マハーバーラタ/1-7.サッテャヴァティーとビーシュマ

1-7.サッテャヴァティーとビーシュマ

カーシーの国からやってきたアンビカー、アンバーリカーの2人のお姫様とヴィチットラヴィールヤの結婚式が行われた。
彼はまだ若く、王としての役割が担えない為、いつも妻たちと一緒に過ごしていた。ハンサムで優しいご主人様と巡り会えた2人にとっては幸せであった。
しかし運命とは期待通りには進まないものであった。
若きヴィチットラヴィールヤは重い肺病を患ってしまい、最高の医者の技術も、国民の祈りも叶わず、彼を死から救うことはできなかった。
サッテャヴァティーは息子を2人とも失った悲しみと同時に、クル一族の跡継ぎがいなくなってしまったことで、心は打ち砕かれた。

消えてしまった火を再び灯す方法を考え、ビーシュマを呼び出した。
「デーヴァヴラタよ、見てごらんなさい。今や私には何の希望もありません。
夫には先立たれましたが、彼は年を取っていたので死に耐えることができました。チットラーンガダは殺されました。その死を受け入れる間もなくヴィチットラヴィールヤの死を知りました。まさに絶望です。
しかしそれでもクル一族の血統は続いていかなければならないのです。
血統を絶やさない方法はあなたにかかっています」
ビーシュマは義母の言葉に驚いた。
「独身を誓った私がクル一族の血統を保つ方法などあるのでしょうか?」
「ヴィチットラヴィールヤは子を残さずに逝ってしまいましたが、彼の妻たちはまだ若くきっと心の中には満たされない欲求があることでしょう。あなたが彼女たちを妻として迎え、クル一族の未来の子供の母とするのです。血統は続かなければなりません。これは多くの先祖たちによっても従われた方法なのです。これが唯一の方法です。あなたの息子がこのクル一族の正当な子孫となるのです。あなたがこの重要な役割を担わなければなりません」
自らの誓いの原因となったこの女性の本末転倒な提案に対して、ビーシュマは努めて冷静に、我慢しながら答えた。
「お義母様は突然降りかかった不幸に打ちのめされてそのような提案をしているのです。確かにそのような方法があるのは知っていますし、世間も認めることでしょう。
しかし、あなたが私にこの提案をするのは間違っているのです。私が王位と結婚生活を放棄したことを知っているはずです。あなたのためにその誓いを立てたことを忘れるはずがありません! 私が宣言したあの恐ろしい誓いをあなたは忘れてしまったのですか?
私の人生に女性が入る余地はありません。そんな私に、死んだ義弟の妻を娶るべきだと? きっとあなたは混乱しているに違いありません。そうでなければこんなことを私に提案したりしないでしょう。お義母様、こんなことを私に頼まないでください」
「ええ、あなたの誓いも、誓いを立てた状況も覚えています。あなたが私と父のためにあの誓いを立てたことも覚えています。しかし、デーヴァヴラタ、今は状況が違うのです。私の子供達は跡継ぎを持つことなく死んでしまったのです。このままでは一族が途絶えてしまうのです。最後の手段として提案しているのです。クル一族を絶やしてはなりません。
私はあなたの母です。母を喜ばせるのは子の務めです。あなたの誓いよりももっと大切なダルマなのです」

ビーシュマはずっと怒りをこらえていた。
彼の心の目には、過去の出来事がまるで露の一滴の中に映る景色のように蘇った。
母ガンガー。天界で過ごした幸せな少年時代。
先生からの教え。ブリハスパティとシュクラから学んだ政治学。ヴァシシュタから学んだヴェーダとヴェーダーンガ。バールガヴァから学んだ弓の技術。
父シャンタヌ。親子でありながら仲間のように過ごした4年間。ユヴァラージャの地位まで与えてくれた父。
そして現れたこのサッテャヴァティー。彼女の父の貪欲を満たすためにこの世の全ての喜びをあきらめた。あの瞬間年老いてしまったかのようであった。その後の人生はモノトーンであった。
アンバー。彼が織りなしていた白を黒の生地の上を行き来する赤い糸アンバー。彼女を不幸にしたのはあの厄介な誓い。あの誓いのせいで彼女を傷つけ、彼女から女性としての人生を奪ってしまった。バールガヴァ先生の頼みでさえ従わなかった。

そして今、それらの出来事の後で、義母は死んだ義弟の妻たちを娶りなさいと『命令』したのだ。
あまりの激怒に、震えおののく声で話した。
「お義母様、あなたは私の心の強さを知らないのです。私のダルマの堅さを知らないのです。私のことをまるで分っていません。あなたの命じたことが叶うことはありません。
大地がその香りを失ったとしても、水がその甘さを失ったとしても、太陽がその輝きを失ったとしても、月がその冷たさを失ったとしても、ダルマ神が正義を失ったとしても、私が真実の道から逸れることは決してありません!
私にとっての真実の道はこの世界で得られるどんなものよりも、天界で得られるどんなものよりも大事なのです。
世界がいつか終わったとしても、私の心の強さは決して終わることはありません。たとえ母の力をもってしてでも動かすことはできません。私はこの誓いのためにグルの命令さえも拒んだのです。あなたの言葉によって動かされることはありません。どうかこの馬鹿げた提案を思いとどまってください」

(次へ)


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