仮想通貨に関連する発明を中国で特許出願する場合の留意点
仮想通貨に関連する発明を中国で特許出願する場合、日本に特許出願するのと違って注意しなければならないことがあります。中国では仮想通貨の取引、流通が法律法規で制限されているため、特許出願後の方式審査で、「法律に違反する」(専利法第5条第1項)と判断される可能性があるのです。
そこで、そのような拒絶をされてしまったときに、どのような対応が可能かを以下整理してみます。
1.専利法第5条第1項について
まず、専利法第5条第1項には、以下のように規定されています。
法律に違反する、社会道徳又は公共の利益を妨げる発明創造については、専利を付与しない。
2.専利法第5条第1項「法律に違反する」について
審査指南第二部分第1章3.1.1には、「法律に違反する」についての説明があり、それによると、「法律とは、~立法プロセスにより制定、頒布された法律をいい、行政法規や規章を含まない」と規定されています。
仮想通貨については、様々な「通知」や「公告」がされており、それらは「法律」ではない、より下位の文書であるため、当該拒絶に対し意見書で「法律に違反していない」とも主張できそうです。しかし、色々と調べてみたところ、中国の審査官は、上記の通知や公告に基づいて、「公共の利益を妨げる」ため専利法第5条第1項に違反すると判断しているらしいことが分かってきました。
よって単純に「法律」に違反しないことをもって、専利法第5条第1項違反に反論すると、認めれない可能性が高そうです。
3.どのように反論するか?
色々と調べた見たところ、審査官が2020年9月に発表した仮想通貨及び専利法第5条に関する論考が見つかりました。審査官の身分で発表した論稿ですので、実務でそういったコンセンサスが存在することが伺われます。それによると、専利法第5条第1項で拒絶する仮想通貨関連発明は、以下のようなものでした。
・仮想通貨による融資に関係する
・仮想通貨の取引に関し、仮装通貨の兌換方法を法定通貨以外にする
・仮想通貨の流通に関し、仮装通貨の流通が発行企業内に留まらず、発行企業が提供する商品又はサービスを購入すること以外に用いられる
よって、上記に該当しなければ、仮装通貨関連発明であっても、専利法第5条第1項に該当しないことを主張できそうです。
4.専利法第5条への対応よりももっと大きな問題
ところで、仮想通貨に関する発明を中国に出願する際には、より根本的な問題として、その権利が中国で将来使うことができるのか、ということも考えておかなければならないでしょう。現在のところ、中国の政策は仮想通貨を禁止する方向に動いており、仮に全面禁止になった場合、折角特許を取得しても、将来的に実施ができない、ということも起こり得ます。ただ、特許の保護期間は20年で、20年後の将来を予測することはその分野の専門家であっても難しいものです。一応のリスクを理解した上で、中国で仮想通貨関連発明を権利化するのかどうか、決める必要があるでしょう。
なお、中国で開始される計画の「デジタル人民元」は、中国の法定通貨である「人民元」をデジタル化したものであって、当該デジタル人民元は、ビットコインのような「仮想通貨」ではないとするのが、中国の一般的な考えのようです。