『死の骨董ー青山二郎と小林秀雄』/「解説」,宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』所収
『死の骨董』は永原孝道名義の評論作品。宇月原はファンタジーノベル大賞受賞の前年に、『三田文学』に掲載された「お伽ばなしの王様―青山二郎論のために」で第六回三田文学新人賞を受賞している。その後『三田文学』に掲載された二本の論考と併せて2003年に以文社から書籍化されたのが本書。評論家としての宇月原の代表作だ。
青山二郎(1901-1979)は稀代の目利きとして知られ、戦前の古陶磁ブームを牽引した骨董鑑賞家である。美術評論や音楽論を書き、「青山学院」と呼ばれた文壇のグループから白洲正子や今日出海など多くの弟子を輩出、深い交流のあった小林秀雄から「天才」と評されるなど伝説的な「畸人」として名高い。本作で宇月原は、青山と小林の骨董観を対置し、そこに二人の友情と決裂の動機を見出そうとする。宇月原によれば、青山にとっての骨董とは美術品である以前に、朝鮮半島と中国の植民地化によって市場に流れ込んだ大量の「物質」であり経済という「関係」そのものだった。一方の小林における骨董とは固定された「歴史」が結実した「死」としての美である。ここで論じられる〈生=関係〉と〈死=美〉の対立構造は、繰り返し後年の小説でも反復されることになる。
2019年に中公文庫として刊行された宇野千代(1897-1996)のエッセイ『青山二郎の話・小林秀雄の話』に宇月原晴明名義で書き下ろされた解説は、宇月原が青山について書いた16年ぶりの文章である。宇野が「ともに親交がありながら、小林の影も感じさせない青山を書けた 」ことに驚く宇月原のこの解説は、二人を「つらがってゐる処」から見ることを必然だと考えたかつての自己への応答としても興味深い。