、この町は名誉ある町となるでしょう。あなたがいてくれれば私は幸せです。
私もサイコロがとても好きです。その技術も教えていただきたい。
どうぞ、この王国をまるで自分の物のように使ってください」
「いえ、私はそれを必要とはしていません。叶えてほしいのは一つだけです。私は他の者によって触れられた食べ物は食べません。そして夜に一度だけ食べます。一年間これをすることが私の誓いです。この奇妙な振る舞いをどうか不快に思わないでいただきたいのです」
ヴィラータ王はそれに同意した。
最初の面会はこうして終わった。